【2019年12月18日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所】

宇宙に存在する様々なタイプの銀河のうち、莫大なエネルギーを放射する「活動銀河核(Active Galactic Nucleus; AGN)」を持つ銀河は、銀河中心の超大質量ブラックホールの活動によって強烈な電磁波を放射し明るく輝いている。また、「スターバースト(爆発的星生成)銀河」と呼ばれるタイプの銀河では、太陽の8倍程度以上の質量をもつ大質量星が短期間に大量に誕生し、その星々によって明るく輝いている。

異なる物理現象をエネルギー源として明るく光っているこれら2つのタイプの銀河の間に関連性があるかどうかは、まだよくわかっていない。その原因の一つは、中心の銀河核領域にガスや塵といった星間物質が多く存在しているため、可視光線で内部を見通すことができないからだ。中心核付近に存在する分子ガスが発する電波(分子スペクトル線)を観測すれば、AGNやスターバースト銀河の中心部で起こっている現象に迫ることができると期待される。

日本大学の高野秀路さんたちの研究グループは、AGNを持つ銀河である、くじら座のNGC 1068(M77)と、典型的なスターバースト銀河である、ちょうこくしつ座のNGC 253、きりん座のIC 342という3つの渦巻銀河について、野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡を用いて約500時間に及ぶ観測を行った。観測は、波長3mm帯(周波数84〜116GHz)で周波数方向に連続的にデータを取得し、そこに含まれる分子スペクトル線を網羅的にとらえる「ラインサーベイ」と呼ばれる手法で実施された。

観測の結果、NGC 1068で25本、NGC 253で34本、IC 342で31本の分子および水素原子スペクトル線が検出された。NGC 1068とNGC 253については、この周波数帯の観測としてはこれまでで最も空間分解能の高いデータが得られている。また、IC 342についてこのようなラインサーベイ観測が行われたのは、世界初の成果となる。

3つの銀河に対する波長3mm帯のスペクトル
3つの銀河に対する波長3mm帯(周波数84〜116GHz)のスペクトル。(左から)NGC 253、IC 342、NGC 1068のスぺクトル。黄色で示した鋭いピークとして見えている部分がそれぞれの分子スペクトルに対応、右側が主な分子名(提供:リリースより一部改変。各銀河の画像提供元:NGC 1068: NASA, ESA & A. van der Hoeven/NGC 253: VISTA (Credit: ESO/J. Emerson/VISTA)/IC 342: Sedona Stargazer Observatory (Credit: Stephen Leshin))

スペクトル線を詳細に解析したところ、これまで見つかっていなかった分子が検出されたほか、炭素原子と窒素原子が結合したCNを含むシアン化水素などの分子が、AGNを持つNGC 1068ではスターバースト銀河であるNGC 253やIC 342などに比べて多く存在する傾向が明らかになった。一方、少し複雑な分子であるメチルアセチレンは、NGC 1068では全く検出されなかったが、NGC 253とIC 342でははっきりと検出されるという違いも見られた。

検出された23種類の分子の柱密度
今回のラインサーベイ観測で検出された23種類の分子の柱密度を3つの銀河で比較したグラフ。赤がNGC 1068(AGN)、青がNGC 253、黄がIC 342(ともにスターバースト銀河)を表す。シアン化水素など(橙色の枠で示した分子)はNGC 1068で高い値を示し、メチルアセチレン(水色の枠で示した分子)はスターバースト銀河で高くなっていることがわかる(提供:リリースより)

この観測結果は次のような状況の違いを反映していると考えられる。AGNでは中心の超大質量ブラックホール周辺からの激しいエネルギー放射のため、銀河核付近では複雑な分子が壊されてしまい、存在しにくい環境となっている。一方、スターバースト銀河では星の生成に伴って化学反応が進行し、より複雑な分子が生成され得る、というものだ。つまり、これらの分子はそれぞれのタイプの銀河の物理状態と密接に関係している可能性が高く、今後各タイプの銀河を見分ける指標となる分子であると期待される。

こうした傾向が他の銀河でも見られるかどうか、今後同様の観測研究を他の銀河でも進めていくことが、濃いガスの中に隠された超大質量ブラックホールの存在を明らかにする「電波指紋認証」の手法確立につながるだろう。