足を運べばいつも、思いがけない偶然の出合いと新たな発見がある、そんな魅力を持った本屋。どんな本を選び、どう並べるか……そこにはきっと、店主のこだわりが感じられるはず。2022年8月発売の特集「いい本との、出合いは大切。」より、作家・山内マリコさんにお気に入りの本屋へと案内してもらいました。

 

VISITOR

 山内マリコ 作家  

SHOP

 エトセトラブックス BOOKSHOP 東京・新代田

山内マリコさんと話すのは、『エトセトラブックス BOOKSHOP』店長で選書も担う寺島さやかさん。コーナー名は掲げていないが、フェミニズムを学問的に学べる専門書や入門書、イギリスやアメリカなど国別にまとめたエリアなど、寺島さんが選んだ書籍がテーマごとにぎっしりと並んでいる。「フェミニズムの隠れた名著を次の世代に渡そうという意志を感じます」と山内さん。

"女性の声"を通して、気づきと力を与えてくれる。

 

女性とアート、妊娠と出産などをテーマにした作品も、地続きに並べられている。
フェミニズムの入門編となる書籍を集めた一角。「漫画『卒業式』(集英社)は、1990年代半ばに発表された作品集。現代の#MeToo運動を先取りした表題作のほか、賢く勇敢な主人公に胸躍る名編ぞろい!」と山内さん。下段中央には、女性学の第一人者として知られる、田嶋陽子の名著『愛という名の支配』(太郎次郎社)も。山内さんが3年前、作家の柚木麻子とともに雑誌『エトセトラ』で田嶋陽子を特集したことをきっかけに、3年経った今も並べている。

伝えられなかった声を受け取り、自分ごとに。

 女性であるがゆえの不安や焦り、社会への違和感に直面したとき、上野千鶴子の本を読み、フェミニズムに開眼した山内マリコさん。訪れたのは2021年開業のフェミニズム専門書店『エトセトラブックス BOOKSHOP』。”まだ伝えられていない女性の声を届ける”を掲げた本屋だ。
「代表の松尾亜紀子さんとはもともと、作家と担当編集者という関係。独立され、フェミニズムの出版社『エトセトラブックス』を立ち上げられてから、事務所に伺う機会がありました。そこの本棚には、フェミニズムの本がびっしり! 大正・昭和に活躍した女性運動家・山川菊栄の評論全集など、知らない名著も多く、背表紙を眺めているだけでわくわくしました。私は大学で女性学を専攻したわけではなく、目覚めたのは20代の終わり頃。理解を深めるには、本が不可欠です。出版社でありつつ、書店というオープンな形に展開されたのは、コロナ禍真っ只中のこと。あの状況下で誰でもアクセスできる場を作ってくださったのは本当に素晴らしい。フェミニストであることを全面的に肯定してくれる、とても貴重な場所です」
 壁一面の棚にはフェミニズムの視点を通して選ばれた小説、詩集、漫画、エッセイ、学術書、アート本など2000冊以上の本が並んでいる。
「新刊だけではなく、外国の本、貴重な古本と出合えるのもうれしい。榛野なな恵さんの漫画『卒業式』もそのひとつ。中学生の主人公が、性加害を繰り返す権力者を告発するという内容で、絶版のため、紙の本は古本でしか手に入らないのですが、在庫を切らさないよう常に置いているそう。また、知っていた本もここに並んでいると『フェミニズムなんだ』と新しい発見にもなります。たとえば”女同士で暮らす”というテーマの本棚に『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』や漫画『るきさん』が並んでいるのも面白いです」
 

 

フェミニズム文学の裾野を広げる韓国書籍コーナー。
山内さんが購入した本。『時代を告げた女たち』(柘植書房新社)は、政治的な題材で表現を続けた”反骨の画家”富山妙子が編集。ジェンダー研究などの視点で手芸を考察した『現代手芸考』(フィルムアート社)やトニー・モリスンなど女性作家30人を紹介した洋書『LITERARY WITCHES』(文学の魔女たち)も。
「絵本や写真集も楽しめます」
新代田駅から徒歩1分の場に。

 選書やディスプレイを担うのは、オープン当初から店長を務める寺島さやかさん。以前勤めていた書店でフェミニズムコーナーを作ったことがきっかけで、松尾さんから声をかけられた。
「大きく謳われていなくても、読んでみると『まさにフェミニズムだ』と思う本があります。だから、作家自身も気づいていない意思を汲み取るつもりで選んでいます。フェミニズムは昔からあって、残念なことに絶版になっている場合も多いですが、古い漫画やエッセイにもその精神が息づいていたことを伝えたい。『こんな場所ができるなんて思ってなかった』と年配のお客様から、貴重な本を譲っていただくこともあり、ここは同じ思いを抱く人とつながる場所なんだと実感しています」と寺島さん。そうして、集められた本は作者の国籍も時代も超え、ゆるくつながっているように見える。そのゆるやかさがあることで、”とっつきにくい”と思われがちな、フェミニズムと私たちの距離をぐっと近づけてくれる。
「おしゃれな洋書も気軽に読める本もある。どんな人もフェミニズムとの接点を持ちやすく、自分ごとに感じられると思う」と山内さんは言う。
 フェミニズムはまず女性のためのものであると同時に、生きづらさを抱えるすべての人の力になる。そのためにも知ることが大事。得た気づきや知識は、人に寄り添う手にもなるだろう。ここは、一歩を踏み出そうとする人、知識を深めたい人、それぞれにフィットする言葉が見つかる空間だ。

   

etc. books BOOKSHOP

東京都世田谷区代田4−10−18 ダイタビル1F 12:00〜20:00 日月火水休 https://etcbooks.co.jp/bookshop

フェミニズム専門出版社に併設。セレクトした本以外に、自社で発行しているフェミニズムマガジン『エトセトラ』、オリジナルTシャツなど、グッズも販売している。

  掲載号はこちら

photo : Shinsaku Kato text : Mariko Uramoto
※『&Premium』No. 106 2022年10月号「INSPIRING BOOKS / いい本との、出合いは大切。」より


作家 山内マリコ

1980年富山県生まれ。2012年『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)でデビュー以降、女性同士の友情や地方都市の閉塞感を描く。『あのこは貴族』(集英社文庫)など映像化された作品も多数。最新刊に『一心同体だった』(光文社)。