音楽を耳にするだけで、脳裏によみがえる物語。歌、ダンス、セリフが融合したミュージカルは、世界中で親しまれています。

もともとは舞台で上演される演劇のひとつでしたが、有名な映像作品も多数。とくに『美女と野獣』、『リトル・マーメイド』などディズニーによるミュージカルアニメ映画は時代を超えて愛されてきました。

国内に目を向けると、最近では『竜とそばかすの姫』、『犬王』など日本発のミュージカルアニメ映画が増えてきた様子。日本アニメ界の新たなスタンダードとして、“ミュージカル”が根付く日は来るのでしょうか?

本稿では日本のミュージカルアニメにおける特徴に着目し、受け取られ方の変化や今後の展望などを探ります。

歌とキャラクターの関係性

まず注目したい点が、歌とキャラクターの関係性です。
ミュージカルにおいて、歌うことは人生と同じ。そのため登場人物全員が歌って感情を表現することに、特別な理由は求められません。

たとえばディズニー映画『リトル・マーメイド』では、人間の世界にあこがれを抱くアリエルに対して、セバスチャンが歌とダンスで海のすばらしさを言い聞かせるシーンがあります。
中盤からは海の仲間たちがコーラスなどで参加し、華やかな楽曲に変身。「なぜこのキャラクターは歌うのか」といった設定を付け加えずとも、誰もが音楽に参加していいのです。

一方日本のアニメで歌を披露するのは、アイドル、ミュージカル役者、合唱部員など音楽に関係のあるキャラクターが主流。歌を披露するための舞台が用意されているなど、日常生活との線引きも明確です。

「歌う理由」が求められるのはなぜか

もちろん日本でも、ミュージカルは演劇ジャンルのひとつとして知られています。しかしアニメ映画ではこれまであまり描かれてきませんでした。

作画コストが高いなど制作上の要因が考えられますが、作品を受け取る側の認識も理由のひとつかもしれません。
例として、『心が叫びたがってるんだ。』(ここさけ)のワンシーンに触れてみましょう。
音楽の授業でミュージカル『オズの魔法使い』の代表曲「Over the Rainbow」を鑑賞した高校生たち。授業後、「そのまましゃべればいいのに急に歌になるのが謎なんだよな」と感想を口にします。

ミュージカルでは会話の途中から歌い始めるのは当たり前。しかし表現方法が唐突に切り替わるため違和感を覚える人がいるのもまた事実です。たしかに日常生活の中で、いきなり人前で歌い始めることは珍しいでしょう。
そのため、「このキャラクターは歌う設定がある」などの前提を頭に入れておかなければ、「なぜ歌った?」と疑問が先行し視聴者の感情が乖離してしまう可能性があります。

『ここさけ』ではその後、生徒たちがオリジナルミュージカル制作に取り組むうちに、「普段は恥ずかしく思ってしまうような感情も、歌なら素直に表現できる」と気づいていきました。
ミュージカルの魅力を知り、親しみを持つことができれば、表現方法への違和感も減っていくのかもしれません。

日本発ミュージカルアニメ映画の特徴

近年は細田守監督作品『竜とそばかすの姫』のように、日本でもミュージカルアニメ映画が公開されるようになりました。また、2022年公開予定の湯浅政明監督最新作『犬王』も、『平家物語 犬王の巻』を原作としたミュージカルアニメ。この2作品に共通する特徴が、アーティストをメインとしたキャスティングです。


『竜とそばかすの姫』では主人公の鈴による歌唱シーンが物語の随所に登場し、その時々の感情を歌に乗せていきます。
鈴も「歌う理由」が存在するキャラクターですが、作中では周囲が影響を受けてコーラスに参加するシーンも。誰もが感情を歌で表現する、印象的な場面です。

『美女と野獣』のように、ミュージカル要素を含む映画を作ろうとスタートした本作。城での舞踏会を思わせる華やかな映像や、メッセージ性のある歌詞、そして表現力豊かな鈴役・中村佳穂さんの歌声が観客の心を震わせています。


『犬王』では主人公の犬王をバンド「女王蜂」のアヴちゃんが担当。予告映像では深みのある低音と鋭くも美しい高音をのびやかに使い分け、印象的な歌を披露しています。

歌が鍵を握るミュージカルにおいて、歌唱力は大切な要素。『竜とそばかすの姫』や『犬王』でも高い歌唱力を持つアーティストを起用することで、音楽に説得力を持たせていることがうかがえます。
声優初挑戦の人はいるものの、歌によって培われた表現力は充分。アニメスタッフや演技経験豊富な声優たちとともに、新境地を切り開いています。

TVアニメで描かれるミュージカル

ここまでは映画作品を中心に紹介してきましたが、TVアニメでもミュージカルは人気ジャンルのひとつとして根付きつつあります。

たとえば歌や踊りとともにスタァの座をかけて戦う『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』、歌劇団への加入を目指して切磋琢磨しあう少女たちの物語『かげきしょうじょ!!』、ミュージカル学科に通う男子高校生たちの青春を描いた『スタミュ』など、ミュージカルそのものを題材にした作品。
シリーズ全体でミュージカルを描いていない場合でも、『スペース☆ダンディ』第17話「転校生はダンディじゃんよ」のように1話限定でミュージカルが披露されたこともありました。

また、『マクロス』シリーズや『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズなど、キャラクターによる歌が戦況を左右し、ミュージカルのような盛り上がりを見せる作品もあります。

キャラクターを演じる本人が歌唱を担当することもあれば、『マクロスF』シェリル・ノーム(CV:遠藤綾、歌唱:May'n)のようにアーティストが歌を受け持つ場合も。
形態はさまざまですが、キャラクターの歌と物語、そして映像のシンクロはアニメファンに長年愛されてきました。

客層の拡大とミュージカルアニメの可能性

ミュージカルアニメが今後より普及していくためには、幅広い客層から支持を集める必要があります。

TVアニメの主な放送帯は深夜。そのためこれまでの客層はコアなアニメファンがメインでした。
近年では配信などで時間を問わず作品を視聴できるようになり、より多くの人がアニメでミュージカルに触れる機会が創出されています。

さらに『竜とそばかすの姫』や『犬王』などの登場により、普段はアニメを見ない客層も日本のミュージカルアニメに注目し始めました。作品に触れるハードルが下がったことで、ミュージカルアニメの魅力を知る人が増えていきそうです。

今後もミュージカルに主軸を置いた日本アニメが増えていく可能性は大。いつかはロボットアニメ、アイドルアニメなどと並ぶ日本の代表的なアニメジャンルに成長するかもしれません。