【2020年2月4日 スピッツァー】

NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」は、ハッブル宇宙望遠鏡・チャンドラX線天文台・コンプトンガンマ線天文台とともに、様々な波長の電磁波で宇宙を観測する衛星群『グレート・オブザーバトリーズ』の1機として2003年8月に打ち上げられた。以来、16年以上にわたって数多くの成果を挙げてきたが、日本時間1月31日午前6時30分に機体がセーフモードへと切り替えられ、すべての科学運用を終了した。

スピッツァー
「スピッツァー」のイラスト(提供:NASA/JPL-Caltech、以下同)

スピッツァーは地球とほぼ同じ公転軌道で太陽を周回する「人工惑星」の軌道に投入されていて、1年に約0.1天文単位ずつ地球から遠ざかる。地球から距離を置いて追いかけるような位置関係で太陽の周りを公転するため、地球から出る熱放射の影響を避けることができる。このおかげで、スピッツァーはより口径の大きな地上望遠鏡を上回る感度を達成した。同時に、スピッツァーは従来の赤外線天文衛星と比べてはるかに暗い天体を観測でき、より遠方の宇宙の姿を私たちに届けてくれた。

スピッツァーは、恒星や惑星の形成、初期宇宙から今日に至る銀河の進化、恒星間塵の組成など、天文学の様々な分野の研究に貢献してきた。

2009年には土星を取り巻く未知の巨大な環を発見した。2014年には、できたばかりの惑星系で小惑星同士が衝突した証拠を検出して、こうした天体衝突が太陽系の形成初期にも頻繁に起こり、惑星形成に重要な役割を果たした可能性があることを示した。2016年には、スピッツァーとハッブル宇宙望遠鏡による観測から、これまでに検出された中で最も遠い銀河の画像が得られた。

系外惑星の発見や惑星大気の研究でもスピッツァーは大きな成果を挙げた。特に、2017年にみずがめ座の方向約40光年の距離にある赤色矮星「TRAPPIST-1」の周りに7個の地球サイズの惑星を発見したことは、最も広く知られたスピッツァーの成果の一つだろう。

TRAPPPIST-1系の想像図
TRAPPPIST-1系の想像図

「スピッツァーの成功に直接貢献した人々の数は文字通り数百人にものぼります。また、数千人もの人々がスピッツァーを利用してきました。私たちの背後には、きわめて有用な科学的・技術的遺産が残されています」(プロジェクトマネージャー Joseph Huntさん)。

一般に、赤外線観測では望遠鏡や観測装置を極低温に冷却する必要がある。温度を持つ物体はすべて赤外線を放射するため、望遠鏡や装置自身が出す赤外線がノイズとなって観測の妨げになるためだ。スピッツァーは液体ヘリウムを冷媒に用いているが、液体ヘリウムはきわめて蒸発しやすいため、搭載されている液体ヘリウムがすべて失われた時点で、本来の性能での運用は終了となる。

スピッツァーには3種類の観測装置が搭載されているが、このうち赤外線分光計(IRS)と多波長撮像光度計(MIPS)のヘリウムが2009年に尽きたため、初期観測ミッションはここで終了となった。この時点でスピッツァーミッションは成功したと判断され、初期の科学目標を達成してさらに成果を積み重ねていたが、運用チームは最後に残された観測装置である赤外線アレイカメラ(IRAC)の観測波長4つのうち2つを使って、延長ミッションを行うことにした。これにより、スピッツァーはさらに10年半もの間、画期的な成果を挙げ続けた。これは当初想定されていたミッション期間を大幅に超えるものだ。史上最遠の銀河の撮影やTRAPPIST-1の惑星発見などはすべて延長ミッションで得られた成果である。

2016年には、次世代の赤外線宇宙望遠鏡であるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の打ち上げを見越して、スピッツァーミッションは2018年で終了することがいったん決定されたものの、その後JWSTの打ち上げが延期となったため、スピッツァーの運用は今年まで継続されることとなった。

スピッツァーがこれまでに取得したすべての観測データは無償で一般に公開されており、ミッションの終了後も長期にわたってこのデータから数々の発見が続くと期待されている。

スピッツァーの撮影画像
2015年、ミッションの12周年を祝って公開されたスピッツァーによる過去の撮影画像。画像クリックで表示拡大

「スピッツァーは宇宙についての完全に新しい視点を私たちにもたらしてくれました。宇宙のしくみを理解し、私たち人類の起源や、私たちは宇宙の中で孤独な存在なのか、といった様々な問いを投げかける上で、私たちを何ステップも先へと前進させました。スピッツァーによって、さらに研究を要する重要で新しい疑問や興味深い天体が見つかり、将来の研究の道筋が示されました。スピッツァーはミッションの終了後も長きにわたって、科学に計り知れないインパクトを与えることでしょう」(NASA副長官 Thomas Zurbuchenさん)。