伊藤友広さんが「東北『夢』応援プログラム」に登場

 元オリンピック選手と東北の子どもたちが“走り”で成長を目指し、交流する。距離を越えた取り組みが再び、始まった。20日、岩手・宮古の陸上競技場。この場所で行われた「東北『夢』応援プログラム」に登場したのは、2004年アテネ五輪陸上1600メートルリレーで4位入賞した伊藤友広さんだ。遠隔指導ツール「スマートコーチ」を使ってかけっこ指導をする、半年間のプログラムのスタートを切った。

 伊藤さんにとって2年ぶりの宮古訪問だった。同プログラムは、タブレットやスマートフォンで遠隔指導できる「スマートコーチ」を使った最先端の取り組み。「東日本大震災復興支援財団」が協力し、アスリートなどが子供たちにスポーツ指導する理念に賛同した伊藤さんは指導役となる「夢応援マイスター」を務めて6年目を迎える。今回は宮古の地元トラッククラブに所属する小学3年生から中学2年生まで8人を指導していく。

 この2年間はコロナ禍により、すべてオンラインの指導・交流のみだったが、ようやく対面での実施となった。この日は半年間のプログラムのスタートとなる「夢宣言」イベント。冒頭で「宮古に来るのは久しぶりで、楽しみでした。リモートの良さもあるけど、直接会うから伝えられることが多い。触れ合いながら楽しく、効果があることをやっていきましょう」と伊藤さんは呼びかけた。

 この日のみの参加者となった子どもたちも含め、ちょっと緊張した様子ながら思い思いに意気込みを口にした。「たくさんのことを学んで今後の練習に生かしたい」「フォームを直してタイムを縮められるようにしたい」。最初に行ったクリニックでは、ケンケンやスキップなどを織り交ぜながら、走りの基本となる正しい姿勢についてレクチャー。今回、伊藤さんが工夫したのが「足の動かし方」だ。

子どもたちに「トレーニングを繰り返していくことが大事になる」とエールを送る伊藤友広さん【写真:村上正広】

56個の骨がある“足”の重要性「これだけ骨があれば、いろんな動かし方ができる」

「人間は骨の数が206個と言われていますが、そのうち足首から下に何個あるか知っていますか?」と呼びかけた。子どもたちに教えた答えは56個。伊藤さんは「これだけの骨があれば、いろんな足の動かし方ができます。でも今は機能の良い靴をみんな履いていて、足を使えない子も多い。指が地面から浮いてしまう“浮き指”の人は日本人の50%以上いると言われています」と足首から下の“足”の重要性を説明した。

 その上で「足の動かし方」強化メニューも実施。芝生の上で裸足になり、足の指にぐっと力を入れて「グー」にしたり、足の指を開いて「パー」にしたり、それぞれの形を保ったまま足首を上げ下げもした。「練習でたまに裸足で走ってみるといい」と伊藤さん。「靴はクッションがあるし、変な走りになってしまう子もいます。でも、裸足ではかかとをついて走らないし、自然とフォームが直る可能性もあります」とレクチャーした。

 1時間半のクリニックの締めくくりに10メートルのケンケン、20メートルのスキップ、50メートル走のタイムを測定。7秒3台の中学1年生から10秒台の小学3年生まで。この数字を縮められるように取り組んでいくことになる。子どもたちが寒空の下、一生懸命に走る様子を温かい眼差しで見守った伊藤さんは「今日やったトレーニングを繰り返していくことが大事になるので頑張ってください」とエールを送った。

 そして、イベントの最後には、この日のメインとなる「夢宣言」を実施。プログラムに参加する子どもたちが「将来の夢」「未来のわたしの街をどうしたいか」「半年後の約束」をノートに書き込み、みんなの前で発表していく。「見ている人に勇気を与えられるアスリートになりたい」「緑豊かな住みやすい街にしたい」「50メートルのタイムを0.3秒縮めたい」などと伊藤さんに向かって宣言していた。

子どもたちに伝えた言葉「走る練習は単調でつまらないかもしれません。でも…」

 さらに、伊藤さんへの質問コーナーも。元オリンピック選手になんでも聞ける機会に次々と手が挙がった。「アスリートとして大事にしていることは何ですか?」「靴はどんなポイントで選んだらいいですか?」「大会後の筋肉痛を解消するトレーニングメニューはありますか?」などなど。「走っている時は何を考えていますか?」という素朴な質問に、伊藤さんはこう答えた。

「自分がどんな風に走っているか、フォームのことを考えはしますが、人間が走りながら気をつけることができるのは1つくらい。あれもこれもと気にしながら走ろうと思っても難しい。だから、1つだけ気をつけるポイントを決めて走る方が集中力を発揮できると思います」。トップアスリートならではの答えに、子どもたちも納得したように頷いていた。

 伊藤さんが拠点を置く東京と宮古まで、その距離およそ480キロ。今後は「スマートコーチ」を通じて伊藤さんが課題を与え、子どもたちがそれに取り組む様子を動画で撮影。返信された練習動画を見た伊藤さんがアドバイスを返す、という形でコミュニケーションを図っていく。距離を越えた新たなチャレンジ。最後に、伊藤さんはこんな言葉を贈り、別れを告げた。

「走る練習は単調でつまらないかもしれません。(球技のように)ボールを投げたり蹴ったりした方がいいかもしれません。でも、走りはシンプルだからこそ突き詰めると面白い。頭をひねって、どうすれば速くなるだろう、上手くいくだろうと考えていく。このプログラムを通して、走りだけじゃなく“これはどこにポイントがあるんだろう”と考える癖がつく。そういう、きっかけになればいいなと思っています」

伊藤さんからの言葉を胸に、今から半年後が楽しみだ【写真:村上正広】

 走りを通じて学べる、人生に大切なこと。タイムとともに、それを追い求める半年間になる。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)