【2020年8月7日 すばる望遠鏡】

生命の源となる酸素などの重元素は、宇宙の長い歴史を通じて、星によって徐々に作られてきた。そのため、形作られ始めたばかりの銀河、つまり形成初期の銀河には、重元素はほとんど含まれていなかったと考えられている。初期宇宙にはそのような形成初期の銀河が多くあったと思われているが、標準的な宇宙論によると、現在の宇宙にもわずかに形成初期の銀河が残っている可能性があると予言されていた。

小島崇史さん(元東京大学大学院)と国立天文台・東京大学宇宙線研究所の大内正己さんが率いる国際研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」で撮影された高感度かつ大規模な画像データの中から、そのような形成初期の銀河を探そうと試みた。すばる望遠鏡の大規模データは約4000万個と多数の天体を含むため、わずかに存在するかもしれない形成初期の銀河を見つけるのは至難の技だった。

そこで研究チームは、膨大なデータの中から形成初期の銀河を探し出すために、新しく機械学習の手法を開発した。理論モデルから予想される詳細な色をコンピュータに繰り返し学習させることにより、形成初期の銀河だけを選び出した。「前例のない手法の開発だったので、約1年もの歳月を費やしましたが、無事に形成初期の銀河の候補となる天体を27個まで絞りこむことができました」(小島さん)。

開発された機械学習の手法の概念図
研究チームが開発した機械学習の手法の概念図。4つの色の情報をコンピュータに入力すると「ディープ・ニューラル・ネットワーク」と呼ばれる神経ネットワークのような構造を通じて計算が行われ、ある天体が形成初期の銀河である確率などが出力される(提供:国立天文台/Kojima et al.、以下同)

研究チームは機械学習で選んだ天体をさらに絞り込んだ上で、すばる望遠鏡やケック望遠鏡などによる分光観測を実施し、スペクトルから元素の含有量を調べた。その結果、ヘルクレス座の方向4.3億光年の距離に位置する銀河「HSC J1631+4426」の酸素含有率が、太陽のわずか1.6%しかないことがわかった。この酸素含有率は、これまでの報告例のなかで最小値だ。これほど酸素含有率が低いということは、この銀河にあるほとんどの星がごく最近作られたことを意味している。

「この銀河に含まれる星の総質量は80万太陽質量で、私たちが住む天の川銀河のわずか10万分の1ほどしかないことが明らかになりました」(大内さん)。これは天の川銀河を構成する星団1つと同程度で、単独の銀河としては極めて軽い。

研究チームでは、同銀河で活発な星形成が進んでいることや、約1000万年(宇宙年齢の0.07%)程度の短時間で大半の星ができたとみられることから、形成初期の銀河であると結論づけた。

銀河「HSC J1631+4426」
すばる望遠鏡による銀河「HSC J1631+4426」

今回の研究成果の意義は大きく分けて2つある。1つ目は、現在の宇宙に、このような形成初期の銀河が存在するとわかったことで、現在広く受け入れられている標準的な宇宙論モデルを裏付けるものだ。2つ目は、長い宇宙史の中で、最後の時期に誕生した銀河を目撃している可能性があることだ。

標準的な宇宙論モデルによると、加速的に膨張する現在の宇宙では、宇宙の物質密度が急激に減少しつつあると考えられる。このような宇宙では、重力によって新たに物質が集まることが難しくなるため、近い将来、新しい銀河が誕生しなくなる時代が到来すると予想されている。今回発見された銀河は、将来を含めた長い宇宙の歴史における、最後の世代の銀河なのかもしれない。