【2017年7月20日 慶応義塾大学】

天の川銀河内には、太陽の数倍から十数倍の質量を持つ軽いブラックホール(恒星質量ブラックホール)が数億個存在すると理論的に予言されているが、これまでに発見されている候補天体の数は60個ほどしかない。その理由として、多くのブラックホールが伴星を持たず孤立した、いわば「野良」であるためとみられている。恒星質量ブラックホールはその周囲に広がる降着円盤から放出されるX線を検出することで発見されてきたが、降着円盤を継続的に輝かせるためにはブラックホールのすぐ近傍に物質供給源となる伴星が必要だからだ。

慶應義塾大学の竹川俊也さんらたちの研究チームは、東アジア天文台のジェームズ・クラーク・マックスウェル電波望遠鏡を用いて、天の川銀河の中心核「いて座A^*」から約30光年以内の領域をサブミリ波で分光観測し、いて座A^*周辺の分子ガスの運動と物理状態を調べた。

その過程で同領域内に、直径3光年程度と小型で、周囲の既知の分子雲とは明らかに異質な運動をしている2つの分子雲が発見された。詳細な解析から、これらの特異分子雲はそれぞれが太陽の十数倍の質量を持ち、10の47乗erg(エルグ)以上(太陽が1秒間に放出するエネルギーの約20兆倍)もの膨大な運動エネルギーを持っていることがわかった。

膨大な運動エネルギーの起源として超新星爆発との相互作用や重い原始星からの双極流などが挙げられたが、2つの分子雲にその痕跡が見当たらなかったことから、既知の天体現象以外の“何か”が特異分子雲の駆動源になっていることが示された。そこで研究チームは、「点状重力源が巨大分子雲へ高速で突入し、重力で引き寄せられた部分が局所的に加速されることで生じる」というシナリオを提示した。この「突入モデル」によれば、以下のいずれかの場合に、発見されたような特異分子雲が生じる。

・太陽の十倍程度以上の質量を持つ天体が、秒速約100kmの高速で分子雲に突入。

・太陽と同程度の質量を持つ天体が、秒速約1000kmの超高速で分子雲に突入。

2番目の場合、突入天体の候補としては天の川銀河の重力を振り切るほどの超高速度で運動する軽い恒星(超高速度星)が挙げられるが、超高速度星はこれまで天の川銀河中心部には発見されておらず、大質量星やブラックホールの数に比べて極めて少ないことが理論的に予言されていることから、可能性は低い。

一方、1番目のモデルでは、突入天体の候補は大質量星か恒星質量ブラックホールと考えられる。さらに、分子雲方向に大質量星のような強力な放射源の存在が確認されていないことから、今回発見された2つの特異分子雲の駆動源は、いて座A^*の周りを飛び交う「野良ブラックホール」である可能性が高いということになる。

天の川銀河中心部を飛び交う野良ブラックホールの想像図//天の川銀河中心部を飛び交う「野良ブラックホール」の想像図(提供:慶応義塾大学)

今回の研究は、天の川銀河の中心の超大質量ブラックホール近傍を複数個の野良ブラックホールが飛び交っている可能性を初めて観測的に示したものだ。天の川銀河の中心核から30光年以内の領域には1万個以上ものブラックホールが潜んでいるという理論予測もあり、その一端をとらえたという点で有意義な成果である。