【2021年5月12日 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト】

数百から数千個の銀河が集まった銀河団では、銀河と銀河の間の空間は超高温のプラズマガスで満たされている。この銀河団ガスは磁場を持つことがわかっていて、銀河団同士が衝突して大きな銀河団へと成長する際に磁場も形成されると考えられている。ただ、この磁場が銀河団の中でどのような影響を与えるかはよくわかっていなかった。

はと座の方向6.4億光年先にある銀河団「Abell 3376」は、ガスの温度が異なる大小2つの銀河団の衝突が進んでいる現場で、大きい銀河団のガスは熱く、その中に入り込んだ小さい銀河団のガスは高密度で冷たい。そのままでは小さい銀河団のガスも加熱されて拡散するはずだが、熱いガスとの間に「コールドフロント」と呼ばれる境界面を形成して塊を保っている。その境界面を維持しているのは、銀河団の衝突で形成された磁場なのではないかという説が有力だった。

南ア・ノースウェスト大学のJames O. Chibuezeさんたちの国際研究チームは、南アフリカ電波天文台(SARAO)が運用する電波干渉計「ミーアキャット(MeerKAT)」でAbell 3376の中心領域を観測した。電荷を帯びたプラズマ粒子が磁場の中を移動すると、粒子は円運動しながら電磁波を放射する。Chibuezeさんたちの狙いは、この電波をとらえることでAbell 3376の磁場構造を調べることだった。

MRC 0600-399のジェット
MeerKATが観測したMRC 0600-399のジェット。×印の位置に存在するブラックホールから上下にジェットが吹き出し、2方向に伸びる両鎌構造を形成している。水色の点線は過去の観測で明らかにされているコールドフロント(提供:Chibueze, Sakemi, Ohmura et al. (2021) Nature、一部改変)

ミーアキャットは、小さい銀河団の中で上下(南北)に差し渡し約16万光年の距離にまで伸びた構造をとらえた。これは銀河団を構成する銀河の一つ、MRC 0600-399の中心にある超大質量ブラックホールから伸びるジェットだ。注目すべきは、ジェットの両端が垂直に折れ曲がり、それぞれが左右(東西)の2方向に伸びている点である。研究チームはこれを「両鎌(ダブルサイス)構造」と名付けた。

2本のジェット、特に上に伸びたジェットの折れ曲がる位置はコールドフロントと一致していた。コールドフロントに何もなかった場合、小さい銀河団は左へと運動しているので、その外へ出たジェットは右向きの風を受け、広がりながら風下へと流れるはずだ。ところが折れ曲がったジェットは左、つまり風上に向かって約30万光年も、細い形を維持しながら伸びている。

一般的に考えられている銀河団とジェットのたなびく向きの関係
磁場を考えなければ、コールドフロントの外へ出たジェットは風下(右)へと流れるはずだ(提供:国立天文台)

Chibuezeさんたちはコールドフロントに沿った磁場がジェットを曲げていると考え、国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」を用いた3次元磁気流体シミュレーションを行った。

その結果、コールドフロントの位置でジェットが磁場とぶつかった後、ジェットが折れ曲がる様子が再現された。「コールドフロントの位置に揃った磁場が存在する可能性が示されました。アーチ状の磁場を作る磁力線はゴム紐のように振る舞います。ジェットがぶつかり変形を受けた磁力線が縮もうとする力によってジェットの進行方向が曲げられ、コールドフロントに沿ってジェットが流されていると解釈できます」(東京大学宇宙線研究所 大村匠さん)。

研究チームによるシナリオでは、ジェットがコールドフロントに沿った磁力線に沿って伸びるため、曲がった後のジェットが細く絞られた状態で伸びるという特徴を説明できる。さらに、上下に噴出するジェットの電波強度が途中で弱くなり、ジェットの折れ曲がりの位置で再度強くなるという観測的特徴がシミュレーションで再現されたことから、コールドフロントの磁場によってジェットが曲げられていることが強く示唆される。

今回の研究は、銀河団の磁場が銀河からのジェットと相互作用する現場を初めてとらえたものだ。「ジェットの伝搬の様子を調べることによって、直接観測が難しい銀河団の磁場構造を知ることが可能であるという、新しい切り口を手に入れました」(国立天文台 町田真美さん)。

(Youtube動画)

「アテルイII」を用いたシミュレーションで再現されたジェットと銀河団磁場の相互作用。画面下から上へ向かって吹き出すジェットは、オレンジ色であるほど速度が速いことを示す。黄色い線は磁力線を表す(提供:国立天文台天文シミュレーションプロジェクト)