中村も栗原もプロサッカー選手として18年をひとつのクラブに在籍

 2月26日に2021シーズンのJリーグが開幕する。「フライデーナイトJリーグ」(通称:金J)でのオープニングマッチとなったのは、昨年王者の川崎フロンターレと2019年王者の横浜F・マリノスとの“神奈川ダービー”だ。開幕を前に、スポーツチャンネル「DAZN」のパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」の企画で、両クラブOBである中村憲剛氏と栗原勇蔵氏の対談が実現。前編は、お互いのチーム、ライバルとして戦った“神奈川ダービー”について語り合った。

 ◇ ◇ ◇

――お互いにプロサッカー選手としてのキャリアをひとつのクラブで18年間過ごされてきた「ワンクラブマン」です。

中村 「勇蔵のほうがキャリアを始めたのは先だよね?」
栗原 「そうですね。僕が2002年なので」
中村 「じゃあ1年違いだね。え? 勇蔵も18年? 俺と同じ?」
栗原 「はい、たまたま同じなんです」
中村 「俺さ、先に勇蔵が引退するんだって思ったんだよね」
栗原 「結構頑張ったほうですよ。37歳までやったので。憲剛さんが異常すぎるんですよ」
中村 「いやいや、もっと他にいっぱい上がいるからさ(笑)」
栗原 「引退した後、1年間ずっと試合を見てきて、出られていない時もあったけど、出たときはきっちり仕事するじゃないですか。さすがだなって思いましたよ」
中村 「でもさ、勇蔵って小さい頃からチームに所属していたし、横浜F・マリノスそのものみたいなところもあったじゃない? だから俺は、F・マリノスのファン、サポーターの人たちが勇蔵に対して愛着を持っているように感じていたよ」
栗原 「憲剛さんほどじゃないですけど、確かに最後のほうはそういうものも感じさせてもらいましたね」

――ご自身の在籍したチームの魅力ってどんなところですか?

中村 「フロンターレには、チームとしてずっと攻撃的であるべきだという哲学があって、それは俺がプロになる前からあって。監督も含め取り組んでいたんです。あとはピッチ内だけでなく、ピッチ外のところも楽しく面白く、地域密着の活動も含めて取り組んできたクラブなので、それが一番大きいかな。いろいろな人を巻き込んでクラブも大きくなってきましたし、チームとしてもタイトルが取れるようになってきたので、この形をさらに発展していってほしいなって思います」
栗原 「F・マリノスは、ファン、サポーターがいい意味で優しいんです。現役時代もすごくサポートしてくれましたし、引退して、クラブシップ・キャプテンという立場になってもみんながすごく温かくて、いろいろなことがやりやすいんです。それはF・マリノスの魅力だなあって感じています。だから、そういう温かいチームなんじゃないかなって思います」
中村 「それはずっとF・マリノスでやってきた勇蔵だから、というのもあると思うよ」
栗原 「そうなんですけど、基本的には誰に対しても優しい。新しく加入してきたばかりの選手に対しても優しいんですから」
中村 「フロンターレもそういう意味ではファン、サポーターは温かいな。負けた時でもほとんどブーイングを受けた記憶はないし。どんなときでもチームを後押ししてくれた。まあ、だからこそ、F・マリノスも2019年に優勝したんだろうけど、俺自身、2017年にフロンターレのサポーターをチャンピオンチームのサポーターにできたことはうれしかったですし、勇蔵も2019年のときはうれしかったでしょ?」
栗原 「そうですね、うれしかったですね。あ、お互いに優勝して引退ですね」
中村 「そうだね、なかなかいないよね(笑)」

長年競い合った両者の印象とは【写真:窪田亮】

18年間、常にライバルとして戦い続けた両者の印象とは

――現役時代はお互いに同じ神奈川県をホームタウンに持つライバルとして過ごされてきましたが、お互いのプレーの印象はどうだったんでしょうか?

中村 「勇蔵は、ボンバー(中澤佑二)とのCBで本当に厄介な存在でしたね。堅守F・マリノスの代名詞みたいな2人だったので」
栗原 「当時は引いて守っていましたからね(苦笑)」
中村 「そこを崩すのは毎回苦労していたし、身体能力も高いので、年を重ねるごとに安定していった印象がすごくあって。すごくやりにくかった印象です。彼らをどう超えていくか、どう突破していくかを常に考えていましたね」
栗原 「だいぶ突破されましたけどね(苦笑)」
中村 「そりゃあ考えましたからね、いっぱい」
栗原 「一番やられたんじゃないかな。ダントツに嫌な存在でしたからね」
中村 「だって攻められたくないだろうなっていうところを、あえて攻めていたからね」
栗原 「それは分かっていました。憲剛さんは技術が高いのはもちろんだけど、意外にスピードがあって、『何だ、この人』って何度思ったことか。あれはターンが速いのかな?」
中村 「少ない面積でターンするのを意識していたね」
栗原 「頭を使って、こっちが嫌がることをすごくしてきたイメージです。本当に嫌な人なんですよ(笑)」
中村 「ハハハ。そう言われるのが自分の役割ですからね」
栗原 「そのうえで、いいFWをうまく使って、さらに嫌なところを突いてくる。本当に対戦するのが憂鬱でしたよ」
中村 「そんなに?」
栗原 「だって憲剛さんって攻撃の選手じゃない? だから『やってやろう!』って感じできて、『やってやった!』って感じで終わるじゃないですか」
中村 「そういうときもあれば、逆に『やられた!』『守られた!』ってときもあったよ」
栗原 「攻撃的な選手って常に挑戦者のイメージなんですよね。でも、俺は守備の選手だから守らないといけないわけで、なのに『やられたわ』って感じがすごくあって。だから『守り切ってやった!』と感じたことはほとんどないですね。フロンターレ相手に理想的な試合ができたことなんて1、2試合ぐらいしかなかったと思います。その中心にいたのが、この嫌な人だったから(笑)。夢に出てきたことがあったかもしれないぐらいですよ」
中村 「それは最大の賛辞です。ありがとう!」

2人は現役時代の“神奈川ダービー”を振り返った【写真:窪田亮】

両チームともに意地とプライドを懸けた“神奈川ダービー”

――実際にお二人が対戦されてきた“神奈川ダービー”とは、どういった意味合いを持つダービーなのでしょうか。

中村 「F・マリノスはずっとJ1にいたクラブで、俺が衝撃的だったのはJ2で優勝してJ1に上がる2004年にF・マリノスは浦和レッズとチャンピオンズシップをホーム&アウェイで対戦したんです。あれを見て、『来年このチームと対戦するんだ』ってビビったんだよ。すごく格上感があって、でもめちゃくちゃ負けたくない思いが強かった。逆に、F・マリノス的にはどうだったの? うちは上がってきたチームだし、そんなに気にはならなかったでしょ?」
栗原 「当時はまだコンスタントに試合に出ていたわけじゃなかったけど、フロンターレのことを格下だと思ったことは一度もなかったですよ。ただ、最初から普通に強かった。だから一番嫌な思い出があるというか、仮に『どのチームが嫌だった?』と聞かれたら、間違いなく『フロンターレ』って答えるぐらい相性も良くなかったし、大事な試合で結構やられていた記憶があるね」
中村 「ああ、2013年のF・マリノスの優勝が懸かっていた試合ね」
栗原 「そこもそうだし、JリーグYBCルヴァンカップとか、天皇杯もそうだしね」
中村 「フロンターレには『F・マリノスに勝ちたい』という思いが常にあって。いい意味でライバル心が自分たちのなかにあった。“神奈川ダービー”って言われていたし、多分、俺らのほうが勝ちたい気持ちが強かったかなって思うね」
栗原 「逆に聞きたいんですけど、“神奈川ダービー”の他にフロンターレにはFC東京と対戦する“多摩川クラシコ”っていうダービーもあるじゃないですか? あれってフロンターレにとってはどっちが大事なんですか?」
中村 「え? それ聞く?(笑)」
栗原 「もちろんF・マリノスにも横浜FCとの“横浜ダービー”があるんですけど、これまで横浜FCとの対戦回数は少なく、僕らにとっての“ダービー”ってフロンターレとの試合のほうが多かったんですよね。だけど、 “多摩川クラシコ”って毎年やっているじゃないですか? それで“多摩川クラシコ”のほうが盛り上がっている感じがしていて」
中村 「それは歴史がそうさせているんだと思うよ。だってJFLのときからの対戦だから」
栗原 「あ、そうか」
中村 「東京ガスと富士通時代から同じカテゴリーで戦ってきているので、そこの差はちょっとあるのかもしれないね。でも、実際に対戦しているときは、どっちも『ヨッシャー!』っていう気合いが入っているので比べられません!」
栗原 「いや、そこをあえてどっちかって言ったら……」
中村 「おい、やめろよ(笑)! どっちにも負けたくないし、勝ちたいという思いは同じだよ」
栗原 「そうなんだ。なんか“多摩川クラシコ”のほうが盛り上がっている感があったから……」
中村 「多分さ、“多摩川クラシコ”っていう名前がそうさせているんじゃないかな」
栗原 「確かにそうかもしれないですね」

2人が挙げた今季の注目選手とは【写真:窪田亮】

チームを知り尽くしている二人が今季注目する選手とは

――“神奈川ダービー”を盛り上げる今シーズンの戦力について、注目選手を教えていただけますか。

中村 「F・マリノスの今シーズンの目玉はやはり岩田智輝選手、外国籍のエウベル選手かな?」
栗原 「試合に絡みそうな新戦力はそうですね。逆にフロンターレはシミッチ選手ですか?」
中村 「あとは若い選手を何人か獲得してきたね。まあ毎年7、8選手は入れ替わっているから、同じ感じかな。F・マリノスはどう?」
栗原 「最近は結構入れ替わりが多いですね」
中村 「シーズン中も結構変わるよね」
栗原 「移籍も早いし、加わるのも早いし。でもあれって海外だと当たり前なんですよね」
中村 「そうだね、そこはやはり監督やフロントの意向だったりするんじゃないかな」
栗原 「足りないところをピンポイントで取ってきている印象がある」
中村 「そこが結構、的確なんだよね」
栗原 「やっているサッカーが明確なので、特徴ある選手を取ってきやすいというのがあるんだと思うんですよ」
中村 「そのイメージはすごくあるよね。だから監督と強化部、強化部とスカウトといった連携がすごくうまくできているんだと、外から見ていて思っていた。あと足が速い選手を取ってくるイメージがあるよね。特に前線。あれはやっぱり監督の要求なのかな?」
栗原 「監督のやるサッカーが間違いなくそれじゃないですか」
中村 「縦に速いサッカーね」
栗原 「だから足が速い選手じゃないと話にならないので、前の選手3人は基本的に足が速い。紅白戦だと、サブ組もハイラインをやるんですけど、相手の前3人も足が速いからいつも追いかけっこみたいになってめちゃくちゃ大変だった思い出がある。昔のフロンターレもそうじゃなかったですか?」
中村 「そうだね。それは1つのポイントだったかもしれない」
栗原 「みんな速くて本当に嫌でしたから」
中村 「フロンターレで言えば、勇蔵も注目選手に挙げてくれたシミッチがどれくらいフィットするのかを先日の富士ゼロックス・スーパーカップで見ていたけど、思ったより早くフィットしていたし、新たに加わった選手たちも途中から入ってきて違和感なくやれていた印象があるので、これは楽しみだなと感じているよ」
栗原 「フロンターレはレベルが高いからシミッチが来てもすんなり順応しますね」
中村 「シミッチって性格が真面目らしくて、きちんと話を聞きながらやっているらしいよ」
栗原 「プレースタイル的に誰に似ています?」
中村 「エドゥアルド・ネットかな。だけどネットはムラがあって、いい時と悪い時の差が激しかったけど、シミッチは常に安定しているイメージがある。名古屋のときもそうだったけど」
栗原 「CBもたまにやっていましたよね」
中村 「やっていたね。ビジャに抜かれた失点シーンがたくさん世に出てかわいそうだったけど。たくさんボールに触りたい選手だと思うから、うちにはフィットするかなと思うよ」

フロンターレとマリノスの新たな取り組みをそれぞれ明かした【写真:窪田亮】

すでに始まっている攻防戦!? 2021シーズンの新たな取り組み

――両チームが今シーズン、新たに取り組んでいることは何かありますか?

中村 「勇蔵はキャンプに行っていたんでしょ? F・マリノスはどうだったの?」
栗原 「練習試合も見たんですけど、今年に関してはフォーメーションもまるきり違うんですよ。それがオプションなのかどうなのかさえ分からない(苦笑)」
中村 「なるほどね。昨シーズンの4−2−1−3はもうできるからね」
栗原 「キャンプでは、全く違うスタイルをトライしていましたね」
中村 「でもやっぱり縦に速いスタイルなのは変わらないんだよね?」
栗原 「それはそうですけど、ラインがちょっと違うし、スイッチの入れどころも違うので……」
中村 「大丈夫? そんなに話して(笑)」
栗原 「だから、それがオプションなのか、それで行くのかどうかも分からないわけですよ(苦笑)」
中村 「もともとそういう監督さんなの? メンバー構成とかも含めて、だいたい週末に試合がある場合って週の半ばぐらいにはこんな感じでいくんだなって分かるよね。それも前日まで全く分からない感じなの?」
栗原 「2019年のときはメンバーがほぼ決まっていたので分かっていたんですけど、昨年は正直分からないときもありましたね。だから選手たちも、最後の最後まで気を抜けないというか」
中村 「今シーズンもそういう感じなのかな? 練習試合もメンバーを変えながらやっていたって聞くし」
栗原 「正直なところ、メンバーは決まっていないと思います。監督のなかにはあるかもしれないけど、『自分がスタメン』だと自覚している選手はほとんどいないと思います」
中村 「そういうのって、こっちからすると対策できないし、困るんだけど(苦笑)」
栗原 「でも、フロンターレもF・マリノスも自分たちのスタイルを貫き通すから、相手がどうであれ関係ないし、いいんじゃないですかね? フロンターレはすでに富士ゼロックスで手の内を明かしていますからね」
中村 「そうなのよ、だからもう少しF・マリノスも手の内を明かしてもらわないと(笑)。公平感がないんだよなあ」
栗原 「フロンターレは、富士ゼロックスで見せたサッカーが今年の基本なんですよね?」
中村 「昨シーズンからのベースの上澄みを新加入選手でやろうとしている感じはするけどね」
栗原 「まあ、先に見られてしまうのは王者の宿命ですよ。僕らはもう王者じゃなくて、奪還を目指しているチャレンジャーなので」
中村 「厄介だよね。胡坐をかいているぐらいのほうがいいんだけどね(笑)」

■中村憲剛 / FRO(Frontale Rerations Organizer)

1980年10月31日、東京都生まれ。中大を卒業後の03年に川崎フロンターレに加入。以来18年間、川崎一筋でプレーし、20年シーズンをもって現役を引退した。17年のリーグ初優勝に始まり、18年、20年に3度のリーグ優勝、さらに19年のJリーグYBCルヴァンカップ、20年の天皇杯優勝とチームとともに、その歴史に名を刻んだ。また8度のベストイレブン、JリーグMVP(16年)にも輝いた。

■栗原勇蔵 / 横浜F・マリノス クラブシップ・キャプテン

1983年9月18日、神奈川県生まれ。ジュニアユースから横浜F・マリノスに在籍し、02年にトップ昇格。19年に現役引退するまでの18年間を横浜F・マリノスでプレーし続け、03年、04年、19年に3度のリーグ優勝、13年の天皇杯優勝に貢献した。恵まれた体格を生かしたCBとして最終ラインを統率し、チームの代名詞となった“堅守F・マリノス”を築いた。現役引退後は、クラブシップ・キャプテンとして長年在籍したクラブのために活動している。(THE ANSWER編集部)