内村航平が自画自賛した着地、込められた想いとは

 体操の世界選手権は24日、福岡・北九州市立総合体育館で最終日の種目別決勝が行われ、内村航平(ジョイカル)は鉄棒14.600点で6位に終わった。メダル獲得はならなかったが、完璧な着地を披露。誰よりも歓声を受け「会心の一撃」と自画自賛した。体操人生でこだわってきた着地には、見る者を沸かせたいという内村の美学があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 この瞬間だけは誰にも譲れない。マットに響く音に美学が詰まっていた。

 内村は冒頭のH難度の離れ技「ブレトシュナイダー」でやや肘が曲がった。バーを確実に掴んだものの、得点に響く内容。カッシーナ、コールマンと離れ技を披露し、会場を沸かせた。最後にグングンと勢いをつけ、空中を舞う。神経が研ぎ澄まされた足先はそろったまま。地面から衝撃を受けても、微動だにしなかった。

 観客席はスイッチが入ったように沸く。「ガンバ 航平」の横断幕が揺れ、スタンディングオベーションに。直後に出番を控える橋本大輝も、海外選手たちまでも声を上げて拍手を送る。視線を独り占め。主役はフーっと息を吐く。歓声を噛み締めるように両拳を握り、右腕を力いっぱい突き上げた。

「落下はしていないし、会心の一撃だと思う。あれだけの着地に自分の気持ちが高ぶった。個人的にはこれ以上ない。今の自分ができることは全て出せた。メダルを獲れなかったけど、鉄棒の選手の中ではお客さんを一番味方につけたんじゃないですかね」

 自分に厳しいキングも自画自賛だった。演技終了から約2時間後の会見。「今でも音を覚えている。『バシン!』って。リオの時の感覚に近かった」。リオ五輪個人総合は最終種目の鉄棒で大逆転。美しい着地で連覇を飾った時を彷彿とさせる出来だった。

 これだけ胸を張れるのも、3か月間の苦しみがあったからだ。東京五輪は予選で落下。9月の全日本シニアは着地で尻もちをついた。「五輪が終わってなかなか気持ちを押しあげることができなくて、練習もうまくいかない」。誰よりも繊細に操ってきた体が言うことを聞かない。全身に痛みが走った。「いや、本当に皆さん(報道陣)は僕の練習を見てないからわからないんですよ」と笑いながら続けた。

「練習では着地するのもいっぱいいっぱい。(五輪以降は)一回も止まってないし、止められる次元じゃない。今まで散々こだわってきたものが今日の最後に出て、全てをいろんな人に伝えられた嬉しさがありますね」

結果以外の喜びを味わった内村の今後「その追求はやってみたい」

 生まれ故郷の北九州市で世界体操。「お客さんに楽しんでもらいたい」。五輪と世界選手権を合わせて8連覇。結果を求め続けた男が、結果以外の何かを求めるようになった。20日の予選では一人観客席に歩み寄り、サイン入りの日本代表Tシャツを投げ込んでプレゼント。この日は、日本代表の後輩たちを連れて同じようにファンサービスをした。

「結果を気にせず、お客さんに見てもらう、楽しんでもらうのはできた。いつもは終わってから『あれがこう、これがああだ』とか演技のことを考えるけど、今日は全くないんですよ。(低い得点は)いい練習を積めなかったのが理由。その中でも、あの着地で全てを伝えられたのかなと思いますね。あの着地はもうできない。もう出せないです」

 着地のほんの一瞬で「内村航平」を表現した。後輩たちにも着地の重要性を伝えてきた。「もうこれ以上ないです。やり切ったというのが正直な気持ち」。しばらくは休養に充てる方針。進退の決断は「別に今する必要はない。そうとう考えないと。そんな簡単じゃない」と熟考していく。

 ただ、この日味わった快感は、次の境地への第一歩になるのかもしれない。

「体操は『自分が自分であることを唯一証明できるもの』です。体操をやることについて、今日結果じゃないものを知れた気がする。『スポーツは結果が全て』と言いましたけど、『結果が全てじゃないな』と。そこの追求はやってみたい」(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)