リモートワークという新しい働き方が、コロナ禍のなかで普及していきました。技術的には以前から可能であったものが、こうしたきっかけで普及していくというのはちょっと皮肉にも感じますが、働き方の選択肢が増えるというのはポジティブに捉えてもいいかもしれません。

リモートワークのより進んだスタイルとして、「ワーケーション」というものも登場しています。「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を合わせたもので、休暇を楽しみながらも仕事時間を確保するというスタイルだとか……。どんな働き方になるのか、実践した方に話を聞いてみました。

秋田県が提案するワーケーションプランに参加

お話をうかがうのは、株式会社JTBにお勤めの村田恭子さん。

実は、JTBではコロナ禍以前から、社内でワーケーションをすることを認めていたといいます。最初はハワイと沖縄の現地事業所でのワーケーションを導入していましたが、2020年に休暇先の滞在先宿泊施設なども適用拡大したところに、新型コロナウイルスの感染が拡大してしまいました。

村田さんが利用したのは、秋田県のワーケーションプラン。秋田県では、地方創生の新たな人の流れを作り、将来的な移住の拡大や地域の活性化を図るために、県と市町村が協力して取り組んでいます。

─村田恭子さん(以下、村田)
昨年4月、私が現在の部署に異動した直後に新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言が発令され、上司や同僚たちと新しい関係を築けないまま、リモートワークとなってしまったんです。そこに、ワーケーションのプランがあるということで、思い切って手を挙げてみました。

期間は2020年10月の土日を挟んだ1週間。場所は秋田県大仙市で、仕事の時間はワークシェアスペースを使わせていただくという形でした。同じ部署の上司と後輩と、3人で参加しました。

平日は「Shared office Cozy」というシェアオフィスでふだんどおりの業務を行う

─「ワーケーション」というと、リゾート地での休暇中に何日か仕事もする、というスタイルを思い描いていましたが、実際はどうでしたか?

─村田
大仙市はいわゆるリゾート地とは違う、小さな町です。平日はシェアオフィスで仕事をして、土日に観光をするというスケジュールでした。

先ほどもお話ししたように、新しい部署に来てすぐにリモートワークでしたので、となりに人がいる仕事環境がとてもよかったですね(笑)。すぐに質問もできましたし。

シェアオフィスは快適で仕事もはかどり、効率は上がっていたと思います。
ワーケーションをテーマにして3人でブレストしたりもしましたが、同じ場所で、同じ体験をした者同士で話し合うので、話が早いですし、理解度が深まりましたね。

村田さんのワーケーション スケジュール

DAY1(水) 秋田到着
10:20 東京駅発
13:35 大曲駅 着
15:00 大曲散策
18:00 夕食〜自由時間

DAY2(木) 終日ワーク
9:30 Shared office Cozyでワーク
12:00 昼食
13:00 Shared office Cozyでワーク
17:30 夕食〜自由時間

DAY3(金) 終日ワーク
9:30 Shared office Cozyでワーク
12:00 昼食
13:00 Shared office Cozyでワーク
17:30 夕食 〜自由時間

DAY4(土) 角館武家屋敷見学と花火造り体験
10:00 仙北市角館へ 角館武家屋敷を見学
11:30 昼食
13:30 大仙市大曲へ小松煙火工業で花火造り体験
18:00 花火打ち上げ観賞
18:30 夕食〜自由時間

DAY5(日) 酒蔵見学
10:00 由利本荘市へ 齋彌酒造店で酒蔵見学
12:00 昼食
13:00 由利本荘市内散策
18:30 夕食〜自由時間

DAY6(月) ワーク〜はなび・アム見学
9:30 Shared office Cozyでワーク
12:00 昼食
13:00 花火伝統文化継承資料館「はなび・アム」で見学
18:30 夕食〜自由時間

DAY7(火) 帰路
10:39 大曲駅発
14:04 東京駅 着

※今回のプランは、滞在費としてのホテル代(朝夕食付)、ワークスペース利用料、アクティビティ代は秋田県の方で負担、現地までの交通費、ワークの日の昼食、現地での交通費、自由行動で使う費用は参加者の負担でした。

現地にいるからこその「気づき」

─普段とは違った環境で仕事をすることで、どんなものが得られましたか?

─村田
私自身は秋田には何度かプライベートで訪れたことがあったのですが、その時とは違った刺激を受けることができました。

大きく違ったのは、現地の方との人脈ができたことでした。秋田県庁の方と直接お話ができたり、県民の方の生の声を聞くことができたりしたんです。そこから、ただ旅行をしたり、出張で訪れたりした時とは違ったものを得られましたね。
私たちは「旅」をテーマにした仕事をしていますが、どうしても発地(旅の出発地)のことばかり考えてしまっていたんです。具体的にいうなら、東京からどうやって地方の観光地に旅をしていただくか…という視点ばかりで、着地(旅の目的地)ではどんなふうに受け入れていただいているのかという目線が持てないでいたんだなと気づけました。

地元の方はどんなことを自慢に思っているのか、どんなことを知ってほしいと思っているのか、それがわかることで「観光」というものを再定義できるのではと感じました。

─旅行を扱っているお仕事に活かせる経験をできたということですね。

─村田
東京にいるだけでは、気づけなかったと思います。
ブレストの結果、「明日、あの人に会いに行こう!」なんて決めて、すぐに行動したりもしました。それも現地にいてこそできたことで、ワーケーションのメリットかもしれないですね。
いろんな方との出会いは、“セレンディピティ”だったなと。偶然の出会いだったり、意図しない情報が飛び込んできたりして…

私たちのような業種は旅そのものが仕事に結びつきますが、他の業種の方にもそれぞれ気づきがあると思います。
ワーケーションのプランはいろいろとありますから、ご自身の取り組んでいるものに合ったものを選べば、いろんなニーズを見つけることができたり、その地域の方と人脈を作ることができたりします。

ただ出張として行くのではなく、短い間ですが、現地で生活してみることで見えてくるものがあるはずです。

花火づくりを体験したあとは、日本有数の花火を間近で観賞

ワーケーションならではのひと味違った観光体験

─お休みの土日にはどんなことをされたのですか?

─村田
花火づくりを体験したり、日本酒の仕込みを見学したりと、“秋田ならでは”という経験をさせていただきました。
大仙市大曲地区は「全国花火競技大会」、通称「大曲の花火」が有名です。「日本三大花火大会」であり「日本三大競技花火大会」の1つとされています。

毎年8月に開催されるのですが、2020年はコロナ禍で中止になってしまっていましたが、私たちが訪れたときに、特別に花火を上げてくださったんです。あんなに間近で花火の打ち上げを観るという経験をしたことがなかったので、その音、その迫力に圧倒されました。

日本酒の仕込みでは試飲もさせていただいたのですが、お酒を作っている人たちの話を聞きながらだと、ひと味違って感じるものですね。

「みちのくの小京都」と呼ばれる角館の武家屋敷を案内してもらう

創業明治35年、自社酵母で醸す独自の酒質が特徴の齋彌酒造で地酒を試飲


─現地でさまざまな経験をされたことで、心境に変化はありましたか?

─村田
昨年はなかなか旅ができない1年でしたので、とてもリフレッシュできました。すぐ近くに山があり、川があり、いつもと違った景色があることが気分を変えてくれました。これこそ、ワーケーションの最大のメリットだと感じました。

実は、私自身、コロナ禍で仕事のモチベーションがかなり下がっていたんです。
GoToキャンペーンなどもありましたが、旅をすることがエッセンシャルなことではないといわれてしまっているような気がして、やるせなく感じて、仕事のやりがいを見失いかけていたんです。

ふと、そんなことを漏らしたら、秋田県庁の方が“活”を入れてくださりました(笑)。
「日本の観光の未来は、あなたたちにかかっているんだよ!」って。

“ハッ”と思って、自分が携わっているツーリズム(テーマを持った旅や観光)という仕事の意義を、思い出すことができました。初心に返ったというか、煮詰まってしまった自分をリセットするという意味では、ワーケーションはとてもいい体験だなと思いました。


─今後も、ワーケーションをしてみたいと思いますか?

─村田
そうですね。
もう一度秋田で、ワーケーションをしてみたいです。今度は、バケーション部分ではさらに遠方まで足を伸ばしてみたいです。2回目の滞在になることで、地域への自分の想いや考え方がどう変わったのかを見てみたいです。

それから、もっと気軽にワーケーションができるようになったら、中国・四国地方、九州、離島など、東京とは文化の違うところに自分の身を置いてみたいですね。また、セレンディピティが訪れると期待して!

お話しいただいた人
村田 恭子さんJTB株式会社 虎ノ門第二事業部
2015年にJTB首都圏提携販売事業部入社。2020年、現部署に配属。IT企業を中心とした顧客に対してMICEサポート。オンライン×リアルバーチャルイベントのアレンジや、ワーケーションをはじめ、地方支店と発着連動した地域交流事業に携わる。

秋田県あきた未来創造部
地域づくり推進課 佐藤雅博さん

秋田県では、地域を応援して関わってくださる「関係人口」を増やすことを目指して、リモートワークやワーケーションのための取り組みを進めています。

コロナ禍で期せずしてリモートワークが普及したので、場所を選ばず仕事をすることができるようになりました。そこで「地域とつながるワーケーション」を提案しています。秋田はタテに長い県で、県北、中央、県南ごとに特徴があるので、それを活かしたプランを提案しました。

ただし、実際に行ってみると、いろいろと課題も出てきました。

ワークスペースにはWi-Fiなどは完備しているのですが、オンライン会議などができるような個室がほしいとのご要望がありました。

宿泊施設についても、ホテルであればWi-Fiが利用できるのですが、温泉宿に泊まっていただくプランだと新たに設備を整えなくてはなりませんでした。

こうしたことにも取り組みながら、秋田県の魅力に触れていただけるような施策を続けていければと思っています。

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ワーケーションは、休暇の間に単純に仕事日を設けるというだけでなく、訪れた地でどんな体験をするかという付加価値がポイントになってくるのではないでしょうか。長い休暇の取りにくい日本で、長期間その地に滞在することで得られる体験と、その間にも通常の仕事をこなすことができるワーケーションは、新しい「気づき」を獲得できる可能性を広げてくれるものかもしれません。