自治体では、がけ崩れや土石流などの土砂災害から住民の生命を守るため、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)および土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の指定を行っています。住宅購入の際、そうした区域をできるだけ避けるのは防災を考える上で基本と言えますが、すでに住んでいる場合、自分でできる対策はあるのでしょうか。

土砂災害に関しては擁壁の点検がポイント

不動産コンタルタント会社・さくら事務所のホームインスペクター(住宅診断士)、田村啓さんはこう話します。

「率直に言って、土石流に関してはほぼ何もできません。7月に起きた熱海の土石流の映像にもありましたが、土石流は山津波とも呼ばれるように、ものすごい勢いで濁流が流れてきます。個人で何かしら対抗することは非常に難しいです。地すべりも、山そのものが地面ごと崩れてくるものなので、これを防ぐには大きな土木工事レベルの話になります」

傾斜が急で、そのままでは宅地などとしての利用が困難な土地を崖地と言います。大雨や台風などによる土砂災害の危険性が高いため、多くの場合、斜面の土を留めるための壁である擁壁(ようへき)で補強されます。

「斜面のある所に家を建てる場合、ブロックや鉄筋コンクリートで作った壁を造って、一定の角度より急になっている崖とか斜面を受け止めて崩れないようにしてくれるのが擁壁です。擁壁は設置されてから年月がたっているケースがたくさんあるのが実態です。そこで国交省では『我が家の擁壁チェックシート(案)』を出しています。その中には一応、斜面は押さえてくれるものの、地震や豪雨のときに崩れる恐れがある前兆が示されています。たとえば、クラック(ヒビ)が入り始めてるとか、前後にズレ始めていたりとか」(田村さん)

家の近くの擁壁に前兆が発見されたときは、被災する恐れがあります。土砂災害に関してはまず、擁壁の点検が身近で重要なポイントです。

出典:国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」から抜粋

出典:国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」から抜粋

増し積みされている擁壁は危ない

擁壁では亀裂やひび割れと併せ、「水抜き穴」を忘れずにチェックしておきたいところです。

水抜き穴とは敷地内の土に染み込んだ雨水を抜くために、擁壁に開けた穴のこと。

「雨が適切に排水されていれば、穴から水が流れた跡が残っています。雨が降っていないときでもびしょびしょに濡れていたり、大量の水が噴き出したりしていると、擁壁裏の土に多くの地下水が含まれている、近くの土地で行き場を失った雨水などが流れ込んできているといったことが想定されます。通常、擁壁には土からの圧力がかかっていますが、さらに大きな水圧がかかったり、水によって地盤自体が崩れやすい状態となり、擁壁が崩壊する可能性があります。また、穴が詰まって排水されないと、敷地内の土壌に水がたまって擁壁に想定を超える力がかかり、土を支えきれず崩壊する危険もあります」(田村さん)

擁壁に穴がある場合は、雨が降った後にちゃんと水が流れてるかどうか見てみましょう。穴から排水されず、擁壁表面の隙間から雨水が染み出しているケースも要注意です。計画的に水抜き穴から排水させようとしていたことができていない状況です。

田村さんは、写真のような「増し積み擁壁」にも大いに注意すべきだと言います。

「最初に作られた擁壁の上に、ブロックみたいな擁壁が増し積みされ、構造の違う擁壁が2段になっています。これは不安定な構造なので大雨や豪雨、地震のときに崩れてしまう可能性があります」

構造の違う擁壁が2段になった増し積み擁壁(提供:さくら事務所)

戸建てですべき水害対策ポイント

浸水リスクが高い所に住んでいる場合、個人でできることはどんなことがあるのでしょうか。

「防災科学技術研究所と一条工務店が昨年10月、実際に家を丸ごと水に漬からせてどこから水が入ってくるのかを実験で確かめています。最初に基礎の下から水が入ってきます。基礎に穴が開いているとそこから入ってきます。その後、玄関から浸水が始まり、台所やトイレなどの排水口から逆流が始まります。この実験結果から個人でできる対策としては、まず玄関や窓から入ってくる水を物理的に防ぐ『浸水対策』、続いて排水口の『逆流対策』、そして外にある設備の『水没対策』。この3つをしておかないと、水害に強い家にはならないということです」(田村さん)

意外と水害に弱いマンション

コンクリートでできたマンションは水害に強いと思われがちですが、意外なところに弱点があります。

「床下浸水50センチぐらいの水没でも、エレベーター停止や地下駐車場への浸水は起きることがあります。エレベーターを動かしている電気設備は地上や地下にあるからです。そういうものが浸水するとライフライン関係が一切使えなくなる可能性があります」(田村さん)

マンションの場合、命に関わる被害のリスクは、戸建てよりも低いのですが、水が引いた後に生活を続けるのが難しくなったり、大きな補修費用がかかったりするのは戸建てと変わりません。

「マンションでは、物理的に水を遮蔽する止水板の設置をする『水防ライン』というのを決める管理組合が増えています。また、降水量が何ミリになったときに誰がいつ頃止水板を付けるのか、というようなマニュアルの策定をしています。建物を住人全員で守っていくということが必要になります」(田村さん)

国土交通省と経済産業省は2020年6月、「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を公表しました。洪水などの発生後も機能を継続できるように、マンションやオフィスビル、病院、庁舎などにおける電気設備の浸水対策や、豊富な具体例を示したのが特徴です。

今後は管理組合を中心に、こうした情報を共有し、水害対策について話し合うことが求められます。

〈取材協力〉
株式会社さくら事務所