一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第1回は女子ゴルフ・渋野日向子

 2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」をスタートする。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第1回は、3月の女子ゴルフ21年初戦・ダイキンオーキッドレディス(沖縄・琉球GC)に出場した渋野日向子(サントリー)が登場する。ギャラリーと一緒にゴルフを楽しむ姿を目撃し、「伝えてほしいことは何か」を聞いた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 渋野も、ファンもゴルフを楽しんでいる。両者の関係は密接に結びついているように見えた。

 3月4日、今年初戦の初日。各日1000人を上限とし、19年最終戦以来459日ぶりに有観客が解禁された。沖縄では2年ぶりの大会開催。868人が駆けつけ、渋野の組にも多くのギャラリーがついた。

 印象に残ったのは、大きな拍手が鳴った3番の今年初バーディーではない。9番パー4、グリーン奥のバンカーに入れてしまった後だった。第3打のアプローチ。フワリと浮いたボールは勢いが足りない。傾斜をゆっくりと下る中、渋野は下から煽るように何度も両手を大きく振った。

 今にも止まりそうなボールに対し、笑顔のまま“もっと寄って”という気持ちを込めたジェスチャー。少しオーバーな動きに、数百人の観衆から笑い声が漏れた。

 3メートルほど届かず、パーパットを外してボギー。通常はバーディーやナイスパーなど好プレーに対して鳴る拍手が、スコアを落とした渋野に注がれた。1アンダーの20位発進となったラウンド後、一日を振り返る22歳の声は弾んでいた。やはり笑顔だった。

「(有観客は)久しぶりだったので、最後までめちゃくちゃ楽しんでいました。同組の選手への拍手でさえも嬉しかったです。小さい声で『ナイスバーディー』『頑張れ』と言われるのも、しみじみ来ました。拍手って本当に凄いものなんだと改めて感じましたね。私は見に来てくださる方がいることによってゴルフを楽しんでいるんだなと。去年は(無観客で)それをあまり思えなかった。ギャラリーの方々の大切さを凄く感じました」

 以前取材したツアー通算6勝の北田瑠衣は、ラウンドレポーターとして間近で見守ったことのある渋野について「ギャラリーも含めて『みんなで一緒に楽しみましょう!』という感じが凄く出ている」と表現していた。沖縄で見た光景は、まさにそんな雰囲気に包まれていた。

渋野は笑顔でプレー、ギャラリーの存在に感謝した【写真:Getty Images】

沖縄の最終日、「伝えてほしいことは何か」を聞いた

 紳士のスポーツとされるゴルフ。どの選手も同組の選手がいいプレーをすれば、「ナイスバーディー」などと一声かける。ミスをすれば、淡々と進めるのが普通の光景。ところが、同組選手がバーディーパットを惜しくも外した時、渋野はカクンと膝を折ってリアクションをとる。ゴルフをする上で、それもリズムの一つなのだろう。他競技と比べても長い約5時間のプレー。その場にいる全ての人と、時と空間を共有しているように見えた。

 19年は全英女子オープン優勝など、国内外5勝で時の人となった。大観衆の前でもありのまま。ロープ外から名前を呼ばれると、ペコペコと会釈で返す。コロナ禍以前、コース脇に小さな子供がいれば、自ら歩み寄ってハイタッチ。遠くから飛ぶ「ひなこちゃ〜ん!」という幼い声。手が届かなければ、満面の笑みのアイコンタクトで応えていた。

「全英で優勝してから本当に凄く忙しかったけど、たくさんの人に支えられて頑張ってこられた。応援してくれる人たちもそう。感謝の気持ちしかない。いろんな人のために頑張りたい」

 今年の国内ツアーは38試合中、有観客は15試合。渋野はそのうち10試合(全18試合)に出場し、2勝を挙げた。オフはプライベートも話題になってしまう。沖縄の最終日、プロゴルファー・渋野日向子に「伝えてほしいことは何か」を聞いた。真っすぐな想いに溢れていた。

「『テレビでは見たことがある』と言える人はいるかもしれないですけど、会場に来て見てもらいたいなっていう気持ちもあって。今、私がゴルフをやっているのって、ゴルフを知ってもらいたい、小っちゃい子に女子プロの世界を目指してほしい、そういうことを考えてやっている状態です。

 やっぱり小っちゃい子にゴルフの楽しさを知ってほしい。それを言葉で伝えるのは凄く難しいんですけど。小っちゃい子からおじいちゃん、おばあちゃんまでできる競技。それはもうゴルフしかないと思う。いろんな人に楽しんでもらいたいって思います。まずはクラブを持ってみるとか、テレビでも見てみるとか。入れるようになったら、会場で見てもらいたいなって感じです」

 彼女が今、努力を惜しまない理由の一つだろう。渋野は支えてくれる周りのスタッフたちを「チームしぶこ」と呼ぶ。そこにはギャラリーも含まれているに違いない。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)