2022年1月20日発売の『&Premium』の特集は「」。狭いけれど落ち着く、古いからこそ趣がある、物が多くても、収納が無くてもときめく……。一見するとマイナスに思える要素も、アイデア次第でプラスに変えられることを、素敵な住まい手の皆さんに教わりました。ここでは、ヘアサロンオーナーの本山聖子さんの狭くても心地のいい部屋を紹介します。

NAME Seiko Motoyama  OCCUPATION Hair Salon Owner

 

長野市内で美容室を営む本山聖子さんの家はパリのアパルトマンを思わせるロフト付きの約33m²。 飾ってあるものは全部好きなもの。テーブルの上にも季節の花や果物、本などを欠かさない。

"私にしっくり”がいちばんの幸福感。

  新幹線が停まるターミナル駅から その家までは、緩やかに傾斜が続いていた。県内では標高が低いほうらしいが、それでもずいぶん上ってきただろうか。敷地にそびえ立つモミの木が見えてきた頃、また少し空気が薄くなったように感じた。

  美容室『Kanade(カナデ)』を営む本山聖子さんの住む家は、遠くの山まで見渡せる高台にあって、さらに居住スペースは2階。玄関のドアを開けたらすぐ目の前に階段が現れ、上るとロフト付きのリビングに着く。南向きの窓から午前の光が差し込む部屋で、黄色やオレンジ、春を呼ぶ色合いの花がふんわりと揺れていた。たくさんの本や雑貨は、重なり 合い、肩を寄せ合って並ぶ。

「リビングは好きなものを好きなようにする、家の中ではいちばん自由なスペースです。雑誌や本、キャンドルやポストカードなどの小さな雑貨が好きで。それを全部、手をのばせばすぐ届く場所に飾っています」。備え付けの大きなクローゼットはあるが、たくさんの"好き"に囲まれていると心が解放されるのだという。だから、あえてしまわずにいる。

「たとえばお皿は食事をするときに使うものというふうに決めてしまうのがもったいないと思ってしまうんです。きまりにとらわれる必要があるのかなって」。そう言われればたしかに本山さんを取り囲むものは、大きさや形や色がほとんど揃っていない。でもだからこそまた目に楽しくて幸福感に包まれるのだろう。

「それでも、『こちらを向かせたほうが落ち着くな』とか『この組み合わせがしっくりくる』というふうに、ゆる~くではありますが(笑)、私なりに腑に落ちるバランスを取りながら並べるようにしています」

少し奥まったスペースを「ソファの部屋」に。手前の鉢の木は残念ながら枯 れてしまったが、帽子を引っ掛け、オーナメントを吊るしてみたらまた新しい景色 になった。
ソファ脇のテーブルに無造作に置かれたアクセサリーは日々身に 着けているもの。
休日のティータイムは心安らぐ大切なひととき。本日のお 茶菓子には松本の老舗洋菓子店『マサムラ』の天守石垣サブレを。
いまはも う乗らなくなった〈ラレー〉の自転車を室内にひっぱりこんでディスプレイ。

新しいものや機能的なものの扱い方に迷ってしまう不器用なほうだから、気づけば古いものが増えていた。

「フランスの照明やハンガリーのテーブル、文机やカリモクの椅子などはいずれもかなり以前のものです。譲っていただいたものも少なくなくて、ていねいに繕いながら使い、いずれ誰かに継承することを想像すると、心も時間も凪ないでいきます」

仕事で帰宅が遅くなるので、家で過ごす時間は多くない。だからこそ 居心地のよさを損ないたくなくて、"気持ちいい"に忠実でいる。

「最近思うんです。つまるところ家、暮らしなんじゃないかって......」

もしもこの部屋が広かったら、本山さんは、たぶんここに住んでいなかっただろう。"好き"と身を寄せ合える、小さな暮らし。そこにしかない幸せがある。

フィンランドのガラス工芸家、ナニー・スティルの作品を少しずつコレクションに加えている。自然光を受けるカウンターの上に並べ、美しさを堪能。
朝いちばんの掃き掃除が日課。活躍するのは〈ビエルタ〉のダストパンセットと、オストリッチの羽根ばたき。
ロフトにはベッドとキャンドルと数冊の本だけ。夜になるとこのキャンドルだけ灯して、静けさに身をゆだねる。
窓から見える、小布施、須坂方面に見える山並み。ここの標高の高さがうかがえる。雨上がりの朝だったから、空にはまだ大きな雲がとどまっていた。
玄関は 1 階、生活スペースは 2 階に位置。 三角屋根の建物ゆえに、ロフトの天井が斜めになっているところが気に入っている。

  PROFILE

本山聖子 ヘアサロンオーナー

国内、ミラノのヘアサロン勤務後、長野市内にヘアサロン『Kanade』を開く。2022年春、国内外で選んだ商品を取り扱うオンラインストア『semeno』をローンチ。

  掲載号はこちら

photo : Ayumi Yamamoto illustration : Shinji Abe (karera ) edit & text : Koba.A