【2021年4月8日 NASA JPL/チューリッヒ工科大学】

今年3月7日と18日、NASAの探査機「インサイト」がM(マグニチュード)3.3とM3.1という強い火震(火星の地震)の信号をとらえた。震源はインサイトの着陸地点に近いケルベロス地溝帯で、この地域では2019年の5月と7月にもM3.6とM3.5という大きな揺れが観測されている(参照:「地震や磁場など、火星探査機インサイトの初期成果を発表」)。

インサイトはこれまでに500回以上の火震を記録しているが、特にこの4回の火震は信号がはっきりしており、今後火星の内部構造を調べる上で最良のデータとなるはずだ。

火震の波形
「インサイト」がとらえた過去4回の大きな火震の波形。下の2つが今年3月に検出されたもの。振幅がほぼ同じ大きさになるようにスケールが調整されている(提供:ETH Zurich)

火震の観測は、火星のマントルや核を深く理解する方法の一つである。火星には地球のようなプレート運動は存在しないが、火震の原因となりうるような活発な活動がみられる地域はある。3月7日と18日の火震は、ケルベロス地溝帯が火震活動の中心地であるという説を裏付けるものとなる。

「インサイトのこれまでのミッションを通じて、2つのタイプの火震が観測されています。一つは月震(月の地震)に似ているもので、もう一つは地球の地震に似ています。面白いことに、これまでケルベロス地溝帯で発生した4回の大きな火震は全て『地球型』でした」(仏・パリ地球物理研究所 川村太一さん)。

地球の地震波は地球内部を直接伝わるが、月震の波は非常に散乱しやすい傾向がある。火震はこの両者の中間の性質を持っている。

今回観測された2回の火震と2019年に観測された2回の火震は、どちらも火星の北半球が夏の季節に検出されている(火星の1年は687日で、地球での約1.88年に当たる)。この時季は風が弱まるので火震の検出には理想的だ。インサイトの地震計「SEIS」は風や気温の影響を防ぐためにドーム型のシールドで覆われているが、それでも非常に高感度なため、風が吹くと火震の揺れがかき消されてしまう。前回の北半球の冬には、インサイトは火震を一度も検出できなかった。

風が弱まる季節にはなったが、研究者たちは火震を検出する能力をさらに向上させたいと考えている。インサイト周辺の気温は、昼夜のたびにおよそ-100℃から0℃まで変化する。この極端な温度変化によって、地震計と着陸機を接続しているケーブルも伸縮するため、火震の観測データに突然大きな波形が現れることがある(この振動を人間に聞こえる周波数に変換すると「ドン、ドン」という音に聞こえるため、ミッションチームではこの現象を "dinks and donks" と呼んでいる)。

ミッションチームでは風や気温の影響をさらに防ぐために、ロボットアームのスコップで土をすくってSEISのドームシールドに乗せる作業を始めたところだ。こうすると土がケーブルの上にも流れ落ち、シールドと地面の密着状態を保ったままシールドを土で覆うことができる。

SEIS
(左)地震計「SEIS」(ドーム型の装置)にロボットアームで土をかけている様子。(右)「SEIS」のドームシールドにかけた土が滑り落ちた様子。2021年3月14日(着陸から816火星日)に着陸機から撮影。画像クリックで表示拡大(提供:NASA/JPL-Caltech)

火星の風はインサイトの地震計を揺り動かすほどのものだが、探査機の太陽電池パネルは塵で覆われたままだ。現在は火星と太陽の距離が遠くなりつつあるため、太陽電池の発電量が下がり続けていて、着陸機の装置の電源を一部オフにする運用が行われている。7月に遠日点を過ぎれば再び発電量が増えるとみられるが、ミッションチームでは、地震計の電源はせめてあと1、2か月はオンにしておきたいと考えている。