【2021年3月22日 アルマ望遠鏡】

銀河の中心にある超大質量ブラックホールの質量は太陽の数百万倍から数十億倍にまで達しており、その成長過程で大量の物質を取り込んだと考えられる。ブラックホールに飲み込まれる大量の星間物質が摩擦で輝く光は紫外線や可視光線で観測することができ、時に銀河を凌駕するほど明るい「活動銀河中心核」として発見されてきた。

しかし、超大質量ブラックホールが最も勢いよく星間物質を飲み込んで成長のピークを迎えている段階を紫外線や可視光線でとらえるのは難しい。取り込まれている星間物質がブラックホールを包み、そこに含まれる固体微粒子が光を吸収してしまうからだ。

国立天文台の泉拓磨さんたちの研究チームは、ブラックホールを隠す物質そのものを観測することで、成長する超大質量ブラックホールを見つけられるのではないかと考えた。

ただ単に大量の星間物質が集まっている場所としてはブラックホールと無関係な星形成領域も考えられるが、超大質量ブラックホールの周囲では星形成領域と違って強いX線が放たれることがわかっている。このX線を受けると星間ガスの分子が加熱により破壊され、原子やイオンとなる。つまり、銀河の中心部で分子ガスに比べて原子ガスや電離ガス(イオン)の量が激増していれば、そこに成長中の超大質量ブラックホールがあるはずだ。

泉さんたちはペガスス座の方向約2億光年の距離にある銀河NGC 7469をアルマ望遠鏡で観測し、ガスの分布を300光年程度の解像度でとらえた。NGC 7469は活動銀河中心核を持ち、その周囲を円環状の星形成領域が取り巻いているので、両方の環境における星間ガスの性質の違いをとらえるのに適した対象だ。

NGC 7469
NGC 7469。右下は銀河中心のズームで、真ん中に活動銀河中心核が存在すること、周囲を半径1500光年程度の円環状の星形成領域が取り囲んでいることがわかる(提供:NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration and A. Evans (University of Virginia, Charlottesville/NRAO/Stony Brook University))

分子ガスの指標として一酸化炭素分子(CO)が放つ電波を、原子ガスの指標として炭素原子(C)からの電波を選んで観測した結果、分子からの放射はNGC 7469の中心核だけでなく星形成領域でもある程度強いが、原子の放射は中心核に集中していることが確認できた。一酸化炭素分子に対する炭素原子の割合(C/CO)で比べると、中心核周囲では星形成領域の10倍以上もあり、天の川銀河内と比べると100倍以上にも達している。さらに研究チームではNGC 7469のモデルから超大質量ブラックホール周辺のX線によるガスの加熱を計算し、観測された炭素原子の量を再現できることも確かめた。

一酸化炭素分子と炭素原子の強度
NGC 7469における一酸化炭素分子(左)と炭素原子(右)の強度分布。色が赤くなるほど強度が高い。炭素原子の放射が中心核周りに集中していることが見て取れる

一酸化炭素分子や炭素原子の放射は、埋もれた超大質量ブラックホールの存在を明かすだけでなく、周囲のガスの運動状態などといった情報を通じて、ブラックホールの質量なども教えてくれる。泉さんたちは今後さらに多くの天体に同じ手法を適用して埋もれた活動銀河中心核を発掘し、超大質量ブラックホールの進化を包括的に理解することを目指している。

活動銀河中心核周辺の星間物質分布の想像図
今回の観測結果に基づく活動銀河中心核周辺の星間物質(ガス)分布の想像図。茶色部分が分子ガス、青白い部分が活動銀河中心核ごく近傍の電離ガスを示す。両者の間の黄色い領域が、原子ガスが大量に存在する部分に対応。原子ガスは、活動銀河中心核のX線放射により分子ガスが効率良く破壊されたことで生成されている(提供:泉拓磨/NAOJ)