【2021年4月16日 理化学研究所/NASA】

おうし座の方向約6500光年の距離に位置する「かに星雲」は、1054年に起こった超新星爆発の残骸で、その爆発は藤原定家の『明月記』にも記されている。星雲の中心には超新星爆発を起こした星の「芯」と考えられる中性子星「かにパルサー」が存在し、33ミリ秒周期の規則的な電波パルスを放射している。かにパルサーの場合、電波だけでなく、可視光線、X線、ガンマ線など、様々な波長の電磁波でパルスが観測されているのが特徴だ。

かに星雲
かに星雲とかにパルサーの擬似カラー画像。X線観測衛星チャンドラが観測したX線(青)、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した可視光線(赤と黄色)、スピッツァー宇宙望遠鏡が観測した赤外線(紫)のデータを合成。中心の点源がかにパルサー(提供:X-ray: NASA/CXC/SAO/F.Seward; Optical: NASA/ESA/ASU/J.Hester & A.Loll; Infrared: NASA/JPL-Caltech/Univ. Minn./R.Gehrz)

パルサーは強い磁場を持つ中性子星が高速で自転している天体で、天の川銀河では2800個ほど見つかっている。中性子星の磁極が自転軸とややずれているために、磁極から放射されるビームが自転に合わせて周期的に地球の方向を向き、規則的な電波のパルスとして観測される。

こうしたパルサーのうち一部は、電波パルスがときおり通常の10〜1000倍にまで明るくなる「巨大電波パルス(Giant Radio Pulses; GRP)」という現象を起こす。かにパルサーを含む十数個がこのタイプであることが知られているが、GRPの発生メカニズムはいまだ謎だ。

また、2003年には可視光線のパルスがGRPに同期して数%明るくなる現象が発見された。パルサーが電波を出すメカニズムは、可視光線やX線、ガンマ線を放射する仕組みとは異なると考えられていたため、この発見は予想外のものだった。

そこで、可視光線よりさらにエネルギーが大きいX線やガンマ線でもGRPと同期した増光をとらえようという大規模な観測プロジェクトが行われてきたが、これまでX線やガンマ線での増光は確認されていなかった。

理化学研究所の榎戸輝揚さんをはじめとする国際共同研究グループは、2017年に国際宇宙ステーション(ISS)に設置されたNASAのX線望遠鏡「NICER」と、JAXA臼田宇宙空間観測所の64m電波望遠鏡、情報通信研究機構(NICT)鹿島宇宙技術センターの鹿島34m電波望遠鏡を連携させ、2017年から15回にわたって、かにパルサーを電波とX線で同時観測した。その結果、GRPに同期してX線のパルスが4%ほど増光していることを突き止めた。

NICERと電波望遠鏡
(上)ISSに搭載されているX線望遠鏡「NICER」。中性子星の観測に特化しており、X線の感度が高く、時間分解能にもすぐれている。(左下)NICTの鹿島34m電波望遠鏡。(右下)JAXAの臼田64m電波望遠鏡(提供:NASA/NICT/JAXA)

この観測結果から、GRPでは電波の放射を上回るエネルギーがX線で放出されていて、発生エネルギーの合計はこれまで考えられていたよりも数百倍以上大きいことがわかった。また、遠くの宇宙で発生する謎の電波放射現象「高速電波バースト(FRB; Fast Radio Burst)」がGRPに似た現象であることから、FRBの起源はGRPだという説も提唱されていたが、GRPが莫大なエネルギーをX線として放出することが今回明らかになったことで、単純なGRPのモデルではFRBの正体を説明することは難しいこともわかった。

GRPの同時観測
X線望遠鏡「NICER」とJAXA臼田、NICT鹿島の電波望遠鏡を使った同時観測の様子。画像クリックで表示拡大(提供:ひっぐすたん)

(Youtube動画)

今回の研究成果の紹介動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)