【2022年6月13日 東京大学大学院理学系研究科・理学部】

星の材料となるガスが大量に集まった巨大分子雲では、多数の星が集まった星団や、太陽の約8倍以上の質量を持つような大質量星が形成される。大質量星の強烈な輝きは分子雲のガスを電離したり吹き飛ばしたりして、星の形成がそれ以上進むのを止めてしまう。オリオン座大星雲M42はこのような領域の一つで、電離した水素が発する赤やピンクの光は、その場所で星形成が終わってしまったことを意味する。

オリオン座大星雲
オリオン座大星雲。θ^1 Ori Cはオリオン座大星雲で最も大質量で明るい恒星で、星団の中心部に存在する。NU Oriとθ^2 Ori Aも大質量星で、重力相互作用によって星団中心から弾き出された星と考えられる。赤〜ピンクの部分は高温の電離水素で満たされた電離領域、星団の左上の黒っぽい部分は低温の水素分子ガスが集まる領域(分子雲)。分子雲の中では、新しい星が生まれつつある(提供:NASA, ESA, M. Robberto (Space Telescope Science Institute/ESA) and the Hubble Space Telescope Orion Treasury Project Teamを改変)

オリオン座大星雲では、星形成の中心となった星団の外側にも電離領域が広がっている。東京大学の藤井通子さんたちの研究チームは分子雲での星団形成をシミュレーションし、星団で生まれた大質量星が外側へ弾き出されることで電離領域を押し広げていることを明らかにした。

多数の恒星が互いに重力で影響を及ぼし合う星団のシミュレーションは、膨大な計算量を必要とする。そのため、従来の星団形成シミュレーションでは、近接遭遇した星の間に働く重力を実際より弱めて計算することでコストを抑えていた。だが、これでは星同士が大きく近づいたときの作用で星団から弾き出される効果が再現できない。

藤井さんたちは新しいシミュレーションコード「ASURA+BRIDGE」を開発し、星同士の重力は正確に計算しつつ、星間ガスと星との間の相互作用に一定の近似を加えることで高速化を実現した。計算は国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」で実行した。

シミュレーションによって描き出された形成途中の星団
シミュレーションによって描き出された形成途中の星団。(青白い点)恒星、(赤)低温のガス、(緑)高温のガス(提供:藤井通子、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

星団から星が弾き出される効果を加味したシミュレーション結果と観測結果を比較したところ、オリオン座大星雲に見られる大質量星の速度分布がシミュレーションで弾き出された星のものと同じであることがわかった。これは、大質量星が星の材料となる低温・高密度の分子ガスが多く存在する星団の中心部で生まれ、星同士の重力相互作用によって中心部から弾き出されていることを示している。

オリオン座大星雲にある大質量星の速度分布
オリオン座大星雲にある大質量星の速度分布(提供:東京大学大学院理学系研究科・理学部リリース)

星団から大質量星が外側の分子雲へと弾き出されると、星は星団外縁部の分子ガスを電離し、その星を中心とした泡状の電離領域を形成する。オリオン座大星雲の場合、こちらから見て手前側に電離領域が広がっている一方、奥側にはまだ分子雲が存在し、星形成を続けている。

シミュレーションで再現された星団の中心部の断面図とオリオン座大星雲の中心領域の断面の模式図
(上)シミュレーションで再現された星団の中心部の断面図、(下)オリオン座大星雲の中心領域の断面の模式図。右側が観測者側でa→b→cの順に時間が進む。星印は大質量星、矢印(上:白、下:黒)は星の進行方向を示す。星団中心から観測者側に大質量星が飛び出す時に、星団中心付近を覆っていた分子雲に穴が空き、電離領域が広がる(提供:東京大学大学院理学系研究科・理学部リリース)

オリオン座大星雲の星団は中規模であり、より多くの星を含む大規模な星団の形成過程はまだシミュレーションで再現されていない。研究チームは今後、大きな星団や銀河の形成過程と、それらの中で大質量星が果たす役割を明らかにしていきたいとしている。

(Youtube動画)

「ASURA+BRIDGE」を用いた星団形成シミュレーションの動画(提供:国立天文台天文シミュレーションプロジェクト)