【2021年8月31日 東京工業大学地球生命研究所】

宇宙空間には様々な分子や固体の塵などの星間物質が存在し、これらの物質が放射する特有の電波や赤外線によって観測される。また、地球に落下した隕石にも様々な物質が含まれている。

東京工業大学地球生命研究所(ELSI)のChaitanya Giriさんたちの研究チームは、CV3コンドライトに分類される2個の炭素質隕石、「アエンデ隕石」と「QUE 94366」をラマン分光法と呼ばれる手法で調べ、両隕石に「グラフェン」が含まれていることを発見した。

グラフェンは6個の炭素原子でできた六角形が平面状に蜂の巣のように広がった物質だ。このグラフェンが何層も積み重なって結合すると、木炭や鉛筆の芯などの成分であるグラファイト(黒鉛)になる。グラファイトはこれまでに宇宙空間と隕石から見つかっているが、グラフェンは惑星状星雲などに存在していることは知られていたものの、隕石の中で確認されたのはこれが初めてだ。

炭素物質
宇宙に存在する炭素を含む物質のイラスト。星間物質の中には、グラフェン(図中の平面状の分子)やフラーレン(球状の分子)などの炭素の同素体や、ポリインと呼ばれる鎖状の炭化水素、多環芳香族炭化水素などが存在する(提供:NASA/IAC/NOAO/ESA/STScI/NRAO)

炭素質の隕石には、難揮発性の元素の中でも特にカルシウムとアルミニウムを多く含む「CAI(calcium-aluminium-rich inclusion)」という物質が含まれることが多いが、今回見つかったグラフェンはCAIの粒子の周りに、グラファイトとは独立して存在していた。

このCAIは、原始太陽系星雲で惑星が形成されるよりずっと前に、原始太陽に近い超高温の領域で凝縮した物質だと考えられていて、太古の太陽系で誕生した最初の固体の一つだとされる。今回、別々の隕石でCAIを取り巻くようにしてグラフェンが見つかったことから、約45億年前にCAIが凝縮したのと同じころにグラフェンも合成された可能性がある。

研究チームでは2008年に、炭素質隕石の中に「グラファイト・ウィスカー」と呼ばれるヒゲ状の炭素の結晶を発見している。この結晶はグラフェンが巻紙のように丸まってできたものではないかと推定していたが、今回の発見はこの推測を支持する証拠といえる。

また、2個の隕石に含まれるグラフェンは、実験室で合成されたものに比べて構造が変形していることも明らかになった。このことは、原始太陽のそばの激しい環境で合成されたと考えるとつじつまが合う。

原始太陽系星雲
原始太陽系星雲の断面図。中央に原始太陽(黄色)があり、それを取り巻くように濃い降着円盤(緑色)ができている。降着円盤の外側にはガスと塵が落ち込む流れがある(赤色)。原始太陽の両極からは高速で物質が放出されている(青色)。CAIは原始太陽に近い内側の高温の領域で形成され、より外側の低温の領域へと運ばれる(出典:Joseph Nuth (2001) "How were the comets made?", American Scientist, Vol.89, pp.228-235 )

隕石の中からグラフェンが見つかったことで、原始星を取り巻く円盤の内部で引き起こされる複雑な化学反応を実験で再現する研究にも弾みがつき、原始太陽系星雲内の化学を理解することに役立つだろう。また、彗星や小惑星などの化学的・鉱物的組成に関する知見も深まると期待される。JAXAの探査機「はやぶさ2」やNASAの「オシリス・レックス」がもたらす小惑星のサンプル分析や将来の小惑星・彗星探査ミッションを考える上でも重要な発見だ。