連載「女性アスリートのカラダの学校」第29回―「暑熱環境下のパフォーマンス」

 スポーツを習い始めたばかりの小学生、部活に打ち込む中高生、それぞれの高みを目指して競技を続ける大学生やトップカテゴリーの選手。すべての女子選手たちへ届ける「THE ANSWER」の連載「女性アスリートのカラダの学校」。小学生からオリンピアンまで指導する須永美歌子先生が、体やコンディショニングに関する疑問や悩みに答えます。第29回は「暑熱環境下のパフォーマンス」について。

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 7月も後半に入り、日本は各地で猛暑日が続いています。高校総体も開幕しましたが、高温多湿の日本の夏は、運動時の体にとって非常に過酷な環境です。なかでも、運動時間が長い持久系スポーツはパフォーマンスが低下しやすくなります。

 ではなぜ、暑熱環境下ではパフォーマンスが低下するのでしょう? 暑さ対策の大切さをしっかり理解していただきたいので、まずは簡単に体の仕組みを説明しましょう。

 運動を行うと、筋肉が収縮することによって熱が産生されるため、体温が上昇します。すると、体温が上がりすぎないよう、体内環境を正常に保つシステムが作動。発汗などで体の熱を逃がし、暑さから身を守ってくれます。

 ところが、一方で発汗が多くなると、体内の水分が失われ、スポーツ時の熱中症のリスクが高くなります。同時に体内水分量の低下は、体の動きを悪くする原因にもなるのです。

 筋肉を動かすためには、酸素と栄養が必要ですが、それを運んでくれるのが血液です。車に例えると、血液は筋肉のガソリン。血液がどんどん筋肉に送られることで、スポーツ時も高いパフォーマンスを発揮できます。

 しかし、汗をたくさんかくと、血液から水分(血漿)が奪われ、ドロドロ(粘度の高い状態)になります。すると、血液を筋肉へスムーズに送り込むことができず、筋肉は「ガス欠」状態に。そのため、体の動きが悪くなってしまうのです。

 このように、運動時の水分補給は、熱中症予防だけでなく、パフォーマンスアップの面から考えてもとても重要です。

 集中するあまり、のどが渇くまでうっかり水を飲み忘れたり、「あともうちょっと頑張ろう」という気持ちで脚を止めなかったりという場面もあるとは思います。のどが渇く前に自分で飲む、集中する試合時などは指導者やチームメート同士声を掛け合うなどで、こまめな水分補給を心掛けましょう。

月経周期で基礎体温が変化する女性の注意点とは

 さて、女性の場合、月経周期に合わせて基礎体温が変化します。生理が始まる約1週間前の黄体期は、卵胞期に比べて体温が0.5度ほど上昇。そのため、学生から「体温の上昇から、パフォーマンス低下のリスクも高くなるのでは?」という質問が出ます。

 実際、「高温・多湿」の環境下では、黄体期に影響が出るとの研究報告もあります。高温多湿環境(気温32度、60%)と温暖環境(気温20度、湿度45%)で、それぞれ卵胞期と黄体期に持久性運動をした場合の反応を比べた実験では、高温多湿下では黄体期に、持久性運動をキツイと感じる、運動を持続できる時間が短い、という結果でした。

 こういった報告もありますが、月経周期が持久性パフォーマンスに与える影響については、さらなる研究が必要です。

 ただし、黄体期の女性は普段よりも体温が高くなるのは事実。そのため、特に黄体期は水分補給や練習後のケアを心掛ける必要はあると考えます。とりわけ、発汗量が多く、体温が上がりやすい、日本の夏は要注意です。

 夏は学校が休みになり、追い込む練習に入る部活動も少なくないと思います。適切な水分補給は月経周期と同様、モニタリングが大事。一度、練習前後に体重を計り、1回の練習でどのぐらい体重が減るのかを見てみてください。練習後、減っていた分が「足りない水分量」なので、次の練習からはその分の水分も飲むように、心掛けましょう。

 最後に、発汗すると体が冷えるのは、かいた汗が蒸発するときに皮ふの温度を下げるためです。湿度が高い昨今は、汗が蒸発しにくい環境。例えば氷のうを用意する、送風機や送風ミストに当たるなど、強制的に汗を蒸発させる、体を冷やす工夫も必要と言われています。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。

須永 美歌子
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『1から学ぶスポーツ生理学』(ナップ)