【2021年7月27日 高橋進さん】

天文現象というとずいぶん先まで予測可能なようによく言われます。日食や月食なども数百年先まで予報されています。変光星についても予報が行われているのですが、今年のミラの極大は予報より1か月早い極大になったもようです。

変光星には脈動変光星や食変光星など様々なタイプがありますが、脈動変光星の中でも周期が100日以上で、変光範囲が2.5等級以上あり、比較的周期性がよいものをミラ型変光星と呼んでいます。その名前にもなっているくじら座のミラはこのタイプの代表星で、変光星カタログでは周期が332日、変光範囲は2〜10.1等とされています。ただしこの周期はあくまで平均値で、もっと短い時や長い時もあります。また、変光範囲の数字からは、毎回明るい時には2等級に、暗い時には10.1等にまでなるかのように思われるかもしれませんが、これらはあくまでもこれまでの最大値です。通常は極大がおよそ3等、極小は9等くらいのことが多いです。

ミラ周辺の星図
ミラ周辺の星図(「ステラナビゲータ」で星図作成)

2021年のミラの極大時期は、計算される方によって多少のばらつきはありますが、8月23日から30日の間との予報が出されていました。変光星観測者にとってはミラが極大を迎える1か月前くらいの時期が、急激に明るくなっていくスリリングな時期です。星によっては増光中に一時的な増光の停滞が見られることもあり、この時期の変光の様子はたいへん興味深いものです。ミラについてもこの増光期を観測したいと多くの人が思っていましたが、3月から6月までは太陽が近くにあるために観測が困難で、6月ごろからは梅雨の天候不順な季節となって、なかなか観測ができませんでした。

最初に観測に成功したのは東京都の中谷仁さんで、7月17日2時52分で3.1等と報告されました。これは予想以上に明るい等級です。というのは、極大の1か月以上前に3.1等という明るさから増光していくと、極大時の光度は1等台にもなってしまうのです。これまでにも1982年や1997年、2007年におよそ2.0等の明るい極大が見られたことはありましたが、1等台はなかなかありません。1779年に1等近くになったとか、おうし座のアルデバラン(0.9等、近くにあり色が似ている)とほとんど同じくらいの明るさになったとの記録もありますが、ずいぶんと昔の記録です。いずれにしても1等台の極大は歴史的に明るい極大ということになります。

梅雨明けと共に多くの観測者により観測が行われ、ミラが3等台前半の明るい状況であることが確認されました。しかし一方で、光度変化がほぼ横ばいであることも明らかになりました。増光期ならば1日に0.1等くらいのスピードで明るくなっていくのですが、1週間たってもほとんど光度が変化しないのです。どうやらこれは当初の予報より1か月以上早く極大になってしまったと考えられます。

2020〜2021年のミラの光度
2020〜2021年のミラの光度。画像クリックで表示拡大(提供:高橋さん。日本変光星観測者連盟メーリングリストデータより作成)

実はミラ型変光星の周期はある程度ずれることがあり、中でもミラは平均周期からのずれが大きい星として知られています。平均的な周期は前述のとおり332日とされていますが、これまでにも短い時は300日以下、長い時では350日以上になることもありました。今回の極大の正確な日についてはもう少しデータが集まるまで待つ必要がありますが、もし7月20日くらいを極大日とするなら前回の極大(2020年9月28日)から297日での極大ということになります。本当に早い極大になったのがよくわかります。

今回の予想外の早い極大は脈動型変光星の予報の難しさを表わすものですが、こうした観測こそが恒星についての理解を深めていくものです。2020年にオリオン座のベテルギウスが大きな減光を起こしました。この減光の原因として、ベテルギウスから放出された塵によるものという指摘がされています。ミラ型変光星を含む進化の進んだ恒星では大規模な質量放出が起こっており、恒星の光度変化に様々な影響を及ぼしています。今回のミラの早い極大がどのようなメカニズムで起こったのかはまだわかりませんが、こうした観測がこれからも積極的に行われ、恒星についての研究がさらに進むことを期待しています。