【2020年6月3日 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト】

私たちの天の川銀河をはじめとして、ほとんどの銀河の中心に超大質量ブラックホールが存在している。その質量はときに太陽の100億倍にも達するが、どのように形成されたのかは未だよくわかっていない。起源の一つとして考えられるのが、莫大な量のガスが一気に収縮して太陽質量の10万倍以上の超大質量星となり、それがブラックホールになってさらに周囲の物質を取り込んで成長するというものだ。

従来の理論では、ガス雲から超大質量星が直接形成されうるのは、宇宙空間にほぼ水素とヘリウムしか存在しない時期である、ビッグバン直後の数億年に限られていた。しかし、この理論では宇宙初期に形成された一部の超大質量ブラックホールの起源しか解明できず、現在観測されているより多くの超大質量ブラックホールの数を説明できていなかった。

ビッグバンから数億年以上経つと、恒星内部の核融合で生成された酸素や炭素などの重元素が超新星爆発によってまき散らされ、ガス雲の中に混ざってしまう。重元素を多く含むガスは冷えやすくなるため、ひとまとまりになる前に局所的に収縮し、質量はばらばらのままになるだろうというのがこれまでの予測だった。ただ、この予測は計算機の性能が不足していたため詳細に検証されておらず、ガスが分裂した後の進化はよくわかっていなかった。

東北大学の鄭昇明さんと大向一行さんの研究チームは、少量の重元素を含んだガス雲から超大質量ブラックホールの種となる大質量星が形成される可能性を確かめる必要があると考えた。「分裂したガス同士がその後の進化で合体し、巨大星を形成するかもしれないと予想しました」(鄭さん)。

鄭さんたちは国立天文台のスーパーコンピューター「アテルイII」を用いて、重元素を含むガス雲の長期間にわたる進化を高解像度の3次元でシミュレーションした。その結果、従来の予想に反して、重元素が存在する環境下においても大質量星が形成されうることが明らかになった。重元素の存在によってガス雲は激しく分裂するものの、依然としてガス雲の中心への激しいガスの流れが存在するためだ。

ブラックホールの種となる大質量星形成の想像図
ブラックホールの種となる大質量星形成の想像図(提供:国立天文台)

分裂により小さい星は多数形成されるものの、それらの多くは中心へ流れ込むガスに引きずられることで、中心付近に形成された重い星と衝突・合体する。このようにして重い星が効率よく成長し、太陽質量の1万倍という大質量星の形成が可能であることが示された。「重元素を含むガス雲からこれほど大きいブラックホールの種の形成を示したのは、本研究が初めてです。この巨大星はさらに成長を続けることで、超大質量ブラックホールに進化すると考えています」(鄭さん)。

シミュレーション結果
ブラックホール形成時における宇宙における物質分布(背景)とブラックホールを生み出すガス雲の密度分布(手前)のシミュレーション結果。手前の図において中心付近にある黒い点がブラックホールに進化すると考えられる大質量星を表す。白い点は、ガス雲の激しい分裂により形成された小さな星で、それらの多くが中心の大質量星と合体し、星が効率よく成長する(提供:Sunmyon Chon、以下同)

今回の計算に基づく大質量星形成モデルは、初期宇宙にしか適用できなかった従来のモデルの限界を突破するものである。天の川銀河の中心にあるものを含む、あらゆる超大質量ブラックホールの起源を説明する理論へ一歩近づいたと言えそうだ。

重元素を含むガス雲で形成される星の質量分布図
重元素を含むガス雲で形成される星の質量分布。最初の星形成から約1万年の進化を計算したもの。炭素や酸素などの重元素の存在によりガス雲が激しく分裂し、太陽質量(値=1)付近にピークを持つ分布が存在する。一方、太陽の1万倍の質量を持つ大質量星も同時に形成されることがわかる。それらの星はさらに質量成長し、最終的に重いブラックホールに進化すると考えられる

(Youtube動画)

ブラックホールの種となる大質量星形成のミュレーション動画