オンラインイベント「女性アスリートのカラダの学校」第2部レポートvol.2

 女性アスリートのコンディショニングについて考える、スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」のオンラインイベント「女性アスリートのカラダの学校」が3月14日に行われ、レスリングのリオデジャネイロ五輪女子48キロ級金メダリスト・登坂絵莉さん(東新住建)とフィギュアスケートで五輪2大会連続出場した鈴木明子さんが登場。計200人の応募が集まったイベントをレポートする。

 アスリートの月経問題の発信、啓蒙活動を行っている競泳五輪2大会連続出場した伊藤華英さんをMCに、月経周期を考慮したパフォーマンスの研究・開発に取り組み「THE ANSWER」で連載も手掛けている日体大・須永美歌子教授を講師に迎え、各1時間行われた。今回は、第2部に登場した鈴木さんが語った中から「月経とコンディショニング」のパートを取り上げる。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 摂食障害を乗り越え、五輪2大会に出場し、29歳まで現役で活躍した鈴木さん。イベントでは前半の「摂食障害」に続き、後半では「月経とコンディショニング」について語った。

伊藤「鈴木さんは現役時代、無月経を経験していたといいます。実際にはどんな状態だったのでしょうか?」

鈴木「フィギュアのシーズンは8月に組まれる合宿で追い込み、体力をつけて、仕上げる作業をします。同時に体も追い込まれていくので、合宿の頃から生理が止まり、9月に試合が始まってからシーズンが終わる3月の世界選手権まで、ほぼ無月経の状態。だいたい4月に生理が再開します。そこで大きく体重や体脂肪が変わったというわけではないですが、精神的な部分もすごくあったのかなと感じています」

須永「月経不順の原因はいろいろあるんです。視床下部性無月経は女性アスリートに多い無月経です。例えば、エネルギー不足、急激な体重減少、オーバートレーニング、それから鈴木さんが仰っていたストレス。これは脳の一部であり、女性ホルモンを出す出さないを命令している視床下部がストレスを受けすぎて、コントロール機能が低下している状態。結局、卵巣から女性ホルモンが出なくなり、無月経に陥ります。

 ですが、無月経の原因はこれだけではなく、脳の一部に病気があってきちんと女性ホルモンが分泌されなかったり、子宮や卵巣の形がもともとおかしかったりなど、単に食べてないから無月経になるわけではありません。どうしても女性アスリートは視床下部性無月経が注目されていますが、原因はいろいろあるということ。生理が3か月以上止まったら、あとは15歳になっても初潮が来なかったら婦人科の受診を勧めます」

伊藤「鈴木さんは無月経の間に体の不調だったり、コンディションに影響が出たりということはありましたか?」

鈴木「そこは特に感じなかったのですが、もっと怖いのは月経が止まっていることを問題ととらえてなかったこと。本来は疑問を持って病院に行くべきですが、むしろ『生理が止まっているから自分は追い込めている』『あ、今年も私は頑張れているんだ』と、良くない頑張り方になっていました。生理が来ることが良くないと思っていたこと、あまりに自分が知らなかったことが一番恐ろしいなと思います」

選手、指導者は月経とコンディション管理にどう向き合うべきか

 これを受け、須永教授は海外で行われた研究結果をもとに正常月経の重要性を説いた。

須永「競泳で無月経の選手と正常月経の選手が全く同じトレーニングをして12週間後、400メートルのタイムトライアルの結果、パフォーマンスの変化を見ると、正常月経の選手は泳速度が上がり、無月経の選手は下がってしまった。『なぜ?』と思うかもしれませんが、視床下部は様々なホルモンをコントロールしており、体の調子を整える代謝調節ホルモンにも関係しています。パフォーマンスの変化には様々な要因があり、一概にホルモンの変化だけでは説明できませんが、無月経は病気であるという認識が必要です。正常な月経を維持しながら、健康な状態でトレーニングに取り組むことが、最終的に良い結果につながっていく。無月経はトレーニング、パフォーマンスに悪影響を及ぼすと考えられます」

 また、女性アスリートも悩ませるのが、強い生理痛が出る月経困難症。原因は2つあると須永教授が解説した。

須永「機能性月経困難症が割合では多いです。子宮が収縮する時に出るプロスタグランジンという物質が出すぎてしまい、お腹が痛むもの。もう一つの器質性月経困難症は卵巣などに病気があり、生理の時にお腹が痛むもの。痛みがあるのは当たり前ではありません。練習、日常生活に支障をきたす痛みは病気になります。対処として、まずは市販の薬を試す。治らなければ婦人科の受診を勧めます。私は痛みを我慢して練習する選択肢はないと思っています。フォームも変わってしまうし、100%の力を発揮する時に痛みが邪魔したらトレーニング効果自体が下がってしまうと感じます」

 ただでさえ、口に出しづらい月経の話題。選手、指導者は月経とコンディション管理にどう向き合うべきか。鈴木さん、伊藤さん、須永教授がそれぞれの立場から考えを語った。

鈴木「私の場合、コーチが男性だったので、より(症状は)分からなかったと思います。だから、練習の際に『今日、生理が来ました』と伝えていました。『動きが重たいな』『お腹が重いな』と思っているのに、練習で追い込まれると、ぶつかり合いにもなってしまいます。年齢的に20歳を過ぎて、大人になったら言えるようになりました。最初は『なんだ、言い訳か』と思われるかもしれないけど、20歳を過ぎてから言えるように……。そういうコミュニケーションは選手本人だけではなく、大人、周りの人が生理のことを正しく知ろうとしないといけないと感じます」

伊藤「コミュニケーションと信頼関係が、競技をしていく上で大きく関わってくるもの。特に10代は選手、指導者、保護者という3方向のコミュニケーションが大事になりますよね」

須永「鈴木さんの場合は男性指導者でしたが、女性指導者でも月経痛がある人とない人がいて、女性だから分かってもらえると話をしたら『生理痛で休むなんて』と言われる選手もいます。月経痛もそうですし、月経周期に伴うコンディション変化は個人個人違うので、最終的には一人一人、その日その日の状態に応じて声かけをしてもらえるといいのかなと思います」

質問コーナー「どういう場所があれば、10代で正しい月経の知識を学べた?」

 イベントは最後に質問コーナーを実施。事前に参加者から寄せられていたものに鈴木さんと須永教授が答えていった。

――鈴木さんも10代の頃は競技優先で正しい月経の知識に出会うきっかけも少なかったと想像します。大人になった今、振り返ってみて、どういう場所、機会があれば、10代で正しい知識を学ぶことできたと思いますか?

鈴木「私自身、生理な体にまつわる知識は、小学校の保健体育レベルのすごく浅いもので終わっていました。おそらく競技によっても体の作り方を含め、若い10代の選手に自分で管理しなさいというのは酷だと思います。なので、先ほど伊藤さんが言ったように選手、指導者、保護者という3つの連携で正しい情報を同じ時に共有する、しかもディスカッションできる場があるといいと思います。生理については友達同士でも躊躇したり、逆に全く壁がなく言える人もいたり、価値観は様々なので。さかのぼれば、それは生きてきた環境によるものだと思います。親や友人がオープンだったなど、置かれた状況で変わってしまうので、一緒に問題を共有できる意識、オープンに話せる環境が重要だと思います」

須永「今の話を聞いて、私は保健体育教員の使命を感じました。私が勤める日体大は中高の体育教諭だけではなく、小学校や養護教諭の免許が取ることができ、スポーツトレーナーになる人も多いです。『体育』は体を動かすだけではなく、健康になるための体の知識を得るための場であることをしっかりと伝えたいです。また、アスリート自身もサポートする側も正しい科学的根拠のある知識を身につけて、食事、トレーニングに取り組むのが自分の身を守るためにも重要だと教育していかなければならないと感じています。私が大学生に月経周期とコンディションについて教育するために作成した小冊子(『はじめての月経コンディショニング学』)が無料でダウンロードできますので、ご利用ください」

――トップアスリートに比べ、アマチュア選手、ジュニア選手は低用量ピルという選択肢が取りづらい現状にあると思います。月経痛に対して、スポーツパフォーマンスに影響がないようにするための予防策を教えてもらいたいです。

須永「低用量ピルは婦人科に受診しないと処方されません。婦人科に行くのは中学生や高校生にはハードルが高いと思います。でも、あまりにも痛みが強いのであれば受診してもらいたいです。月経痛が市販の薬で収まるなら、それでもいいと思います。ただ、ドーピングに引っ掛かる薬もあるので、日本スポーツ協会のサイトや、アンチドーピングに関する情報まとまったサイトもあるので確認すること。基本的に『痛い、もうダメだ』と思って飲むのではもう遅いと考えてください。痛み止めの使い方は、月経が始まった、これから痛くなりそうだ、という時に飲んだ方がプロスタグランジンという炎症に関連する物質を止めることできます。痛くなりすぎてから飲むのではなく、早めに飲んでください」

イベントを振り返り、鈴木さんが「衝撃だった」という内容とは?

 1時間に及んだイベント。最後には参加者に向け、鈴木さんと須永教授がそれぞれメッセージを送った。鈴木さんは「今日話したことが参加した女性アスリートと、彼女たちを支える方たちが持って帰って少しでも役に立つことがあればうれしいです。そして、少しでもこうやってオープンに話せる世界になっていってくれたらいいなと思っています」と語った。

 須永教授は「鈴木さんと伊藤さん、オリンピアン2人の貴重な話は大変勉強になりました。参加者の皆さんも2人の経験を聞きながら、自分に置き換えて考える良いきっかけになったのではないかと思います」と話し、さらに「私は研究者としてアスリートのコンディショニングに関わり、その分野における新しい知見を発信していきたいと考えています」と述べた。

 また、鈴木さんはイベント後に改めて取材に応じた。今回参加した理由について「今現在、スポーツを頑張っている女性アスリートと、それをサポートする方に直接お会いはできませんが、生の声を届けることによって、よりリアルに感じてもらえるのではないか。また須永先生、伊藤さんと専門の方と元アスリートと話すことにより、理解が深まるのではないかと思って参加しました」と明かした。

 イベントでは須永教授が紹介したデータに驚いたという。「衝撃だったのは、無月経と正常月経の選手がトレーニング効果に差が生まれたということ」と鈴木さん。「自分は生理が邪魔と思って過ごしてきたので『それなら、生理がある方が絶対いい!』という感情です。生理はもちろん体に必要ということもありますが、パフォーマンスにも良い影響があるんだと、もっと多くのアスリートも指導者も知るべきだと思います」と語った。

 その上で、女性アスリートの「コンディショニングのニューノーマル」の確立へ向け、こんな言葉で結んだ。

「摂食障害も生理もそうですが、自分が『選手としてどうなりたいか』を見失ってしまうと、対処の仕方が見えてこなくなります。その目標を明確に持ってもらうことで、体重のコントロールや食事を取ること、生理のことに対して、しっかりと向き合えるはずです。だからこそ、アスリートも自分の体にもっともっと興味を持っていくこと。これが、すごく大切なことだと感じます」(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)