(9日、高校野球 松商学園12―3土浦日大)

■土浦日大・永井悠大

 「ジャイアン」が甲子園で美声を響かせた。意外に高めのテノールボイス。大歓声の中でよく通る。「うちは終盤強い!」「塁に出ろ!打て!」。チームをベンチから盛り上げた。

 176センチ、90キロのいかつい体に丸顔。アニメの登場人物と違うのは、抜群の音感を持つところだ。高校の歌唱テストで学年1位になった。4歳から始めたピアノを繊細に奏で、ギターの弾き語りもできる。

 ただ野球は器用にいかない。一塁守備は「守れる範囲は人より狭い」。本塁送球はワンバウンド。1、2年時はベンチ外。豪快な打撃に憧れ、練習試合で大振りしては凡退した。「結果も出ない。腐っていた」

 救ってくれたのが音楽だった。新チームになってからの冬の強化合宿。体育館での練習時、舞台にピアノがあった。「弾けるやついるか」と監督。「エリーゼのために」を弾いた。拍手喝采。疲れていたみんなの表情が緩み、うれしかった。

 同じ頃、3年生を送る会で中島みゆきの「糸」を歌った。「縦糸と横糸が交じり合うのは、選手や指導者、保護者が協力する野球と一緒だな」。監督の言葉が胸に響いた。

 「仲間のためにプレーしよう」と思った。チーム打撃に徹し、フォームをコンパクトにした。確実性も長打力も増した。左の代打、声で鼓舞するムードメーカーとして春の大会で初めて背番号をもらった。

 甲子園で出番はなかった。泣き崩れる後輩の肩をたたき、最後まで仲間を気遣った。「もうちょっと早く気がつけば良かった。でもできることはやった」

 大学で野球を続ける。そしてまた声や楽器で人を和ませられたら、うれしい。(有田憲一)