【英国でサッカー学を修得した23歳の挑戦|最終回】英国のアカデミーが重視する自分たちの方針を伝える姿勢

 サッカーの母国イングランドで4年間を過ごしてみて、塚本修太は日本のほうが全面的に遅れているとは考えていない。

 英国では先端の知識を幅広く吸収し、育成からトップチームまでの現場も経験してきた。だが反面、日本にも今の自分がとても届かないレベルに到達している何人かの指導者がいることを知った。

「情報を精査し経験と照らし合わせて取捨選択をして、目の前の選手たちにトレーニングを適合させている。それを目の当たりにすると、23歳の僕は効果的に勉強はできたものの、全然経験が足りていないと感じます。これからは机上で学んだ知識を、いかに効果的なコーチングに繋げていくかがテーマになると思います」

 いくら情報が集積されてくる英国にいても、旧態依然から抜け出せないコーチはいる。

「6〜12歳までは試合形式や、試合を切り取るトレーニングが有効で、そういうトレーニングをしてきた選手のほうがプロになれているというデータがあります。もちろん、すべての選手にとって正しかったり間違いだったりするトレーニングはない。でも明らかなデータがあるのに、敢えてドリル練習をするなら明確な理由付けが必要になります」

 塚本も少年時代は、対面のインサイドパスの練習を疑うことなく続けていた。しかし英国へ来てみて、それは暗記をしてテストで好成績を出すのと変わらなかったと思うようになった。

「英国でもいまだにインサイドキックでコーンとコーンの間を通すトレーニングをひたすら続けさせるような指導者もいれば、暴言を吐き続けるコーチもいます。逆に日本にも新しい知識を取り入れ、英国の指導者より先を行っている人たちもたくさんいると思います」

 ただし英国のアカデミーの実態を見て、親も含めて自分たちの方針を理解してもらおうと尽力する姿勢は感じられた。

「サッカー選手として成功する確率は500分の1だと言われていますが、実際にはもっと少ないと思います。だからこそスタッフは、サッカー選手を育てるというよりは、人として導くことに重きを置いている。インサイドキックがしっかり蹴れることより、サッカーを通じてコミュニケーションや問題解決の能力を育むことに主眼を置いているわけです」

コーチの役割の一つは「迷子になりそうな選手をガイドすること」と塚本は語る【写真:編集部】

コーチの役割の一つは「迷子になりそうな選手をガイドすること」

 そのためにはコーチの声のかけ方も重要な意味を持つ。

「どうしてミスが出たのかな?」
「どうしたらそれを改善できると思う?」

 安心してチャレンジできる環境は担保する。しかしミスを次に生かす方法も自分で考えさせる。

「こういうやり方をしていると、特に日本では親御さんに『ちゃんと教えていない。コーチは怠慢じゃないか』と見られがちです。そこで英国のアカデミーでは、親との面談をとても大切にしています」

 指導者たちは、実践しているトレーニングメニューが欧州でも科学的に有効性が立証されていることや、子供たちにはこう育って欲しいと考えていることなどを、懇切丁寧に伝えているそうだ。

「コーチの役割は、安心してチャレンジできる環境を整えることと、迷子になりそうな選手たちがいたら道標となりガイドしてあげることです。親御さんも、子供がサッカー選手になることが目標ですが、究極的には幸せな人生を送ってくれることを願っているはずです」

 塚本はサウサンプトン・ソレント大学(現ソレント大学)を卒業し、いよいよプロの指導者として歩み始める。4年間で蓄積した豊富な見識は、欧州でも日本でも貴重な武器になるはずである。

[プロフィール]
塚本修太(つかもと・しゅうた)

1997年6月21日生まれ、茨城県出身。幼少期からサッカーを始め、小、中学校は地元のチームに所属したが高校は名門・前橋育英高校サッカー部に進学。度重なる怪我で高校2年の夏に中退したのち、サッカー指導者を目指すためにイギリスのソレント大学のフットボール学に進学。サッカーを学問として勉強するなか、FAの心理学ライセンスはレベル5まであるなかで日本人で初めてレベル4まで取得。その他にもスカウト、分析、フィジカル、コーチングの資格を取得。コーチをしていた育成年代のチームは2年連続その地域での年間優秀チームに。昨年は小林祐希(ワースラント=ベフェレン)の個人分析官を担当した。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記〜青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。