【2020年12月28日 アストロアーツ】

※ 販売中の「星ナビ」1月号「星のゆく年くる年」では、2020年の天文・宇宙の話題と2021年の注目現象を写真つきで詳しく紹介しています。

「星ナビ」2021年1月号

1〜3月

2019年秋から減光を続けていたオリオン座の1等星ベテルギウスが、2月には1.7〜1.8等まで暗くなって一時的に「2等星」となった。4月にはほぼ通常の明るさに戻っている。ヨーロッパ南天天文台(ESO)のVLT望遠鏡でベテルギウスの観測が行われ、歪んだ光球の姿がとらえられた。減光の原因はベテルギウスから放出された大量の物質が塵の雲となって光球を隠したためではないかと考えられている。

ベテルギウス
2019年12月にVLT望遠鏡で撮影されたベテルギウスの光球。電離水素が出すHα線で撮影されている(提供:ESO/M. Montargès et al.)

1月31日、NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」が16年以上にわたる運用を終了した。地球サイズの系外惑星「TRAPPIST-1」の発見など、赤外線天文学の発展に大きく貢献した。

スピッツァー
「スピッツァー」のイラスト(提供:NASA/JPL-Caltech)

2月10日、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の太陽探査機「ソーラーオービター」が打ち上げられた。2年後までに太陽の「斜め」に周回する長楕円軌道に入り、史上初めて太陽の両極を至近距離から観測することを目指している。

2月11日、日本初の人工衛星「おおすみ」の打ち上げから50周年を迎え、JAXA宇宙科学研究所による記念シンポジウムが開催された。

2月25日、岐阜県飛騨市に建設された大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が連続運転を開始した。米国の「LIGO」、欧州の「Virgo」に続く重力波望遠鏡として、重力波の初検出が待たれる。

3月31日、国立天文台野辺山太陽電波観測所の電波ヘリオグラフが28年にわたる運用を終了した。

電波ヘリオグラフ
八ヶ岳連峰と野辺山電波ヘリオグラフ。右奥は野辺山45m電波望遠鏡(提供:国立天文台)

4〜6月

4月10日、日本とESAの彗星探査機「ベピコロンボ」が最初の地球スイングバイを行い、地球表面から12,700kmの距離を通過した。10月には金星でのスイングバイも成功した。今後、金星スイングバイを1回、水星スイングバイを6回実施して少しずつ軌道を変更し、2025年12月に水星周回軌道に入る予定だ。

ベピコロンボ最接近直前の地球
地球最接近の直前、4月10日3時03分から4時15分(世界時)にベピコロンボが撮影した地球の連続画像。この撮影の間に地球との距離は26,700kmから12,800kmまで接近した。地球表面のインドやアラビア半島が見えている(提供:ESA/BepiColombo/MTM, CC BY-SA 3.0 IGO)

4月24日、NASAのハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げから30周年を迎えた。これまでに5回の修理ミッションが行われ、観測装置も更新されてきた。現在開発中の「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」と連携して、2020年代もしばらくは運用が続けられる見込みだ。

2019年12月に発見されたアトラス彗星(C/2019 Y4)は3月に急速に明るくなって大彗星になると期待されたが、4月に入って増光が頭打ちとなり、彗星核が分裂していることが明らかになった。ハッブル宇宙望遠鏡の観測で、核が約30個の破片に分裂している様子がとらえられた。

アトラス彗星
ハッブル宇宙望遠鏡が4月20日と23日にとらえたアトラス彗星。20〜30個の破片に分裂している。画像クリックで表示拡大(提供:NASA, ESA, STScI, and D. Jewitt (UCLA))

今年5月に打ち上げから10年を迎えた日本の金星探査機「あかつき」が、金星最大の謎の一つとされる高速の風「スーパーローテーション」の仕組みを解明したと発表された。

5月21日、日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」の最後の機体となる9号機が打ち上げられた。同機は5月26日に国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングして物資を送り届けた後、8月19日にISSから分離されて地球の大気圏に突入した。11年にわたりISSの運用を支えた「こうのとり」による補給ミッションは、JAXAが現在開発中の後継機「HTV-X」に引き継がれる。

5月31日、米国のスペースX社が開発した有人宇宙船「クルードラゴン」が打ち上げられ、NASAの宇宙飛行士Robert BehnkenさんとDouglas HurleyさんがISSに到着した。米国が自国の宇宙船で有人宇宙飛行を行うのは、スペースシャトルの退役以来9年ぶり。同機は8月3日に地球に帰還した。

BehnkenさんとHurleyさん
クルードラゴン宇宙船のコックピットに乗り込むBehnken飛行士(奥)とHurley飛行士(手前)(提供:NASA)

6月21日、アフリカ中部からアラビア半島・インド・中国・台湾を通る金環日食が起こった。台湾などに遠征する観測ツアーは新型コロナウイルスの感染拡大に伴い中止を余儀なくされたものの、日本では各地で部分日食が観測された。

部分日食
石垣島での部分日食の連続写真。画像クリックで表示拡大(撮影:佐藤純哉さん)

7〜9月

7月2日未明、関東地方上空に満月より明るい火球が出現し、衝撃波による大きな音も観測された。各地の記録映像から火球の軌道が計算され、千葉県北部に隕石が落下した可能性があると推定された。2日朝と4日には千葉県習志野市内でこの火球のものとみられる隕石が発見された。国内での隕石落下は2年ぶりで、11月には「習志野隕石」として正式に登録された。

回収された2つの破片を組み合わせた隕石
習志野隕石。回収された2つの破片を組み合わせた状態(提供:国立科学博物館プレスリリース)

2020年は地球と火星の位置関係が火星探査機の打ち上げに適した時期となり、7月20日にH-IIAロケットで、中東初となるアラブ首長国連邦の火星探査ミッション「EMM」の探査機「HOPE」が打ち上げられた。また、7月23日には中国初の火星探査機「天問1号」、7月30日にはNASAの火星探査ローバー「パーサビアランス」も打ち上げられている。

3月に発見されたネオワイズ彗星(C/2020 F3)が7月に1等級まで増光し、久しぶりの明るい肉眼彗星となった。あいにく梅雨の時季に重なったものの、北海道・東北地方などでは2本の尾を持つ雄大な姿が見られた。

ネオワイズ彗星
7月17日に北海道で撮影されたネオワイズ彗星。画像クリックで表示拡大(撮影:荒井俊也さん。星ナビ2021年1月号「星のゆく年くる年」記事より)

ネオワイズ彗星
7月19日に猪苗代湖畔から撮影されたネオワイズ彗星。画像クリックで表示拡大(撮影:@mosschさん)

10〜12月

10月3日、茨城県鹿嶋市の情報通信研究機構(NICT)鹿島宇宙技術センターにある34mパラボラアンテナの運用終了記念式典が行われた。1988年から30年以上にわたり、VLBI観測などに活用された。

10月6日、火星が2年2か月ぶりに地球に最接近した。最接近距離は約6210万kmで、2018年の大接近(最接近距離約5760万km)に続く「準大接近」となった。2018年の大接近では火星で大規模なダストストームが発生して表面の模様があまりよく見えなかったが、今回は表面を詳細に観察することができた。

火星準大接近
2020年4月から11月までの火星の変化。画像クリックで表示拡大(撮影:大熊正美/AstroArts。星ナビ1月号「星のゆく年くる年」記事より)

10月21日、NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」が小惑星ベンヌへのタッチダウンに成功し、表面のサンプル採取にも成功した。「オシリス・レックス」は最速で2021年3月にはベンヌを出発し、2023年9月に地球に帰還する予定だ。

(Youtube動画)

「オシリス・レックス」のサンプル採取アームがベンヌの表面にタッチダウンした瞬間の動画「OSIRIS-REx Sample Collection at Asteroid Bennu: SamCam View of TAGSAM」(提供:NASA Video)

11月7日、今年のノーベル物理学賞が発表され、英国のRoger Penroseさん、ドイツのReinhard Genzelさん、米国のAndrea Ghezさんの3名に贈られることが決まった。Penroseさんはブラックホールの存在証明と言える「特異点定理」を一般相対性理論から導いた業績が評価された。GenzelさんとGhezさんは天の川銀河の中心に超大質量ブラックホールが存在することを長期間の精密観測で実証した業績が受賞理由となった。

ノーベル物理学賞
(左)Roger Penroseさん(中央)Reinhard Genzelさん(右)Andrea Ghezさん(提供:University of Oxford / MPI for Extraterrestrial Physics / Elena Zhukova/University of California)

11月16日、日本の野口聡一さんを含む4名の宇宙飛行士を乗せた米国の有人宇宙船「クルードラゴン」の運用初号機「Crew-1」が打ち上げられ、翌17日にISSに到着した。野口さんの宇宙飛行は3度目で、約半年にわたるISS長期滞在に入った。これに先立つ11月2日、ISSでの宇宙飛行士の長期滞在開始から20周年を迎えた。

クルードラゴン Crew-1
ISSに到着した「クルードラゴン」の乗組員(手前の4人)の歓迎セレモニー。右端が野口さん(提供:JAXA/NASA)

11月24日、中国の月探査機「嫦娥5号」が打ち上げられた。同機は12月1日に月面への軟着陸に成功し、翌日には表面のサンプル採取にも成功して、12月17日に地球に帰還した。月からのサンプルリターンに成功したのは米国・ソ連に次ぐ3か国目となる。

12月1日、プエルトリコの直径305m電波望遠鏡が崩壊した。1963年以来運用が続けられてきたが今年8月に破損し、11月には解体が決定されていたなかでの出来事だった。

崩壊したアレシボ電波望遠鏡
崩壊したアレシボ電波望遠鏡(提供:アメリカ国立科学財団)

12月6日、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還し、小惑星リュウグウのサンプルを納めたカプセルがオーストラリアに着地した。回収されたカプセルのサンプル容器にはリュウグウ表面への2回の着陸で採取された黒っぽい物質が大量に入っていることが確認された。

火球
豪・クーバーペディで撮影された「はやぶさ2」カプセルの火球。画面右上から左下に向かって天の川に沿うように火球が通過した。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA)

A室内部
「はやぶさ2」カプセルから取り出したサンプル容器のA室を開封したところ。第1回タッチダウンで採取された黒い粒子がたくさん入っている(提供:JAXA)

12月21〜22日に木星と土星が夕方の空で超大接近した。最も近づいたときの離角は約0.1度で、これほどの接近は1623年以来397年ぶりだ。

木星と土星の超大接近
12月21日の木星と土星。離角は0.11度。画像クリックで表示拡大(撮影:大熊正美/AstroArts)

2020年の訃報

・キャサリン・ジョンソンさん(2月24日、101歳)
米国の数学者。NASAのマーキュリー計画などで軌道計算を行った。映画「ドリーム」のモデル。

・フリーマン・ダイソンさん(2月28日、96歳)
英国の理論物理学者、数学者。量子電磁力学の定式化などの業績だけでなく、深宇宙飛行の推進システムや「ダイソン球」などのアイディアでSFにも影響を与えた。

・アルフレッド・ウォードンさん(3月18日、88歳)
米国の宇宙飛行士。アポロ15号の司令船パイロットを務めた。

・マーガレット・バービッジさん(4月5日、101歳)
米国の天体物理学者。恒星内部での元素合成の理論を確立した。英王立グリニッジ天文台長、米国天文学会長などを歴任。

・小石川正弘さん(8月26日、68歳)
天体観測家。仙台市天文台で約40年にわたり新天体の確認観測や惑星観測に携わり、日本公開天文台協会(JAPOS)会長を務めた。

・中村純二さん(10月21日、97歳)
超高層大気物理学者。第1〜3次南極観測隊に参加し、第1次隊遠征中に「宗谷」船上で未知の流星群に遭遇して「ほうおう座流星群」と命名。

・小柴昌俊さん(11月12日、94歳)
実験物理学者。初代「カミオカンデ」を建設し、超新星SN 1987Aからのニュートリノを観測して2002年のノーベル物理学賞を受賞。

・ルドルフ・キッペンハーンさん(11月15日、94歳)
ドイツの天体物理学者。恒星進化の理論モデルの研究で知られ、マックス・プランク天体物理学研究所所長を務めた。一般向けの科学啓蒙書も多数執筆した。

・イシツカ・ホセさん(11月16日、60歳)
ペルーの電波天文学者。ペルーの天文学発展に尽力した故・石塚睦さんの次男。ペルーで衛星通信用パラボラアンテナを電波望遠鏡に転用するプロジェクトを進め、天文学や太陽物理学・地球物理学の分野で日本とペルーの共同研究にも携わった。

改めてその業績を偲び、哀悼の意を表します。

2021年は月食の当たり年、好条件のペルセ群と昼間の金星食に注目

2021年は5月26日に皆既月食があり、11月19日にも食分0.97という「ほぼ皆既」の部分月食が起こる。赤く染まる満月の姿を楽しもう。

毎年8月12〜13日に極大を迎えるペルセウス座流星群だが、2021年は極大日の月齢が4で21時ごろには月が沈むため、月明かりのない絶好の条件で観測できる。これほどの好条件は8年ぶりだ。

5月26日 皆既月食/8月12〜13日 ペルセウス座流星群
5月26日にはスーパームーンの皆既月食が起こる。ペルセウス座流星群は月明かりがなく放射点が高い絶好条件。画像クリックで表示拡大(アストロガイド 星空年鑑 2021の特典画像より)

11月8日には日本で見られるものとしては9年ぶりとなる金星食が起こる。東京で13時47分に金星が月齢3.3の月に隠され、14時40分に出現する。白昼の現象だが、金星の明るさは-4.5等と明るく、双眼鏡や望遠鏡を使えば、青空の中で半月状の金星が月の縁に隠される様子を簡単に見ることができる。

2021年の毎日の星空の見どころは好評販売中のムック「アストロガイド 星空年鑑 2021」でチェックしよう。

アストロガイド 星空年鑑 2021
2021年の星空をPCソフト、冊子、ムービーで一挙紹介するムック「アストロガイド 星空年鑑 2021」。画像クリックで製品ページへ

コロナ禍で私たちの日常が激変した2020年だったが、ネオワイズ彗星の美しい姿や「はやぶさ2」の地球帰還など、明るさを感じさせる話題もあった。2021年も、私たちの心をわくわくさせるような天文・宇宙の楽しい話題にたくさん触れられる一年であって欲しい。

アストロアーツの2020年

・3月に天体撮影ソフトウェア「ステラショット2」発売。極軸合わせ支援機能などで撮影を強力にアシストします。無線制御を可能にする「GearBox」も同時発売しました。

・12月に天体画像処理ソフトウェア「ステライメージ9」発売。大幅に速度を向上させ、快適な画像処理を実現しました。

・新たなモバイルアプリ「星空ナビ」を開発中。天文現象や話題のニュースと日々の星空をつなぐお手伝いをします。年明けの早いタイミングで正式リリース見込みです。

・天文雑誌「星ナビ」が2020年12月号で創刊20周年を迎えました。長らくのご愛読、まことにありがとうございます。

・コロナ禍のなかで星空に親しむコンテンツとして「おうちで天文」ページを開設しました。動画配信や記事の無償公開等を通じて皆さまにお楽しみいただけていれば幸いです。