【2021年4月30日 インド科学技術庁】

1929年に米国の天文学者エドウィン・ハッブルによって、この宇宙が膨張していることが発見された。宇宙の膨張により遠方銀河からの光が引き伸ばされて赤くなる現象である赤方偏移は、その値が大きいほど、天体が遠方に位置していることを意味する。それは同時に、宇宙の歴史を昔にさかのぼって観測していることも意味する。

初期宇宙の理解のため、大きく赤方偏移している銀河探しが続けられている。中でも銀河中心核が超大質量ブラックホールの活動で明るく輝く「セイファート銀河」は銀河の進化を考える上で重要だ。とりわけ、ガンマ線の放出も伴う激しい活動を示すセイファート銀河は、中心のブラックホールが太陽の1億倍を超える質量を持ち、銀河自体も楕円銀河と、比較的成熟した特徴を示すと考えられてきた。

ところが、中心ブラックホールの質量がそれより小さい渦巻銀河と推測される「狭輝線セイファート1型銀河(NLS1)」のうちガンマ線が検出されたものが16個ある。そのうち2個は赤方偏移の値がほぼ1(距離約75億光年)で、さらなる遠方でガンマ線を放つ銀河がないか捜索が続いていた。

インド・アールヤバタ観測科学研究所(ARIES)のSuvendu Rakshitさんたちの研究チームは、「スローン・デジタル・スカイサーベイ(Slone Digital Sky Survey; SDSS)」のデータから約2万5000個の活動銀河核を調べ、赤方偏移1以上のNLS1らしき銀河TXS 1206+549を見つけた。おおぐま座の北斗七星のあたりに位置するこの天体は、元々明るい電波源として同定されている。

Rakshitさんたちは、すばる望遠鏡の赤外線観測装置「MOIRCS」などを使った詳しい観測を実施した。その結果、TXS 1206+549の電波スペクトルがフラットで、広帯域のスペクトルエネルギー分布に、活動銀河核の一種である「ブレーザー」や他のガンマ線を放射するNLS1と同じように2つのこぶ構造が見られた。さらに可視光線、赤外線、ガンマ線など全ての波長で大きな変化が見られた。こうした特徴から、TXS 1206+549はNLS1であり、その中でも観測史上最遠のものと結論づけられた。

MOIRCS/TXS 1206+549のスペクトルエネルギー分布
(左)すばる望遠鏡の赤外線観測装置「MOIRCS」。(右)TXS 1206+549のスペクトルエネルギー分布。全波長の放射成分の合計を示した青い実線に2つのこぶ構造が見られる(提供:(左)国立天文台、(右)Rakshit et al.)

TXS 1206+549のスペクトル
TXS 1206+549のスペクトル。(左)SDSSによるMg IIの輝線スペクトルフィット(右上:MgIIの輝線スペクトルフィットの拡大図)、(右)すばる望遠鏡のMOIRCSが取得したスペクトルデータについてのHβモデルフィット。左右ともに灰色が観測データ、赤が最も一致するモデルから示された値(提供:Rakshit et al.)

TXS 1206+549は赤方偏移の値が1.344で、約90億光年彼方に位置している。これまで、赤方偏移1以上のNLS1を発見する手法は確立されていなかったが、今回の発見は、赤方偏移の値が大きなNLS1を発見するための道を開くものとなった。