【2020年5月15日 アルマ望遠鏡】

天の川銀河の中心核には「いて座A^*」と呼ばれる電波天体があり、その正体は太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールだと考えられている。いて座A^*はまれに、数時間の間に数倍明るくなる「フレア」という現象を起こすことがある。こうした明るさの変動を調べることは、いて座A^*の放射メカニズムの解明や、ブラックホール周囲の時空の理解につながる。

慶應義塾大学の岩田悠平さんたちの研究チームは、2017年10月にアルマ望遠鏡で観測した天の川銀河の中心方向のデータを解析し、いて座A^*の電波強度を精密に測定した。1日あたり70分の観測データを10日間にわたって調べたところ、いてA^*の電波強度が1時間以上の時間をかけてゆっくりと変化しながら、時おり30分程度の短い周期的な変動(瞬き)を見せることがわかった。

電波強度の時間変化
(a)2017年10月10日(上)と2017年10月14日(下)の観測で得られた電波強度の時間変化。青、緑、赤の点は観測周波数の違いに対応。強度変化は、1時間以上のゆっくりとした変動と周期的な短時間変動が合わさったオレンジの影で示した曲線に概ね沿っている(提供:Y. Iwata et al./慶應義塾大学)

電波強度の時間変動のうち、1時間以上のゆっくりとした強度変動は過去の研究ですでに指摘されており、ブラックホールの周囲に広がる高温のガス円盤(降着円盤)の粘性を反映したものと考えられている。一方、約30分周期の「瞬き」については、フレア時の赤外線およびX線強度において検出報告があったが、静穏時の電波強度で見出されたのは今回が初めてのことだ。

30分という変動周期は中心から約3000万kmという、降着円盤内の最も内縁における回転周期に相当している。つまりこの瞬きは、ブラックホールに極めて近い場所での現象に起因する可能性がある。研究チームでは、フレア時に発生する降着円盤内の熱いガスの塊(ホットスポット)が静穏時にも小規模ながら発生し、そのホットスポットが回転運動することで「相対論的ビーミング効果」(光速に近い速度を持つ放射源が観測者の方向に運動する際、放射エネルギーが上昇して観測される効果)により周期的な強度変動となって観測されているものだと解釈している。

超大質量ブラックホールとそのごく近傍で周回するホットスポットの想像図
超大質量ブラックホールとそのごく近傍で周回するホットスポットの想像図(提供:慶應義塾大学)

昨年、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)により史上初めて撮影されたブラックホール・シャドウの画像が公開され、大きな話題となった(参照:「史上初、ブラックホールの撮影に成功!」)。このときの観測対象はおとめ座の巨大楕円銀河M87の中心ブラックホールだったが、いて座A^*も同じく観測対象の一つとなっていた。しかし、いて座A^*については、まだ画像は公開されていない。今回の結果が示唆するように、いて座A^*は明るさと共に形状まで刻々と変化するため、長時間の観測を必要とするEHTでブラックホール・シャドウを撮像するのは容易ではないと、岩田さんたちの研究チームでは考えている。

一方で、電波の強度変動が降着円盤内のホットスポットに起因するなら、明るさの変動からガスの運動を描き出すことができる可能性がある。また、同様の観測をさらに高感度かつ継続的に行うことで、ガスがブラックホールを周回しながら吸い込まれていく様子を観測できることも期待される。こうした観測、研究により、強い重力場における時空構造の理解が進むと考えられる。