【英国でサッカー学を修得した23歳の挑戦|第2回】大学在学中に英国の子供たちを指導、自らが“試される”感覚を経験

 英国のサウサンプトン・ソレント大学(現ソレント大学)サッカー学部に入学した塚本修太は、在学中に育成年代の子供たちの指導も経験した。

 トレーニングの最後には「今日学んだものでもいいから、凄いスキルを見せられる子はいるかな」と声をかける。英国の子供たちは、決まって全員が元気良く手を挙げた。大抵は失敗に終わるのだが「今日はオレの日じゃなかった」などと、まるで滅入る様子がない。日本の子供たちとのギャップを痛感する瞬間だった。

「日本ではコーチの言うことを聞くのが当たり前になっていますよね。実際僕も高校まで、コーチに言われたことは正しいと信じていました。勉強と同じ。暗記をすれば点が取れるから、そこを疑うことはなかった。でも英国に来てからは、それが今指導している年代に最も効果的な練習なのかを考えるようになりました」

 英国の子供たちのトレーニングは、一言で表せば「うるさい」に尽きるそうだ。

「誰もが自信を持って意見を言い、主張をしてきます。コーチの僕にも『今日はどうしてこの練習なの? オレはシュート練習をしたいのに』などと話してきます。『なぜ?』と聞けば、必ず『オレはシュート力が弱いから』とか明確な理由もある。14歳くらいになると『このメニューの意図は? オレはもっとこうしたほうがいいと思うよ』と建設的な意見を聞かせてくれることもある。コーチングに正解はない。だからこうしてディスカッションができるのはありがたいし、その結果、一つ上のレベルへ行けるなら楽しいですよね」

 英国で指導をしていると、常に選手たちから「どれだけできるの?」と試されている気がした。一方で指導者には、選手から預かっている貴重な時間を有効に使う責務がある。

「コーチの最も重要な役割は環境を整えること。それを脅かすような言動なら毅然と対処しなければいけない。でも枠に収まる範囲でのチャレンジは創造性に繋がるので、しっかり褒めていく必要がある。最初はその線引きが難しかったですね」

 FA(イングランドサッカー協会)が育成段階の指導で強調しているのは「子供たちの心理的な安全性」を担保することだった。

「どんどん挑戦することを褒められ、苛められることがない。まず子供たちに考えさせて、絶対に批判はしないということです」

大学在学中に英国の子供たちを指導した塚本修太さん【写真:編集部】

日本での育成指導はあまりに楽 「逆にコーチが勘違いする恐れがある」

 さらに子供たちには、下記の「5つの“C”を育む」指導が推奨されている。

●Commitment(コミットメント)=貢献、責任(目標に対して努力を惜しまない)
●Communication(コミュニケーション)=意見を伝え合う
●Cocentration(コンセントレーション)=集中
●Confidence(コンフィデンス)=自信
●Control(コントロール)=感情の抑制

 現場では、技術より人としてどうあるべきかに焦点を絞った指導が多く、サッカー選手というより人間を育てる指針を徹底していた。

「最初はそんなの当たり前だと思いました。でも確かに人間として成熟するかどうかは、トップへ行けるかどうかの分かれ道になっている。プレミアリーグでも、どんどん若い選手たちが結果を出していますが、精神的に成熟していなければそれは難しい」

 育成の指導者たちは、誰もが「人としてきちんとしていなければ、サッカーでも成功はできない」と口を揃えた。

 英国でそういう指導体験を経て、日本で指導をしてみると、あまりに楽だと感じる。

「何かを指示すれば、みんなすぐに一生懸命に取り組む。それはすごく嬉しいことなんですが、逆にコーチがチームのすべてを掌握していると勘違いする恐れがある」

 反面日本での実体験から、サッカーを嫌いになって辞めていく子が多いことを危惧する。

「みんな最初は好きで始める。でもだんだん練習に行きたくない子が増えてきて、始まる前から暗い顔をしているケースもある。その結果辞めると『根性がない』って、それは違うと思う」

 楽しいから来る――。塚本は、そんな育成現場を増やしていきたいと願っている。

(第3回へ続く)

[プロフィール]
塚本修太(つかもと・しゅうた)

1997年6月21日生まれ、茨城県出身。幼少期からサッカーを始め、小、中学校は地元のチームに所属したが高校は名門・前橋育英高校サッカー部に進学。度重なる怪我で高校2年の夏に中退したのち、サッカー指導者を目指すためにイギリスのソレント大学のフットボール学部に進学。サッカーを学問として勉強するなか、FAの心理学ライセンスはレベル5まであるなかで日本人で初めてレベル4まで取得。その他にもスカウト、分析、フィジカル、コーチングの資格を取得。コーチをしていた育成年代のチームは2年連続その地域での年間優秀チームに。昨年は小林祐希(ワースラント=ベフェレン)の個人分析官を担当した。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記〜青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。