田中希実の独占インタビュー第2回

 陸上女子中長距離の田中希実(豊田自動織機TC)が「THE ANSWER」のインタビューに応じた。全3回にわたってお送りする第2回は、タイム競技における「記録との向き合い方」について。東京五輪では、女子1500メートルで日本人過去最高の8位入賞。22歳にして複数の種目で日本記録を打ち立ててきた。どのように記録と向き合いながら日々の練習に励んでいるのか。中高生にも参考になる言葉を送った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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「記録」との戦いを強いられた時、どうやって克服すればいいのか。陸上に限らず、競技スポーツに置いて記録は付きもの。世界で戦うようなトップレベルだけでなく、部活などでも一つの指標とされる。ただ、分かりやすい数字に囚われ、調子を崩したり、怪我に陥ったり、悩む選手は少なくない。

 とりわけ、ランナーにとってタイムの更新は宿命である。田中も切っても切り離せない立場だ。

 2020年7月に非五輪種目の3000メートルで8分41秒35をマークし、福士加代子の日本記録を18年ぶりに更新。同8月にも1500メートルで小林祐梨子の日本記録を14年ぶりに塗り替えた。昨年の東京五輪でも1500メートル予選で日本記録を上回ると、準決勝でも日本女子初の3分台突入となる3分59秒19をマーク。決勝で日本人初となる8位入賞の快挙を果たした。(※3000メートルは2021年7月に自身の記録を更新 8分40秒84)

 五輪後は1000メートルでも更新し、3種目で日本記録を持っている。今、中長距離界で「日本最速」のランナー。周囲の期待や報道陣からの問いなど、否が応でも記録を意識する機会が多い。田中はどう向き合い、戦っているのか。

「毎年の目標として、ずっと自己ベストを出したいと思ってやっています。でも、今後はタイムを出し続けるのが難しくなってくるので、自分の中でタイムに対する折り合いをつけるようにしています。『体がこれぐらいの状態なら、これぐらいのタイムで走れたらいいか』というのも大事。キャリアで自分の最高点はここだと決まったら、それ以上は出ないと思う。今後、その折り合いも必要になってくると思います」

 どんな選手にも成長期があれば、記録が頭打ちになる時期もある。女子選手であれば生理や体形の変化が訪れる。その日の体調に左右されるものなのに、タイムだけで判断すればオーバーワークに繋がりかねない。どこかで「折り合いをつける」のが大切だという。

昨年6月の日本選手権、スタート直前に集中した様子の田中【写真:奥井隆史】

卒業論文で忙しい12月、いい意味の“逃げ道”とは

 しかし、田中自身も「折り合いをつけるのは下手で」と苦笑いする。「ずっと前年と比べてしまう。(2021年は)前年を超えられたと思える練習をなかなか詰めていなかった」。東京五輪前は毎週のようにレースに出場し、異例の調整法を取った。春のシーズンインから「また去年よりダメだ」の繰り返し。その過程で東京五輪は無我夢中になり、チャレンジ精神を持って楽しんだことで結果がついてきた。

「自分の経験としては、『さらに上の自分に期待する』という気持ちを常に持っていれば、ずっと同じぐらいのタイムで停滞していても、ふとしたタイミングでまたポンと上がることが多いです。だから、タイムにこだわりすぎない方が壁を越えられると思います」

 同志社大スポーツ健康科学部に通う4年生。昨年末は他の学生と同じように、卒業論文の提出期限が迫っていた。思い切って練習できず「モヤモヤしていた」とコンディションは完璧ではなく、もちろんタイムも出ない。忙しい時、いい意味で“逃げ道”をつくるという。

「全てを言い訳にしてはいけないんですけど、逃げられるところをつくる。『自分はこれだけ他の人と違う部分でも頑張っているから』と思えています。ただサボってダメだったわけではなく、『今の自分が出せる精一杯はこれだ』と納得して走れるようになった。その時の全力をしっかり出せているという意識を持てればいいと思います。私も最近になってやっと開き直ってきた。あまり深く考えない、開き直りが大事なのかなと思います」

 選手を見守る指導者も然り。自分を追い込み過ぎず、かといって手は抜かず。杓子定規ではなく、いい塩梅を見つけなければならない。

(最終回「田中希実の文章力と読書論」は30日掲載予定)

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)