ラグビーを追い続ける吉田宏記者のコラム、新リーグの可能性と課題とは…

 ラグビー・トップリーグ(TL)に代わり2022年1月の開幕を目指す、新リーグの大会フォーマットが発表された。日本協会の岩渕健輔専務理事、新リーグ準備室の谷口真由美室長が15日にオンライン会見を行い説明した概要では、25チームが3部(ディビジョン)に分かれてリーグ戦を行い、リーグ戦後には上位チームに海外クラブが加わる国際大会「クロスボーダーマッチ(CBM)」を導入する。目指すのは日本代表強化を後押しする競技力の向上と、企業スポーツとして行われてきた国内リーグのプロ化への地盤作りだが、会見からはその可能性、そして課題が浮かび上がる。(文=吉田宏)

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 ファン注目の新リーグの姿が、ようやく見えてきた。すでに参入チーム数(25)、3ディビジョン制、開催時期などは段階的に明かされてきたが、各ディビジョン参画チーム数、大会方式などの詳細が別表のように決まった。

 新リーグの大きな柱は「代表強化」と将来的なプロ化を見据えたリーグ、チームの「事業化・社会化」だが、今回の会見でまず注目したいのは、海外チームを招いて行われるCBMだ。新リーグの1部に相当する「ディビジョン1」上位チームが海外クラブと対戦する、日本では過去に類を見ないクロスボーダー=国境を跨いだ大会について、岩渕専務理事はこう説明している。

「代表チームが世界のトップの中で競技力を維持していくため、クロスボーダーという考え方を入れています。世界の動きの中で影響を受けていくのではなく、国内リーグを確立して、その上で、逆にスーパーラグビー(SR)のときも皆さん認識されていると思いますが、(相手側から)言ってもらって入っていくということではなく、われわれ側から提案していくような形を考えていかなければいけないと思っています」

 伏線は同専務理事も触れているSRだ。日本から参戦するサンウルブズが、昨シーズンで除外されたことが大きく影響している。SRはW杯日本大会で優勝した南アフリカやニュージーランドなど南半球強豪国を軸に行われてきた国際リーグだ。2016年シーズンから参入したサンウルブズは、多くの日本代表クラスの選手をメンバーに加え、強豪国の代表選手が居並ぶ相手と年間15試合前後を戦うことで、代表強化を大きく後押しした。2015年ワールドカップ(W杯)での南アフリカからの歴史的金星、そして19年大会でのベスト8入りへの貢献は計り知れない。

 しかし、南半球強豪国の協会が主導権を握るSR運営組織は、サンウルブズの2020年以降の参画を認めなかった。参入当初から5シーズンという参画期限があったため、この除外は既定路線とも考えることができるが、サンウルブズおよび日本協会が求めた残留を運営組織が認めず、日本は代表強化の大きな礎を失うことになった。この苦い経験を基に、日本協会上層部では、代表強化につながる国際レベルの大会を自分たちが独自に運営する道を模索し、参加の道が断たれたSRの代案としてCBMが考案されたのだ。

 CBMについては、画期的でチャレンジャブルな大会と評価したい。ただし、実現にはまだハードルがあるようだ。注目される海外からの参入チームについて、同専務理事は「ラグビー協会、新リーグとして、各国協会、各リーグと話をしています。現状、色々な場所で国際カレンダー、その国のリーグの今後の行く末もかなり不透明なところがありますので、最終的に何チームというところまではまだまとまっていません」と、参入チームが発表段階に達していない状況の難しさを明かしている。

 加えて「2022年の最初のタイミングで何らかのゲームをしたいという強い思いで進めていますが、色々な状況が生まれると思いますので、そこについては状況を鑑みながらベストなオプションを選択していきたい」と、やや腰の引けた説明もしている。1年後に迫る新リーグ開幕からの逆算で考えると、参画チームも大会概要も発表できない現実は、国際大会と称しながらかなり小規模な交流戦程度になる恐れや、最悪のシナリオとしては大会自体の開催も危惧される。世界規模でコロナ感染が続く中での国境を超えた交流が不透明なことはやむを得ない部分もある。しかし2023年W杯というゴールが決まっている中での強化を踏まえれば、昨年限りで失ったSRと同等か、それ以上の、選手の経験値を上げる環境を整えることは至上命令でもあるはずだ。

国内の新リーグ構想のフォーマット図

ディビジョン1のチーム数を「12」に絞り込む2つの理由とは?

 国内のリーグ構想に目を転じてみよう。まず注目されるのはディビジョン1のチーム数だ。現状のトップリーグ(TL)は16チームで構成されるため、4チームが“降格”の憂き目にあうことになるのだが、それでも12チームに絞り込む理由は2つある。

 1つは試合数の問題だ。新リーグ構想は地域性と事業化を重視するため、地元で開催されるホームゲームに重要な意味がある。そのため、ホームアンドアウエー(準備室ではホストアンドビジターと称している)方式の導入が不可欠と考えている。ここから計算される試合数と、代表活動のカレンダーなどを踏まえた公式戦期間を突き合わせると、マックスのチーム数が12になる。

 もう1つの理由が、質の高い試合を提供するための実力格差への配慮だ。谷口室長が過去のデータを踏まえて説明している。

「過去のTLで直近のものを見ると、(上位)8と10(チーム)では、30点以上の大差のゲームが1試合ずつくらいしかなく、12チームでは2試合になる。14チームになるとそこから3、4試合増えていくことになる。1、2試合であれば許容範囲かという判断で12チームという計算をしています」

 TL以上にプロ化を意識した運営をめざす新リーグだからこそ、質の高い試合を顧客に提供することの重要さは大きい。同時に、日本ラグビーの競技力を高めるためにも、消化試合のような実力不均衡の試合を減らすことが求められるのは当たり前だ。準備室には実質上の2部降格となるチームを増やしたくない思惑がある一方で、現行TLの16チームは多すぎるという意見もチーム関係者、ファンにはある。

 一部のチームからは、より競い合う環境を作るために「8チーム制が望ましい」という意見も聞いた。個人的には、現在の国内チームの実力なら上限10チームによるリーグが妥当だと考えるが、リーグ側は「より高質な試合」と「より多くのチーム」の折衷案として、12チームという数字に収まったということだ。付け加えておくが、谷口室長は各ディビジョンのチーム数については、今後の増減の可能性は否定せず、状況に応じて柔軟に判断していくことになるという。

 この会見で、今後も慎重な検討が必要だと感じたのは、各ディビジョンの昇降格における「審査」だ。リーグへの参入について、新リーグ準備室は事前にチーム側にホストタウン・ホストスタジアムの選定や、育成機関の設置などの運営能力を持つように求めている。会見後の補足説明では、審査内容・方法について「事業性・社会性をチームが実装しうることを重視しており、総合評価となる」と説明している。

 つまり、リーグ戦での成績と事業性などの評価を含めた審査で最終的な昇降格が決まることになる。その審査内容については「各チームとの守秘義務に基づいて審査の結果内容を一般公開しない」と説明しているのだが、複数のチーム関係者からは「審査内容を事前に明示するべきだ」という声を聞いた。

 昇降格は、チームにとってみれば次のシーズンや数年というスパンでの運営方針、予算などにも直結する重要な案件だ。この観点から考えれば、審査は出来る限り“密室の審査”を避けて透明性を持たせることが必要だという意見は尊重するべきだろう。

 例えば昇格対象のチームが、一部の審議項目をクリアできてない場合に、他の項目の達成度などを加味して昇格を認めるのか、それとも厳格に昇格を認めないのかなど、判断の線引きが難しいケースが生じる可能性はあるだろう。このようなケースでは、総合評価のほうが結論を下しやすいはずだ。

 だが、まず前提として昇格のための評価項目を明示して、誰もが対象チームが昇格に値するのか否かを納得できることが、チームはもとより多くのファンや社会から理解を得るためには重要だ。現時点で「原案」として各チームに内示されている各ディビジョンへのチーム振り分け案ですら、疑問を抱いているチームがあると聞く。これが、新リーグが始まってからの“生き死に”に関わるとなれば、チームから現状以上の強い反発や抗議を受ける可能性は否めない。

ファンには分かりづらかったトップリーグの大会フォーマット、新リーグは?

 ちなみに、昇降格にも関係する新規参入については、柔軟性を持たせている。参入条件をすべてクリアできていないチームでも、改善を進める意思を持っていると判断された場合はディビジョン3への参入を認めていく方針だ。つまり、ディビジョン1、2と3の間で審査のハードルの高低差をつけ、ディビジョン3に参戦しながら、当初はクリアできていなかった基準を満たせば上位ディビジョンに挑戦する権利を与えるのだ。ディビジョン3が、参入条件をクリアできていないチームの受け皿の役割を持たすことで、より多くの参入希望チームに門戸を開こうとしている。

 会見では新リーグの中長期的視野に立った施策も説明された。開幕シーズンの2022年から24年までをフェーズ1、25〜28年をフェーズ2、29〜32年をフェーズ3として、このフェーズごとに大会フォーマットや規約を修正、改善していくという。現行のTLをみると、2003年の発足から毎年のように大会フォーマットを変更してきた。W杯による日程変更などの“とばっちり”もあったが、それにしても毎シーズンのように前年とは異なる方式で行われたことは、ファンにとっては分かりづらいものだった。このような反省も踏まえて、猫の目の様にフォーマットが変わることを回避しようという思惑もあるようだが、同時に岩渕専務理事は興味深い説明をしている。

「今の世界の話の中で、フェーズ2のところでカレンダーが動きだす可能性があると認識しています。それと共に国内リーグのカレンダー、試合数の問題、事業性の問題などを(フェーズ2で)出来るだけ調整をかけて、よりリーグとして確固たる形にしていきたい。フェーズ3のところでは、10年という大きなスタンスの中で、CBMを含めて(新リーグが)世界最高峰のリーグになるべく方向性を見出すフェーズと位置付けています」

 歴代の協会首脳の中でも、国際舞台での高いコミュニケーション能力を発揮してきた同専務理事らしい、世界規模の多様な情報に基づいたビジョンがこのフェーズ制に反映されているのは評価したい。世界のベスト8という未知の領域まで進化してきた日本代表の実力を踏まえても、世界のラグビー先進国が国境を超えて画策する国際大会やリーグに、どのようにキャッチアップしていくかは重要な課題であり、日本チームに、より高質なリーグを提示することも代表強化に直結する時代が訪れている。

 開幕までのカレンダーとしては、今年4月に新リーグの運営法人が発足し、6月にはリーグ名称や各ディビジョンへのチームの振り分け、そしてリーグ理念等が発表されるという。しかし、開幕まで1年というカウントダウンのスタートラインで、いまだにリーグ名称が発表できず、大会スポンサーや放映契約などの収支面の大きな柱もお披露目できていない。

 今季TLが開幕2日前に延期が決まったことで、開幕戦前日の新リーグ会見にスポットが当てられる形にはなった。だが、ファンや社会へ向けては、TL開幕への関心度を高めるべきタイミングで、新リーグのフォーマットを発表することも疑問を感じざるを得ない。もちろんコロナ禍によるスローダウンは致し方ないが、昨年12月には発表する予定だった会見がTL開幕戦前日にズレ込んだことは、出遅れ感を否めない。

 今、ラグビー協会と新リーグ準備室に求められるのは、チームを軸としたステークホルダーとのコミュニケーションを、いままで以上に積極的にとりながら、開幕へ向けた準備を加速させることだ。失敗は許されない。なぜなら、新リーグこそが、世界ラグビーの潮流を読み、リンクしながらの代表強化と、国内ラグビーの構造改革を加速させる壮大な構想だからだ。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏

 サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。W杯は1999、2003、07、11、15年と5大会連続で取材。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。