【2020年11月19日 すばる望遠鏡】

数百〜数千個の銀河の大集団である銀河団には、数千万度という高温の銀河団ガスも存在している。銀河団ガスは銀河団同士の大規模な衝突に伴って加熱されると、数億度の超高温になることが理論的に予測されている。

広島大学の岡部信広さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」と、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMMニュートン」、米・国立電波天文台の口径100mグリーンバンク電波望遠鏡(GBT)を用いて、くじら座の方向約40億光年の距離に広がる銀河団「HSC J023336-053022」を詳細に調べた。

HSC J023336-053022
銀河団HSC J023336-053022。すばる望遠鏡HSCで得られた可視光線画像を背景として、ダークマターの分布(青)、X線で観測された高温ガス(緑)、電波観測から得られた高温・高圧のガス(赤)を擬似色で重ねて表示(提供:GBT/NSF/NAOJ/HSC-SSP/ESA/XMM-Newton/XXL survey consortium)

すばる望遠鏡のHSCでは銀河団の可視光線画像が取得され、銀河が多数とらえられた。このうち、銀河団よりさらに遠方に位置する銀河の見かけの形状は、銀河団内に存在するダークマターが及ぼす重力レンズ効果によってわずかに歪んでいる。そこで、遠い銀河の形状を精密に測定することにより、銀河団内にどのようにダークマターが分布しているかがわかる。

解析の結果、HSC J023336-053022のダークマターが2つの塊に分かれていることが明らかにされ、銀河団のなかで大きな衝突が起こっていることが示された。また、銀河も2つのダークマターの塊に集中的に分布していた。このようなダークマター同士の衝突が、銀河団のような宇宙の構造形成に関わっていると考えられている。

一方、XMMニュートンによるX線の観測では高温の密集した銀河団ガスがとらえられた。また、GBTでは、X線でとらえた高温のガスと、X線では見えない超高温の希薄なガスの両方を調べることができる。これらの観測から2つのダークマター塊の周辺にある超高温ガスの空間分布を調べたところ、銀河団の衝突によって約4000万度の高温ガスが4億度もの超高温に加熱されていることが突き止められた。

銀河団の超高温ガスはX線でも観測が難しいが、今回の研究では電波観測とX線観測のデータの組み合わせによって、宇宙の構造形成の様子を描き出すことに成功した。また、電波とX線が銀河団ガスの物理状態を明らかにする一方、すばる望遠鏡の可視光観測では銀河やダークマターの分布がわかり、銀河団の衝突の様子が示されている。「今後はすばる望遠鏡が見つけた銀河団に対してX線と電波の追観測を行い、重力レンズ効果で測定された質量と比較することによって、宇宙の構造形成をより詳細に理解したいと考えています」(岡部さん)。