誤解を恐れずに書くと、作品には“テーマ”が必要だ。ここでいう「テーマ」とは別に「メッセージ」のことではない。「メッセージ」が「テーマ」になることもないではないが、それがすべてではない。「テーマ」とは、作品に統一的なフォルムを持たせるために必要な「原則」といってもよい。あるいは、船=作品を目的地(作品の完成)まで導くための手がかりとなる、北極星のようなものといってもいいかもしれない。

「テーマ」は、「具体的な作品」よりもひとつ上のレイヤーにある。作り手は「具体的な作品」を作りつつ、ひとつ上のレイヤーにある「テーマ」を探ったり、逆にそこで浮かび上がった「テーマ」を「具体的な作品」へと反映させたりする。「テーマ」と「作品」という2つのレイヤーを往還しながら、作品は形作られる。
また鑑賞者は「作品」を見ながら、そのひとつ上のレイヤーにある「テーマ」を探る。「作品」だけ見ていると、意味を取りかねた具体的細部が、「テーマ」を想定することで意味を持って見えてくる。この鑑賞者が主体的に発見していく行為が「読み」といわれるものである。
もちろん「テーマ」の存在感が薄く、おもしろい作品も存在する。だが、それには、表現の強さ(たとえばアクションのおもしろさ等)が必要になる。そして、表現の強さは「刺激」なので、受動的な観客はすぐにそこに慣れてしまう。新鮮な作品を提供するには、実は観客を能動的にさせる「テーマ」が果たす役割は大きい。

『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』を見て、改めて「テーマ」と作品の関係について考えた。
同作については、ブランドの再構築という観点から「リアルサウンド映画部」にも原稿を書いた(http://realsound.jp/movie/2017/07/post-94728.html)。こちらではアニメ『ポケモン』のテーマについて考えてみたい。

アニメ『ポケモン』のテーマは何か。もうちょっと正確に記すなら「アニメ『ポケモン』のテーマはどのように設定しうるか」。
主人公サトシの内面を設定し、そこにテーマを設定する方法もあるが、それでは長期シリーズは難しい。アニメ『ポケモン』はシリーズが長期化の中でドラマを抑えめにして、TVシリーズなら「いつどこから見ても同じテイスト」、劇場版なら「ポケモンバトルを核としたスペクタクル」をエンターテインメントとして提供する方向を進んできた。

もちろんシリーズの立ち上げの段階でシリーズ構成であった首藤剛志は、アニメ『ポケモン』なりのテーマをいかに設定するかで腐心している。それは「WEBアニメスタイル」に連載された首藤のコラム「シナリオえーだば創作術」を読むとよくわかる(http://www.style.fm/as/05_column/05_shudo_bn.shtml)。
大雑把に要約すると、首藤はタイトルに冠された「ポケモン」の中にテーマを見つけようとしている。そしてそれは「人間とポケモンの共存」という形に集約されることになった。
これはゲーム『ポケモン』からアニメ『ポケモン』に受け継がれた、ポケモンバトルというアイデアについて、批評性をはらんでいる。そこには「人間が高みにたってポケモンを同士を戦わせているのではないか」という問いかけが自動的に孕まれるのだ。そして首藤自身は、そこを問うように劇場版で『ミュウツーの逆襲』を書き、その延長線上に、いつか書かれるべき“最終回”も構想していた。

『キミにきめた!』は米村正二が脚本を担当しているが、併せて「一部脚本 首藤剛志」のクレジットも掲げられている。
これはおそらくTVシリーズ第1話を踏まえているからではないかと想像される。だが『キミにきめた!』がピカチュウとサトシの間に友情を落とし所として選び、「人間とポケモンの間の友情」という「テーマ」を浮かび上がらせているのを見ると、首藤が20年前に設定したアニメ『ポケモン』のテーマは現在でも十分有効性を持っていることがわかる。アニメ『ポケモン』の基本設定が持つ意味を考え抜いたからこそ、それだけの強度があるテーマを発見できたのだ。

『キミにきめた!』は、「人間とポケモンの共存」というテーマを全面的に追いかけているわけではない。むしろその一部である「友情」の部分をクローズアップしたという趣きだ。だがこれまでの『劇場版ポケモン』が、スペクタクル路線でピークを迎えたものの、近年興行収入を下げていたという現状を考えると、ドラマで観客を盛り上げていく方向へ舵をきった意味は大きい。「テーマ」を感じさせるドラマだからこそ、作品に“新風”を吹き込むことができたのだ。
しかも、昨年秋からスタートした、TVシリーズ『サン&ムーン』も、友情を強調したシリーズとなっている。『キミにきめた!』と併せて考えると、「友情」を中心に据えることで、新たに『ポケモン』の魅力をアピールしていこうという大方針があるのではないかという感触もある。

個人的には来年の『劇場版ポケモン』はTVシリーズ『サン&ムーン』をベースにしたもので、TVで描かれている「ポケモンとの友情」をもう少しだけ深めたものになるのではないか――と予想をしている。一方で“大穴”として「『ミュウツーの逆襲』のリメイク」という可能性も考えなくもない。
「テーマ」という観点から、アニメ『ポケモン』に注目すると、いっそう作品を深く楽しめるのだ。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ
ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。