【2019年11月11日 JAXA/九州工業大学】

地球周辺の宇宙空間「ジオスペース」には、数百keV(キロ電子ボルト)〜数十MeV(メガ電子ボルト)という高いエネルギーを持つ電子が集まる「ヴァン・アレン帯」という領域が、地球を取り囲むように存在している。ヴァン・アレン帯の広がりや高エネルギー電子の密度は、太陽から放出されるプラズマ流(太陽風)の変化に応じて変動している。

太陽風とジオスペース
太陽風とジオスペースの解説図(提供:ISAS/JAXA)

ヴァン・アレン帯の電子は人工衛星等に影響を与えることもあるため、ヴァン・アレン帯の生成消滅のメカニズムを理解することは人類の安全な宇宙活動において重要な課題だ。しかし、これまでは、じゅうぶんな観測研究は行われてこなかった。

九州工業大学の寺本万里子さんたちの国際研究グループは、JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」、NASAのヴァン・アレン帯探査機「ヴァン・アレン・プローブ(Van Allen Probes)」、地上磁場観測網による協調観測を実施し、広い範囲で同時にヴァン・アレン帯の電場と磁場の変動などを調べた。

すると、「あらせ」が朝側に位置していた時に電子のフラックスの周期的な変動が観測された一方で、電磁場の変動は観測されていない現象が見られた。もし、電子がヴァン・アレン帯の広い領域でエネルギーを獲得したのであれば、「あらせ」は、電子の変動と同時に電磁場の変動も検出したはずだが、これが起こっていなかったということだ。さらにデータを調べたところ、エネルギーの低い電子のフラックス変動は、より高いエネルギーの電子のフラックス変動よりも遅れていた。このタイムラグは、電子がエネルギーを獲得した領域が「あらせ」の観測場所から離れたところであることを示している。

一方、同時刻に夕方側に位置していたヴァン・アレン・プローブでは電子フラックスの変動と磁場の変動の両者が観測され、高エネルギーと低エネルギーの電子フラックスの変動の時間差は「あらせ」が観測した時間差より短かった。これは、ヴァン・アレン・プローブが、ヴァン・アレン帯電子が加速を受ける場所付近にいたことを示している。

電子がエネルギーを受けたのは夕方側の狭い領域であるという観測データの解釈は、モデル計算でも確かめられた。さらに、地上観測網で地磁気の変動を調べたところ、夕方側にある領域で地磁気の変動が観測されており、電子のエネルギー獲得に関わる地磁気の変動は夕方側の限られた領域であることもわかった。

今回の観測・研究成果の解説図
今回の観測・研究成果の解説図。画像クリックで表示拡大(提供:ERG Science Team)

過去の研究では、地磁気の変動によってヴァン・アレン帯電子がエネルギーを受ける場所は、地球の周辺に経度方向に大きく広がっていると考えられてきた。今回の「あらせ」を含む複数の衛星と地上観測、モデル計算による研究結果は、ヴァン・アレン帯電子がエネルギーを獲得する場所は広い領域ではなく、夕方側の限られた局所であることを示しており、従来の説を覆すものとなった。

研究グループでは今後、地球磁場の変動に伴ってヴァン・アレン帯電子がエネルギーを獲得する領域が夕方側にどの程度広がっているのかをさらに詳しく調べる予定だ。ヴァン・アレン帯の生成モデルがより現実的なものに近づけば、予測精度が向上し、ジオスペースの理解や宇宙活動の安全に大きく貢献するだろう。