九電工・大塚祥平「苦しんだ分、試合でうまく走れると達成感も大きい」

 2021年12月の第75回福岡国際マラソン。大塚祥平(九電工)は4位に入り、2024年パリ五輪マラソン日本代表の選考会となる、2023年マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)への出場権を獲得した。

「2時間6分台を出せればよかったのですが、予想よりも高い気温、30キロまで今まで経験したことのない速いペースだったことによるダメージが、後半、思った以上にきてペースが落ちてしまった。次の大きな(節目となる)大会は、23年のMGCになると思うので、そこに向けてどれだけ成長できるかです」

 大塚のマラソンデビューは大学4年時だった。地元・大分東明高校から、箱根駅伝で走ることを目標に駒澤大学に入学。1年時から箱根を走るなか「お前はマラソンが向いている」と大八木弘明監督に言われた。

「高校時代からテレビでマラソンをみながら、うっすら『いつかはマラソン!』ぐらいには頭にあったと思います。でも、OB、先輩、同級生に強い選手がいるなかで大八木監督からそう言ってもらったことで明確に意識するようになりましたし、自信にもなりました」

 そして、2017年3月。第72回びわ湖毎日マラソン(世界陸上ロンドン大会選考レース)で初マラソンに挑戦する。「監督から『出るぞ!』といわれ、あ、ハイ、という感じ(笑)」で出場を決め、箱根が終わった後、すぐにマラソンの練習に切り替えた。

「そのときのゴールタイムのイメージは、2時間10分台。大学2年のときに出場した30キロレースの感覚から『しっかり練習して臨めば、10分そこそこぐらいでいけるんじゃないかな』という感覚があったんです。

 当時、日本のトップでも2時間10分を切る選手があまりいないなか、正直、『(実業団には)強い選手ばかりなのに、何で皆、10分切れないのかな?』と思っていました。ところが、やっぱり2キロぐらいから足が重くなった。30キロを過ぎるとどうしようもできないキツさに変わり、『これがマラソンか!』と感じました。結果、2時間15分もかかってしまった。やっぱり甘くはなかったです(笑)」

シューズは高校時代からアディダスを愛用。「ここ数年、シューズの進化でトラック、駅伝、マラソンと一気に記録が伸びている。昔よりもシューズの重要性が高くなっているなと感じます」【写真:荒川祐史】

経験値を積んだMGC「達成感のあるレースでした」

「自分よりも強い選手はいっぱいいる」。そう自らの立ち位置を評価する大塚は2019年、東京五輪の選考シーズン突入後も、本大会出場を特別意識することはなかった。

 ところが、東京五輪マラソン日本代表選考レースとなった2019年9月のMGCファイナル。大塚は指定レースで出場権を得た31名のランナーが出場するなか、レース終盤まで先頭集団を走った。

「6月ぐらいから本格的にマラソン練習を初め、本当にアクシデントもなく、予定通りのいい練習ができました。本命に見られる選手のプレッシャーはすごかったと思いますが、自分は強い選手がたくさんいるなかで、どれだけ通用するのか?とチャレンジする立場。体も心もよい状態で、集中して臨めた」

 3キロを残し、レースは中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)、大迫傑(ナイキ)の三つ巴の体となる。このとき4位につけていた大塚は3人の少し後ろから、冷静にレース展開を『観戦』していた。

「勿論、体はきつかったんですが、(3人の)争いを後ろから見ていて『大迫さんが離れている!』と思ったり、また大迫さんが追いつく姿に、『おぉ〜さすがだなぁ』と思ったりしていました。

 順位が一つ、二つ、上だったら全然違ってはいましたが、あのレースは積んできた練習を含め、本当にやれるだけのことをやったと思えた。4位に入ったことは自信になったし、後悔はなく、達成感のあるレースでした」

 その後、中村、服部、大迫が東京五輪男子マラソンの代表に内定。大塚は橋本崚(GMOインターネットグループ)とともに補欠となり、『4番目の選手』として東京五輪を迎える。

「よく『補欠の立場で大変ですよね』と言われましたが、全然気になりませんでした。むしろプレッシャーはないが下手な走りはできない、という立場だったので、いい緊張感や責任を持って、競技や試合に取り組めました」

目標とする2時間5分台へ「まずはケガをせず、トータルでいい練習をすることが大事」と先を見据えた【写真:荒川祐史】

補欠のまま準備を続けた東京五輪「いい経験になりました」

 2021年8月。大塚はレース4日前に開催地の北海道・札幌市に入る。そして本番2日前の8月6日、補欠解除の知らせを受け、すぐに九電工の合宿に合流。レースはテレビで観戦した。

「東京では補欠解除の日まで、いざ出番が回ってきたときも自信を持っていける準備ができたこと。そして通常、マラソンがない(夏の)時期に向けて準備、練習をするという、いい経験になりました」

 五輪をリアルに体感した後も、五輪出場に対する特別な想いはない。世界大会出場、タイトル獲得を掲げるよりも前に、今の自分から進化することに集中する。

「マラソンはレース自体が高速になってきているので、自分もそういう走りが出来るよう、スタミナもスピードもしっかりレベルアップしないといけない。

 強い選手に練習内容を聞くと、量も質も本当にレベルが高いんですね。今の自分では考えられない練習量、スピードで走る。同じレベルの練習は今の僕には出来ないので、まずはケガをせず、トータルでいい練習をすることが大事だと思っています。マラソンでの目標ですか? 今、日本記録が2時間5分を切るペースなので、まずは5分台を出せる力をつけたいですね」

 中学時代は陸上とサッカーの二足のわらじだった。中学3年で長距離の楽しさを駅伝で知り、高校から陸上一本の人生を歩む。

「マラソンは試合もしんどいが練習もしんどい。でも、苦しんだ分、試合でうまく走れると達成感も大きい」

 2時間5分台に乗せるプランは出来ている。次のMGCでは背中を追うのではなく、追われるランナーになるべく、一日、一日を、ひたすら走る。

■大塚祥平(おおつか・しょうへい)

 1994年8月13日生まれ、大分県出身。大分東明高校時代からトップランナーとして活躍。駒澤大学に進学し、1年時より箱根駅伝に出場。卒業後は地元・九州に戻り、(株)九電工に入社。2019年のMGCでは4位。2020年12月の第74回福岡国際マラソンでは2時間07分38秒の自己ベストを記録。2021年12月の第75回福岡国際マラソンでは全体4位、日本人2位となり、2023年のMGC出場権を獲得した。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。