【2020年10月2日 アルマ望遠鏡】

オリオン座のベテルギウスに代表されるような、太陽の約10倍以上の質量を持つ恒星は、強烈な光を放って一生の最後には超新星爆発を起こすなど、周囲の宇宙環境に大きな影響を与える。大質量星の形成メカニズムの理解は、様々な宇宙現象を理解するために重要な要素だ。

どんな質量でも、恒星は宇宙に浮かぶガスと塵の雲を材料にして生まれる。太陽のような小質量星の場合、生まれたばかりの原始星の周囲をガスの円盤が取り巻いていて、原始星の重力によって引き付けられた物質はいったん円盤に滞留し、さらに原始星へと流れ込んでいくことがわかっている。

大質量星も同じような過程をたどると考えられるが、小質量の星に比べて数が少なく、またその誕生現場も地球から遠くにあるため、大質量星の形成メカニズムについては理解が進んでいない。そのうえ、大質量原始星の周囲には非常に大量のガスが存在し複雑な分布をしており、ガス円盤を見分けるのが困難だ。アルマ望遠鏡でも大質量原始星の周囲のガス円盤をとらえた例は限られている。

国立天文台の田中圭さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡の高い分解能と感度を生かし、さそり座の方向約9500光年彼方にある2つの大質量原始星の連星であるIRAS 16547-4247を観測した。IRAS 16547-4247の2つの原始星は質量が合計で太陽の25倍と見積もられており、太陽の1000倍もの質量を持つ巨大なガスの雲の中に深く埋もれている。

研究チームはIRAS 16547-4247の周囲にある様々な分子が放つ電波をとらえることに成功し、分子によって分布が大きく異なることを明らかにした。大質量原始星の観測でよく調べられるシアン化メチルや二酸化硫黄といった分子は2つの原始星を大きく取り巻く領域から検出されたが、原始星近くの様子を調べるのには適していなかった。一方、それぞれの原始星の近くからは高温に熱された水蒸気や、塵が砕かれることで飛び出したと考えられる塩化ナトリウム、一酸化ケイ素の分子が放つ電波が検出された。

IRAS 16547-4247
アルマ望遠鏡が撮影したIRAS 16547-4247の周囲の構造。塵(Dust)、シアン化メチル(CH_3CN)、塩化ナトリウム(NaCl)、水蒸気(H_2O)が放つ電波をそれぞれ黄色・赤・緑・青の擬似色で合成している。塵とシアン化メチルが原始連星を大きく取り巻くように広がっているのに比べて、塩化ナトリウムと水蒸気が個々の原始星の周りに集中して存在していることがわかる。全体画像ではさらに原始星から放たれるジェットからの電波を水色で合成している(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tanaka et al.)

これらの電波を解析することで、連星系を取り巻く大きなガス円盤に加え、それぞれの大質量原始星を囲む2つの小さなガス円盤や、そこから噴出するアウトフローとジェットなどの構造が浮かび上がった。特に2つの小さな円盤はそれぞれの原始星にガスを供給しており、大質量原始星の成長を探る鍵となる。

2つの小さな円盤については、互いに逆方向に回転している兆候が見られるという。2つの原始星がひとまとまりの巨大なガス円盤が分裂することで誕生した「双子」だとすれば、個々の原始星円盤は同じ方向に回転しているはずだ。

「もし本当に2つの円盤が逆回転しているとしたら、それぞれの原始星は少し離れた場所にあった別々のガスの集まりから生まれ、やがて出会ってペアを組んだ可能性があります。つまりIRAS 16547-4247は本当の双子ではなく、となりあって生まれた他人だったのかもしれません」(理化学研究所 Yichen Zhangさん)。

IRAS 16547-4247の周囲の想像図
観測成果をもとに描いたIRAS 16547-4247の周囲の想像図。連星をなす個々の原始星の周囲に小さなガス円盤があり、これらはより大きなガス円盤の中に位置している。原始星からは漏斗状にガスが噴き出しているほか、右側の原始星からは細く絞られたジェットが吹き出しており、周囲のガスと衝突していくつかの明るい電波源を作っている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

このようにガス円盤の様子をつぶさに明らかにできたのは、原始星近傍のみに含まれる塩化ナトリウムなどの分子を検出することができたおかげだ。

「大質量原始星の周りの円盤に塩化ナトリウムが見つかったのは、オリオンKL電波源I(アイ)に次いで今回が2例目でした(参照:「巨大赤ちゃん星の周りで塩を発見」)。オリオンKL電波源Iは大質量原始星の中でも少し変わった特性を持つ星なので、塩化ナトリウムが本当に大質量原始星の周りを見るのに適しているかどうかわかりませんでした。今回観測したIRAS 16547-4247は一般的な大質量原始星ですから、今回の研究によって、大質量原始星のガス円盤を探るうえで“塩”が本当に重要なツールになることがはっきりしました」(田中さん)。

塩化ナトリウムは円盤の中で塵が破壊されることで飛び出したと考えられる。また、原始星の近傍では高温の水蒸気からの電波も検出されており、大質量の原始星の誕生現場は熱くダイナミックであることがうかがえる。現在検討が進められている次世代超大型電波干渉計(ngVLA)などによって「熱い円盤」に含まれる分子の観測が発展することで、大質量星の誕生メカニズムの解明が進むと期待される。

また、46億年前に私たちの太陽系を生んだ原始太陽系円盤も、塵が蒸発するような高温を経験したことが、隕石に含まれる様々な証拠から知られている。塩化ナトリウムと高温の水などを手がかりに「熱い円盤」の観測を進めることで、太陽系誕生時の様子を探るヒントも得られる可能性がある。