【2019年5月28日 北海道大学】

木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスなど、氷を主成分とする氷衛星のいくつかには地下に厚い氷があり、その下に「内部海」と呼ばれる凍らない海を持つことが、惑星探査機やハッブル宇宙望遠鏡の観測などから明らかになっている。

巨大ガス惑星の衛星だけでなく、地表温度がマイナス220℃と極寒の氷天体である冥王星にも内部海が存在していることが、NASAの探査機「ニューホライズンズ」の観測データから示されている。冥王星の、ハート型模様に見える地域の左半分は、窒素の氷河で覆われた白い巨大な盆地となっているが、この盆地が赤道付近に存在するという事実は、盆地の地下の氷が薄く内部海が厚いことを示している。もし厚い内部海が存在していなければ、この盆地が極に向かうように冥王星が回転してしまうはずだ。

冥王星の表面
(左)冥王星の自転軸、赤道、軌道方向の関係。白いハート型は赤道付近にある。(右)地形データを元に作成された冥王星表面の高度図。ハート型の左半分は周りよりも高度が低く盆地になっている(提供:プレスリリースより、以下同。冥王星の画像はNASA/JHUAPL/SwRI)

氷衛星よりも冷たく熱源にも乏しい冥王星の内部海がなぜ凍結していないのかという謎について、北海道大学の鎌田俊一さんたちの研究グループは、主にメタンを閉じ込めたガスハイドレートが内部海と氷地殻の間に存在するという新たなアイディアを提唱し、数値シミュレーションを行った。

ガスハイドレートとは、水分子でできた「かご」の中に気体分子を閉じ込めた氷のような物質だ。とくに、メタンを閉じ込めたメタンハイドレートは地球の海底にもあり、天然資源として近年注目されている物質でもある。鎌田さんたちはメタンハイドレートが通常の氷と比べて、熱伝導性が悪く高い粘性をもつことに着目した。

冥王星の内部構造
今回のシミュレーションで用いた冥王星の内部構造のモデル。氷の厚い地殻と内部海との間にメタンハイドレード層が存在する

まず、太陽系が形成されてから現在までの約46億年間に及ぶ冥王星内部の熱・構造進化シミュレーションを行ったところ、メタンハイドレートが存在しない場合は何億年も前に内部海は完全に凍結するが、メタンハイドレードが存在する場合には断熱材として機能し、表面は極寒でも内部海はほとんど凍結しないことがわかった。

冥王星内部の熱・構造シミュレーションの例
冥王星内部の熱・構造シミュレーションの例。横軸は時間経過、縦軸は冥王星中心からの距離、色は温度を示す。(左)メタンハイドレードが存在しない場合、内部海は10億年ほど前に完全に凍結してしまう。(右)メタンハイドレードが存在する場合、内部海は凍結しない

また、氷地殻の厚さが均一化するのにかかる時間を算出したところ、メタンハイドレートが存在しない場合には100万年程度だが、存在する場合には10億年以上かかることがわかった。

地下にガスハイドレート層が存在すると考えると、冥王星の大気に窒素が多く一酸化炭素が少ないことも説明がつく。メタンや一酸化炭素はガスハイドレート層に取り込まれやすく地表にあまり出てこないが、窒素分子は取り込まれにくいので表面に出てくることができる。ガスハイドレート層がいわば分子吸着フィルターのような役割を果たすということだ。

今回の研究成果は内部海の長期維持メカニズムを新たに提唱するものであり、内部海を持つ氷天体が想定以上に多く存在する可能性を示すものである。また、内部海の存在は特徴的な大気組成として観測されうることも示している。宇宙における海や生命の研究において重要な示唆を与える結果であり、地球外生命の探査という点でも大きな意義がある。