APOLLO PROJECTによる「A-MAP」プレゼン大会でMVPを獲得

 アスリートとして身につけた素晴らしい資質を、社会に還元する方法を探し、実践のアシストをする一般社団法人「APOLLO PROJECT」。元Jリーガーで引退後はビジネスパーソンとして経験を積んだ山内貴雄さんが代表理事、元ラグビー日本代表主将で現在はリーダー育成や新規事業開発などに力を注ぐ廣瀬俊朗さんを専務理事とし、アスリートたちが自分の価値を再確認し、高める機会を提供している。

 競技生活に没頭するあまり、一般社会との繋がりを感じられず、引退後のキャリアに不安を抱く現役・引退アスリートたちは多い。現役時代に身につけた判断力、チャレンジ精神、チームワークなどをビジネスシーンで生かす方法を学びながら、アスリートの価値を通して社会の課題解決策を探る場として、今年1月に「A-MAP(Athlete Mindset Apollo Program)」を開講。1期生となった11人(現役5人、引退6人)の受講生は「学びと実践」をキーワードに、多岐にわたる課題に取り組む日々を過ごしている。
 
 課題図書を輪読したり、ビジネス界はもちろん各界で活躍する人々の講義を受けたり、毎週月曜日に全員参加のZoomミーティングを開催したり。自分の価値を知り、何を軸として生きていくのか探る「マインドセット」、課題に沿った企画立案をし、実践・リフレクションまでを経験する「ビジネス実践」、提携するビジネス・ブレークスルー(BBT)大学のクラスを受講し、一般学生と共に学ぶ「他流試合」という3つの目的に沿う形で、1年間のプログラムが設計されている。

 数ある課題の中でも「学び」と「実践」を紐付けたのが、「あなたの競技の5年後に向けたグランドデザイン(戦略)を考えてください」というテーマで実施されたプレゼン大会だ。まずは7月19日にオンライン上で予選ピッチを開催。1人あたり10分という制限時間でプレゼンを行い、審査員を務めた荒木重雄さん(スポーツマーケティングラボラトリー代表)、宇田左近さん(BBT大学副学長)が採点した。評価基準は、課題特定度、実現性、独創性、社会的意義、収益性、プレゼン力の6項目。受講者の発表内容は予想以上にレベルが高く、本戦ピッチへの出場者を当初の3人から5人に増やしたほどだった。

 8月23日に開催された本戦ピッチに参加したのは、元バスケ日本代表の竹田謙さん、元ラグビー日本代表の大野均さん、元ラグビー選手の菅藤心さん、現役ラグビー選手でサントリー所属の木村貴大選手、同じく現役ラグビー選手で日野所属の木村勇大選手の5人。予選ピッチから約5週間で企画をブラッシュアップし、今回は1人あたり25分のプレゼン時間でより具体化した戦略を発表した。

 審査委員長を務めた荒木さんに加え、本戦では田口一成さん(ボーダレスジャパン代表)と廣瀬さんが審査員として参加。その競技を知るアスリートならではの着眼点を称える一方、実際のビジネスプランとして足りない部分を指摘するなど本音をフィードバックする審査員たちだったが、3人がMVPに選んだのが大野さんが発表した「スポーツの力を福島の元気に」だった。

福島を拠点とするスポーツチームで団体設立の夢「当事者意識や共通の想いがあれば」

 東日本大震災から10年が経ち、復興の気運は徐々に風化しつつある。だが、被害に遭った地域ではまだ立ち入り禁止地区があったり、風評被害を受けていたり、今なお震災の事実や復興と隣り合わせの生活が続く。福島県郡山市出身の大野さんは、現役時代に所属した東芝ブレイブルーパス東京を通じて復興支援に携わってきたが、さらに一歩踏み込んだ支援が必要だと実感。そこで福島県を本拠地とするプロスポーツチームで団体を作り、競技の垣根を越えて結束し、福島を盛り上げる戦略を立てた。

「スポーツと社会貢献を掛け合わせたグランドデザインを考える時、やっぱり自分の福島に対する強い思いがありました。福島や東北に対して、まだまだ何かできることがある。そう考えてたどり着いたグランドデザインです。震災復興と言っても、地域や分野によって震災以前の状態に戻っているところと、まだまだ支援が必要なところに分かれています。軽々しく一括りにはできないと感じたので、ラーニングアドバイザーの方にも助言をいただきながら、いろいろな方に話を聞きまとめてみました」

 大野さんが引退を発表したのは2020年5月。コロナ禍による混乱の只中で、福島へはなかなか帰れない。そこで福島のリアルな声を聞くべく、バスケットボールB2リーグの福島ファイヤーボンズの西田創さん(代表取締役社長)とサッカーJ3リーグの福島ユナイテッドFCの鈴木勇人さん(代表取締役社長)に話を聞いたという。ファイヤーボンズではチャリティーマッチや募金活動を行ったり、福島ユナイテッドFCでは風評被害払拭を目的に始まった農業活動が、いまや選手・スタッフ自らが生育から収穫、販売までを行ったり、それぞれに有意義な活動を実施している。他のスポーツチームも「福島のために」という想いを持って活動しているという話を聞けば聞くほど、福島のスポーツ界として一つにまとまる必要性を感じたという。

 ただ、福島に限らず、スポーツチームが競技の枠を超えて団結するには越えなければならない壁が多く、人知れず頓挫した試みは多い。それでも大野さんは「福島を拠点に活動する選手たちは福島の人たちの温かさを身近に感じていると思う。応援してくれる人たちのために何かしたい。福島が抱えている問題は自分たちの問題でもある。そういう当事者意識や共通の想いがあれば実現できると思います」と声を大にする。

 仮に団体を設立したら、スポンサーを募った合同スポーツイベントを開催するだけではなく、地元企業への貢献として選手やトレーナーがチーフ・ヘルスケア・オフィサー(CHO)として従業員の健康維持向上をサポートする想定もしている。また、合同スポーツイベントでは子どもたちが秘める才能を発掘する機会を設け、福島独自のアスリート育成システムを構築したい考えもある。

漠然とした想いを具体化させた「A-MAP」での学び

 現役時代から人望が厚いことで知られ、ラグビー日本代表チームでは最多キャップ数(98)という実績を誇る大野さん。本戦ピッチの審査員からは「難しいとされる競技の枠を越えた取り組みを実現できるとしたら均さんだと思う」と最大級のエールを送られた。「期待されたプレッシャーもありますが(苦笑)、できるところから少しずつ。いきなりポンと立ち上げることはできませんから」と誠実な口調で語る。

 昨年、引退した当初は「何かしたい」と漠然とした思いはあったが、ラグビーで培ったキャリアをどうやって生かすべきなのか、自分が何をやりたいのかが見えていなかった。そんな中、縁あって参加したA-MAPでは自分と徹底的に向き合い、ボンヤリとしていた想いを徐々に言語化できるようになってきた。

「EQという自己分析テストを受けたら、自己効力感がすごく弱いことが分かりました。こういうテストを通じて改めて自分自身のことを知ったり、スポーツをやっているだけでは出会えなかったビジネスパーソンの方々のお話が聞けたり、本当にいい刺激と学びを得ています。第1期生の仲間も現役選手もいれば引退した人もいるし、いろいろな競技から集まっている。様々な考え方に触れると、自分の新たな気づきやモチベーションにも繋がりますね」

 1年間のプログラムでもあるA-MAPは後半となり、ここからは実践として自らがアクションをとる機会が増える。スポーツと福島を繋ぐグランドデザインを現実のものとするためにも、ビジネスを意識した実践経験を重ねることがカギとなる。ビジネスの世界でも生かしていきたいスポーツで身につけたスキルについて聞くと、大野さんはすかさず「傾聴力ですね」と言った。

「まずはしっかり人の話や意見を聞くこと。これは引き続き、実践していきたいと思います。傾聴力はどの場面でも大事ですから。そして、スポーツをやってきた者として、自分の意見もしっかり伝えていきたいですね。SNSを頻繁に更新するタイプではありませんが(苦笑)、自分なりの発信力も身につけていきたいと思います」

 高い評価を受け、大きな期待を寄せられた大野さんのグランドデザイン。課題発表の枠にとどまらず、近い将来、現実のプランとして動き出すことを願いたい。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)