連載「元世界王者のボクシング解体新書」: アンカハスとの待望の統一戦へ気合十分

 ボクシングの元WBC世界ライトフライ級チャンピオンである木村悠氏が、ボクサー視点から競技の魅力や奥深さを伝える連載「元世界王者のボクシング解体新書」。今回は、大みそかの開催が決まったWBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔の2団体統一戦に注目し、待望の一戦に臨むボクサーの心理状態や、数々の歴史を塗り替えてきた井岡の凄さについて触れている。

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 12月31日に東京・大田区総合体育館でボクシングスーパーフライ級の統一戦が行われる。WBO世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(32歳/志成)と、IBF同級王者のジェルウィン・アンカハス(29歳/フィリピン)の対戦が発表された。

 IBF王者のアンカハスは、フィリピンの英雄パッキャオの“後継者”と呼ばれるボクサーだ。

 2016年に世界タイトルを獲得してから9度の防衛回数を重ね、5年以上もの間王座を守り続けている。これまでの戦績は36戦33勝(22KO)1敗2分、軽量級とは思えないほど破壊力のあるパンチを持っている。過去には日本人ボクサーとの対戦経験もあり、2017年に帝里木下、2019年には船井龍一と戦っているが、いずれもKOで下している。

 サウスポースタイルで、鋭い踏み込みから放たれるストレートはパッキャオに通じるものがある。非常にアグレッシブなスタイルで、一度打ち出すとパンチが止まらない。フィリピンで期待されているボクサーであり、井岡のこれまでの対戦相手の中でもトップクラスの選手だろう。

 試合の発表があった会見で、井岡はアンカハスの印象について「メチャメチャ強い。一番強い相手。すべてが一流で穴がない」と語っている。井岡は王者になった時から統一戦を望んでいた。

「自分がずっと望んでいた統一戦。いろんな価値だったり、評価だったりがある。違った景色を見たような感覚があり、別格なものがあると思います」

 この試合に向けたやる気は非常に高い。試合へのモチベーションは、そのまま試合へのパフォーマンスに影響する。

 筆者も経験があるが、守る試合と挑戦する試合だと、気持ちの入り方も大きく変わる。練習への集中力やコンディション作り、トレーニングの内容なども含めて、気持ち次第で出来も変わるだろう。

田中恒成が認めていたボクシングの上手さ

 井岡はこれまで4階級制覇、王座統一など様々な偉業を成し遂げてきた。彼のようなクラスになると、ただの防衛戦では気持ちも乗らないだろう。

 前回2021年9月には、元王者のフランシスコ・ロドリゲス・ジュニアを迎え防衛戦を行った。元王者だったが下馬評では井岡が有利。しかし、挑戦者の打ち合いに巻き込まれ、思いのほか苦戦した。井岡本来の持ち味が出れば、もっと簡単に勝てた相手だっただろう。その試合をなんのためにするのか――それが見えている試合と、見えていない試合では内容も大きく変わってくる。

 井岡の持ち味は、独特な間合いから試合をコントロールする距離感だ。傍目には分かりづらい武器だが、相手からしたら遠距離からパンチが飛んでくるため気づいたらパンチをもらってしまう。タイミングが狂わされ、非常にやりづらい。

 昨年末に対戦した田中恒成に話を聞く機会があったが、「駆け引きの上手さ、経験が優れていた。ボクシングというものを分かっている。自分のすべてを出したが、通用しなかった」と話していた。3階級を制覇している元王者が完敗を認め、ここまで言わせるとは驚きだった。

 著者もまだ学生時代の井岡と、手を合わせたことがある。その時から独特な距離感を持っていて、パンチがまったく当たらなかった。パンチを当てる間にも優れ、相手の出方を見て試合を決める勝負強さも持っている。アンカハスも強敵ではあるが、熟練したボクシングを見せる井岡がどのように戦うのか、興味深い。

アンカハス戦の先に見据える頂上決戦

 この階級で最も評価が高く、強いと言われるのは、WBA&WBC統一王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)だ。前回の試合では、元最強王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との激闘を制し、WBCのベルトに加え、WBAのベルトを獲得した。次戦も“ロマゴン”との再戦が決まっていたが、コロナで延期されている。

 井岡はことあるごとにエストラーダの名前を出し、対戦を望んできた。今回の試合に勝てば、試合の実現に近づくだろう。統一王者同士が戦えば、4団体統一の偉業を達成することになる。スーパーフライ級では過去に王座が統一されたことはないので、実現すれば初の快挙だ。

 井岡は2009年にプロデビューしてから、7戦目で世界タイトルを獲得している。その後は、統一戦や複数階級制覇などあらゆるタイトルを獲得してきた。今回の試合で30戦目となり、年齢も32歳と若くない。キャリアのゴールも見据えているだろう。年末の試合でどんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみだ。

 これまで数々の歴史を作ってきた井岡は、どこまで行くのだろうか。スーパーフライ級の頂上決戦は近いかもしれない。(木村 悠 / Yu Kimura)