Fernando Botero

フェルナンド・ボテロ Fernando Botero
1932 – / COL
No. 103

コロンビア共和国メデジンに生まれる。幼い頃より絵に親しむも父を亡くし貧しい家庭で育つ。新聞のイラストレーターとして働き始め、1952年からヨーロッパに渡りマドリードのサン・フェルナンド美術学校、次いでフィレンツェのサン・マルコ美術学校、フィレンツェ大学美術学科などで美術を学ぶ。1955年に帰国、その翌年にはメキシコ・シティに移り、『マンドリン』を描いていた時に形態のボリュームを膨張させるという着想を得る。1957年からニューヨークに進出し、やがて自己の作風を確立して高い評価を受ける。1973年パリに居を移し1977年までは彫刻制作に没頭する。1981年西武美術館の個展のために初来日。ヨーロッパの古典芸術を参照にしながら、対象物をぽってりと誇張する”ボテリズム”を表現し続けている今年90歳となった世界的に有名な現役の画家である。

ふくよかな絵で知られる南米の画家
フェルナンド・ボテロ

南米コロンビア出身の画家といえば、日本ではおおかたこの人しか知られていないはずです。フェルナンド・ボテロ。今年90歳を迎えた現役の画家であるのですが、個人的にはまずそのことに驚いてしまいました。今現在東京で行われている展覧会「ボテロ展 ふくよかな魔法」(実に26年ぶりに日本国内で開催される大規模絵画展である)は、その多くが日本初公開となる全70点から構成された展示となっていて、知ってそうで知らなかったこの画家に対する新たな発見のある興味深い内容となっています。

ボテロ絵画を特徴づけているのは、丸くてぽっちゃりとした顔や身体、人だけでなく静物画にしても果物や楽器などふくよかに膨らませて描くというところにあります。この画家自身が太っているのかといえばそうでなく、本人の言葉によれば「ボリュームを表現することで、芸術的な美を表現することを目指している」のだそうです。同じようにボリューム感のある人物を描くことで知られる画家として、ルーベンスやピカソ、そして有元利夫もふっくらとした人物を描いていますが、ボテロの描く人や静物は、風船のように空気を入れて膨らましたかのようでもあり、遊び心とポップな色彩もあってユーモラスでどこか軽やかさがあるというのが前述した彼らのスタイルとの違いかもしれません。

アメリカの画家でイラストレーターでもあったノーマン・ロックウェルのような大衆性、またはアイロニーが感じられる風刺、そして小さな子供でも楽しめるような明快さがあり、小難しい現代アートと少し距離を置いたところで世界中に多くのファンがいます。ぼく自身も美術大学に入りたての頃には、ボテロの絵画や版画を通学途中のギャラリーのウィンドウ越しによく見かけていたので、当時の自分にとっても絵画の魅力や面白さをわかりやすく教えてくれた最初の画家であったのですが、同じスペイン語圏出身のピカソのラジカルさや面白さに自分の興味が移っていくにつれ、次第にボテロの影がだんだん薄くなっていったのです。

それでも、本当に久しぶりにちゃんと観ることのできたボテロの作品群は、有無を言わせずどれも魅力的なものばかりです。加えて、ボテロが中世イタリアの先駆的な画家として知られるピエロ・デラ・フランチェスカのことを若い時からずっと崇拝し、今もその気持ちが変わらないまま制作をしているということを解説で知り、ボテロに俄然興味を抱いてしまったのです。今回の展示にもそのピエロが15世紀後半に描いた2点組の傑作『ウルビーノ公夫妻の肖像』へのオマージュがあり、ボテロがこの作品に対していかに特別な気持ちと尊敬を抱きながら描いたかを想像してしまいました。他にも、現代風の洋服を着た少年時代キリストを抱いた『コロンビアの聖母』や世界初公開となる『モナ・リザの横顔』、縦2.4mもある一口だけかじられて小さな虫が顔を覗かせているボリューム感あふれる『洋梨』など力作が目白押しなので、是非とも会場に足を運んで包容力に満ちたボテロ作品をご覧になっていただきたいものです。

Illustration: SANDER STUDIO


『フェルナンド・ボテロ』(タッシェン・ジャパン)極めて独創的な「ふくよかな世界」を表現するボテロの作品の数々を、多数の図版を交えながら紹介する一冊。

展覧会情報
『ボテロ展 ふくよかな魔法』
会期:開催中 〜2022年7月3日まで
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1F
https://www.ntv.co.jp/botero2022/
今後の巡回予定
名古屋市美術館 : 2022年7月16日(土)〜9月25日(日)
京都市京セラ美術館: 2022年10月8日(土)〜12月11日(日)


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。この連載から派生した『芸術家たち 建築とデザインの巨匠 編』(アカツキプレス)を2019年4月に出版、続編『芸術家たち ミッドセンチュリーの偉人 編』(アカツキプレス)が2020年10月に発売となった。