「あのマルイがアニメでCMを!?」と話題になったことは記憶に新しい。
昨年『君の名は。』で話題となった新海誠監督による大成建設やZ会、スタジオコロリドによるマクドナルドやパズルアンドドラゴンズなど、アニメによるCMは増えてきてはいるものの、それでも事例は年間で数える程度といえるだろう。そんな中、同時期に4本の作品を公開するという試みも相まって、マルイのアニメCMには注目が集まった。マルイは各地の店舗で多数のアニメとのコラボイベントを実施したり、一昨年からコミックマーケットに出展するなど、積極的にアニメファンとの交流を図ろうとしている様子が見受けられるが、今回マルイがアニメCMの制作を新規に取り組んだ意図は、どういったものだったのか。
全4話が公開され、コミックマーケット92で本CMのトリビュートイラストブック、原画集が発売されることも発表されたこのタイミングで、本CMのプロデューサーであり、アニメ『ID-0』『モンスターストライク』など多数の作品のプロデューサーでもあるウルトラスーパーピクチャーズの平澤直氏にお話をうかがった。
[取材・構成=中山英樹]

『猫がくれたまぁるいしあわせ』
https://www.0101.co.jp/marui-shiawase/


――まず最初に、今回の企画がはじまったきっかけについて教えていただけますでしょうか。

平澤直氏(以下、平澤)
もともとは去年の11月頃に「マルイさんが新しくアニメでCMを作りたいと考えている」というお話を知人づてにいただいたところから始まります。

――それはつまり、最初のアニメCMの公開が5月21日ですから、企画立ち上げの段階で半年を切るくらいのタイミングだったということですね。

平澤
そういうことです。その知り合いに企画の中身を詳しく聞いたところ、制作の枠組みとして、広告代理店をはさまず、マルイさんと直で制作のやり取りをすることを検討されている、という話でしたので「これは挑戦しがいがありそうだ!」と思い、すぐに打ち合わせをさせていただきました。

――最初の打ち合わせはどのような内容でしたでしょうか。

平澤
CM制作にあたっての具体的な方針について、お話しさせていただきました。特に印象的だったのは、マルイさんからの「CMとして公開はするものの、コンテンツとしても自立するような作品にしてほしい」というご要望でした。マルイ自体のことを説明する、というよりは、マルイが大事にしているコンセプトを作中に織り込むようなオリジナルアニメーションにしてほしい、と。

――プロモーションとしての映像ではありつつも、コンテンツとしても楽しんでもらえるアニメを作って欲しいという要望だったのですね。

平澤
ええ。CMをアニメで作りたい、というよりも私自身が今まで手がけてきたアニメの文脈で30秒の作品を作れないか、という要望に近かったです。


――過去、マルイは実写のCMを多数制作されている中で、今回、アニメでのCMに挑戦しようと思われた意図はどういったところにあるのでしょうか?

平澤
より感情に訴えかける作品にしてほしい、という要望をいただいていたので、その点はアニメで展開する上で気にしました。あとはアニメとして作ることで、よりコンテンツとして視聴者の方たちに認識していただける、ひいては末永く愛していただきやすい、という狙いはあったのかもしれません。

――作品の中身については最初のお打ち合わせでどこまで決まっていたのでしょうか。

平澤
最初の打ち合わせで決まったのはさきほどの方向性のみで、それ以外はほぼ白紙でした。マルイさんからは「自由に決めてください!」と言っていただいたので「ありがとうございます!」とお返しさせていただきました(笑)。通常であれば、プランナーやクリエイティブ・ディレクターを広告代理店サイドが担当されるのですが、今回はそれら含めて全て自分の裁量で決めて良いとのことでしたので、やりがいのある仕事でしたね。

――そういった背景のもと、今回の作品『猫がくれたまぁるいしあわせ』が誕生するのですが、作品制作の際に一番最初に手を付けられたのはどの点でしたでしょうか。

平澤
物語ですね。マルイさんの「ちょっとした幸せ」を大切にするという思いを作品に散りばめられるように、と考えました。今回作品は4話の展開ですが、主人公のまりが自分の周りの「ちょっとした幸せ」に気づく、というコンセプトです。同時に意識したのは、作品のターゲットです。マルイさんからのご要望で「30歳の女性」をターゲットにしたもの、と決まっておりましたので、「その方たちが身近に感じられる題材はなにか?」という視点から、各話のシチュエーションや登場人物を描かせていただきました。アニメの文脈だと、どうしても大きな世界観で、大きなミッションを掲げて、となりがちですが、今回は個人の視点から、身近なエピソードひとつひとつにスポットを当てていきたいなという思いがあります。


――スタッフの方々はどのように決められたのでしょうか。

平澤
年末からスタッフの方々にもお声がけをしていきました。30秒という短い尺の中で、視聴者の方たちの心をつかむためにはキャラクターのビジュアルが重要だと感じておりましたので、企画の初期段階でキャラクターデザインは森倉円さんにお願いしたいなと思っていました。男性からも女性からも美しいと思われるキャラクターを描かれ、今後さらに注目を集めていくフレッシュな方としては森倉さん以外にはいないな、と。以前からずっとお仕事をしたかったので、今回ご一緒できて本当に嬉しかったです。

アニメーション制作については、『翠星のガルガンティア』以来ずっと付き合いがある横浜アニメーションラボにお願いしました。今回美術監督を引き受けていただいた栫ヒロツグさんも『翠星のガルガンティア』で美術監督をやっていただきましたし、アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督の阪野日香莉さんも『翠星のガルガンティア』には原画として携わっていただいています。

監督については、幸運にもそうした準備を行っている中、牧原亮太郎さんに引き受けていただけることになり「よっしゃー!」とガッツポーズ(笑)。脚本についても、やはりターゲットと同じ目線に立って作品を描いてもらうことが重要だったので、赤尾でこさんにお願いできて本当によかったです。

――制作体制が固まり、実際にアニメの制作に入ったのはいつ頃でしょうか。

平澤
最終的に制作にGOサインが出せたのはバレンタインデーの頃ですね。

――つまり、アニメの実質的な制作期間としては約3ヶ月、ということですね。それは……すごいですね。30秒といえど、あのクオリティのアニメーションを3ヶ月で制作されていたとはまったく想像できませんでした。

平澤
その点はやはり大変でしたね。限られた時間の中で、これだけのクオリティにすることができたのは、関わっていただいた全ての方々のご協力あってこそですし、映像に関しては特に横浜アニメーションラボの方々のご尽力のおかげです。今だからこそいえますが、マルイさんからまだOKをいただく前から、阪野さんには森倉さんのキャラクターの練習をしてもらっていました(笑)。

――いわばGOサインが出た瞬間に、全速力で走り出すための準備を並行して進めていた、ということですね。

平澤
信頼関係があればこそ出来ること、と言えますね。


――第1話が30秒、第2話から第4話がそれぞれ1分でしたが、この構成にはどのような意図があるのでしょうか。

平澤
30秒はテレビCMとして流すことを想定しての長さです。今回の企画をいただいて、改めて日常のCMを注意して観るようになったのですが、短い時間の中で人々を魅了するための手法がいかに高度で多彩かを気付かされました。15秒や30秒の中でキャッチーな映像をつくるための発想と、起承転結を短い尺の中で描くための発想は明確に異なる、ということを再認識しました。今回は依頼内容が「アニメ作品をつくる・物語を伝える」という意向が強かったので、僕自身で対応することができたのかなと思います。

一方で2話目以降はWEBで公開をするため、見やすい長さで、かつ物語の起承転結を作りやすい長さとして60秒になりました。NHKが「アニ*クリ15」という約1分のオムニバスなアニメ作品の企画を以前やられていて、そのことがすごく印象に残っていました。様々な作品を拝見する中で、60秒という時間があれば、これだけたくさんのことが表現できるんだ、と実感させられたんです。逆に60秒以上で作る、という案もあったのですが、スマホなどで観るユーザーも多いであろうことを考えると、60秒という長さは最適だったと思います。

――ちなみに「おいおい」というマルイのロゴをもじったセリフは、どういったところから生まれたのですか。

平澤
きっかけは脚本会議の中でポロッと出たネタです。「そういえばマルイさんのロゴって“オイオイ”って読めますよね」という話が膨らんで、最終的にまりの口癖になり、全話に登場するセリフとなりました。複数の視聴者の方からツッコミを入れていただけたので、良かったです(笑)。

――CMを公開されて、反響の方はいかがでしたでしょうか。

平澤
Twitter上での反響や、動画の再生数などが数値的に見やすいところですが、CMを作るにあたって狙っていた効果は達成できたのではないかなと思います。実際にTwitterで反応してくださっている方たちを見ると、ターゲットとして想定していた層に近く、その点も手応えとして感じています。
作品としては、テーマが仕事の第1話にはじまり、恋愛・趣味・家族とそれぞれ違った切り口から主人公のまりを描いています。人によって刺さりどころは違うと思いますが、全4話の中で、まりというキャラクターへの共感や愛着を感じていただけるポイントがなにかしらあるのではないかなと思います。作品として愛してくださるファンの方たちに支えられ、マルイさんのキャラクターとして定着し、まりを自分の友だちのように感じてくれる方がいてくださったら嬉しいです。


――最後に今後のお話をお聞きできればと思います。今回はどちらかといえばアニメの文脈に沿った作品としてCMを作って欲しいという要望でしたが、今後別の企業からCMの文脈に沿った形でアニメCMをつくってほしい、という依頼が来たら、いかがされますか。

平澤
お受けしたいです。その場合には、クリエイティブ・ディレクターの方と二人三脚をすることになると思います。アニメでミュージック・クリップを制作する際の演出家の方とご一緒させていただくようなイメージです。

――CMを発注する企業サイドからするとアニメでのCM制作はまだまだハードルが高いイメージがあると思いますが、その点はいかがでしょうか。

平澤
一般の企業とアニメ業界では、やはり大きな隔たりがあります。例えば、プロジェクトに関する感覚です。アニメの場合、一つの作品が企画から世に出るまで2、3年かかることはよくあることですが、一般の企業ではまれなことだと思います。

また映像の作り方に関しても、しっかりと理解していただく必要があると感じます。実写のCMであればリテイクはあり得ると思いますが、アニメの場合一度走り出したら止まることはできない。マルイの方々にアニメの制作は実写とフローが全く違うということを理解していただいた上で、その中でできることはなにかというスタンスでお話できたことは大きかったです。

今後アニメCMが増えていくためには、そういった感覚・認識のギャップをひとつずつ埋めていく必要はあるでしょう。ただ個人的にはあまり心配はしていません。今回のマルイさんをはじめ、勉強熱心な方はたくさんいらっしゃいます。アニメ業界との付き合い方が上手な企業は、今後も続々と出てくるのではないかなと思います。

――今回の作品が呼び水になり、もっとアニメのCMが増えたらよいですね!