読書は情報を得るだけや、単なるエンターテインメントだけではなく、自身の人格に"体験”を積み重ねていくのだと&Premiumは思います。11人の読書遍歴と本棚を紹介した2022年8月発売の特集「いい本との、出合いは大切。」より、俳優、歌手の上白石萌音さんをつくってきた本を紹介します。

心の健康に与する。 人生に、読書は必要。

 図書館ではつねに上限いっぱいの冊数を借りていたというほど、幼少時から読書が大好きだったという上白石萌音さん。本は一緒に楽しく遊ぶ相手でもあり、すがるようにして飛び込む先でもあった。
「私にとって、本は友達。何か辛いことがあっていったん忘れたいとき、本は最高の逃げ道にもなってくれます」
 時代も国も飛び越えて、別次元へ。それは自身の健やかさを保つのに欠かせない、大切な時間だ。

『赤毛のアン』シリーズは中学生時代にほとんど読んでいたが、友人が海外で買ってきてくれた原書『Anne of Green Gables』を手にしたのは高校生の時。自分が翻訳することになるとは当時は思っていなかったけれど、ずっと手元に置いていた。じつは学生時代、翻訳家に憧れていたという。
「今回、実際に翻訳をしてみてとても大変な仕事だということがよくわかりました。職人技とセンスのどちらも必要だし、翻訳次第で読者の作品に対する印象が変わるので、責任重大です」
 ミュージカルでアンを演じたこともある上白石さん。読者として、演者として、そして翻訳者として、これほど多角的にアンを見つめた人もそういないだろう。
「想像力が豊かだからこそ、嬉しいことも悲しいことも倍になってしまう。アンは決して生きやすい子ではないかもしれません。でも、それだけ感情を揺らしながら多感に成長し、若い子たちを育てるためにその感性を使う、アンの生き方は素敵です」
 
 大好きなヨシタケシンスケの著書のなかでも特に好きなのは、『あつかったら ぬげばいい』。
「優等生じゃない自分を、これでいいんだって大事にしたくなる、お守りみたいな本。子どもが読んでもわかるけれど、本当にわかるのは、酸いも甘いも経験した大人になってからだと思います」
 上白石さんは大量に読書する一方、漫画にはほとんど触れてこなかった。それなのに、お気に入りの書店でジャケ買いしてしまったのが『おむすびの転がる町』だ。
「読んでみたらドンピシャに好みだったんです。エッセイ的だけれどすごいファンタジーの、変わった漫画。漫画の自由さを知り、以降は漫画を積極的に読むように」
 ネットも利用するけれど、やはりこういう偶然の出合いは、書店に足を運んでこそ広がる世界、と上白石さん。

翻訳に興味を持つきっかけになった『Anne of Green Gables』、漫画の世界への入り口になった『おむすびの転がる町』。『あつかったら ぬげばいい』は「とっても器の大きな絵本。友達にもよくプレゼントして布教しています(笑)」。

『チャックより愛をこめて』は、夢だった『徹子の部屋』にゲスト出演することが決まり、「徹子さんの著作を読み漁ったなかで、いちばん好きだった」本だ。
「徹子さんの文章ってやわらかくて、まるでお話ししているみたい。文章が生き生きしていて、本も生きているんだなって。役者である前に、ひとりの人間として魅力的でありたいというのは、私もつねづね思っていること。書いてあることにめちゃくちゃ共感できて、これからもきっと繰り返し読んでいくと思います」

 この夏に出演する舞台『ダディ・ロング・レッグズ』では、名作をたくさん読んで勉強する女の子・ジルーシャを演じる。「だから彼女が読んだ本を、私も読んでみようと思って。世界名作強化月間を、ひとりで開催中なんです」
 その皮切りとなったのが『老人と海』。「私も一緒に漁に出た気分になって、読み終わらないと海のなかで死んでしまう気がして」、一気に読んでしまった。
「夢中で読んだあとに、たくさんの余韻とメッセージが残る。読み継がれる名作には理由があるんだと、改めて思いました」

2019年に新装版が出て人気再燃中の『チャックより愛をこめて』。『老人と海』は、TBSラジオのポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』でふたりが解説しているのがおもしろく、その場ですぐネット購入した。

遊び相手であり、頼みの綱。世界を広げてくれる、大事な友達。

 そして目下、読んでいるのが『ジェイン・エア』。
「どんな恋愛ドラマよりもキュンキュンします。人が人をどんなふうに好きになり、どんなふうに嫉妬するか。言葉にできない機微が全部表現されていて、恥ずかしくなるくらい共感できる。恋愛だけではなく、ひとりの女性が自立して強く生きていくなかでの心理描写が、とにかくすごい」
 知らなかったことを教わって、新しい視点を得ることもある。自分の気持ちが文章化されていて、認められたようでほっとすることもある。本は現実逃避の手段にもなるが、反対に、思わぬかたちで日常生活に還元されることも。だから、読書はやめられない。
「私は、本を読む人生でよかった。もっともっと、いっぱい読みたいなと思います」

MY BOOKSHELF たくさん本を持っている上白石さん。「本棚についに入りきらなくなって、これはセカンド本棚の、大切な本を並べた一角」。大好きなさくらももこが挿絵を描いている希少な古本『アミ 小さな宇宙人』は、たまたまネットで見つけて手に入れたそう。

MY BOOK LIST

16歳
Anne of Green Gables

L. M. Montgomery 著 BANTAM BOOKS USA

児童養護施設から引き取られ母になるまでのアン・シャーリーの物語は映画や舞台、漫画やアニメ化もされた。このほど自身が翻訳に初挑戦した『翻訳書簡「赤毛のアン」をめぐる言葉の旅』(NHK出版)が発売。

22歳
あつかったら ぬげばいい

ヨシタケシンスケ 著 白泉社

「大人でいるのに疲れたら」「話が退屈だったら」「だれもわかってくれなかったら」など、さまざまな素朴な疑問に一問一答形式で答える、心を緩めてくれる絵本。クスッと笑えて気持ちが楽になる。

22歳
おむすびの転がる町

panpanya 著 白泉社

熱狂的なファンの多いpanpanyaの、不思議と日常が入り交じった短編16編と日記が併録。本物のおむすびころりんを目撃した主人公が、おむすびころりんの攻略を描いた表題作はじめ、漫画も文章も味わい深い。

23歳
チャックより愛をこめて

黒柳徹子 著 文春文庫

改めて演劇の勉強をすべく、仕事を休んでニューヨークへ。長期休暇、海外生活、一人暮らしと初めてずくめの留学先で綴った著者の初エッセイ。初版は1979年だが、未だ古びず、みずみずしい。

24歳
老人と海

アーネスト・ヘミングウェイ 著 高見 浩 訳 新潮文庫

ノーベル文学賞とピュリッツァー賞を受賞した巨匠・ヘミングウェイの不朽の名作。老漁師とカジキの数日間にわたる死闘を通じて、自然の脅威と人間の精神を描く。1952年刊行。

24歳
ジェイン・エア

(上・下)

シャーロット・ブロンテ 著 河島弘美 訳 岩波文庫

1847年刊行。自らの信念と感情に従って考え行動することで、ひとりの女性が自立して強く生きていく物語。当時のヴィクトリア朝的雰囲気が濃厚にありながら、今なおジェインの生き方は共感を呼ぶ。

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※『&Premium』No. 106 2022年10月号「INSPIRING BOOKS / いい本との、出合いは大切。」より


俳優・歌手 上白石萌音

1998年鹿児島県生まれ。NHK朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』では初代ヒロインを務めた。ニューアルバム『name』を発売したばかり。著書に『いろいろ』(NHK出版)。