【2022年6月14日 カブリ IPMU】

2009年、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」が、天の川銀河の中心方向からのガンマ線を観測した。このガンマ線の強さが、銀河中心方向に存在する既知の天体だけでは説明できないものだったことから注目を集め、銀河中心部に高密度で存在するはずの暗黒物質の対消滅が過剰ガンマ線の原因とする仮説も登場している。

天の川銀河中心部のガンマ線放射の分布図
天の川銀河中心部のガンマ線放射の分布図。(左)1.0〜3.16GeVのガンマ線をとらえた未処理画像。(右)未処理画像から既知のガンマ線源を取り除いたもの。銀河中心から5000光年の距離まで過剰なガンマ線放出が広がっている(提供:T. Linden, Univ. of Chicago)

暗黒物質は球殻あるいは楕円体状に分布しているはずなので、そこからガンマ線が発せられているなら球状や楕円状に広がって観測されるはずだ。しかし実際には、ガンマ線は棒状に伸びた分布をしている。こうしたことから、ガンマ線を発しているのは暗黒物質ではなく、観測可能な(しかし隠れている)天体や物理現象だという見方が強まっていた。その候補としては、銀河中心領域での星形成、分子ガスと高エネルギー粒子の衝突、高速で自転している中性子星であるミリ秒パルサーなどが挙げられている。

オーストラリア国立大学のAnuj Gautamさんたちの国際共同研究チームは、このミリ秒パルサーが過剰ガンマ線の原因だという説を発表した。パルサーは大質量星が寿命を迎えて超新星爆発を起こした後に残されることが多いが、爆発の反動で中性子星が加速されると、天の川銀河の中心部で発生したとしてもそこから飛び出してしまうと考えられる。

そこで研究チームは、太陽のような小質量星の成れの果てである白色矮星がさらに崩壊して中性子星になるというシナリオに着目した。白色矮星のすぐ近くに伴星があれば、そこからガスが流入して質量が増えていく。そしてチャンドラセカール限界と呼ばれる臨界質量(太陽質量の約1.4倍)に達すると、白色矮星は自分の質量を支えられなくなる。このとき、主に炭素と酸素からなる白色矮星であれば、炭素の核融合が爆発的に進行することでIa型超新星となり、跡形もなく吹き飛んでしまうが、酸素とネオンからなる白色矮星の場合は爆発せずに、重力崩壊を起こして中性子星になる。「降着誘発崩壊(Accretion-Induced Collapse, AIC)」と呼ばれるこの過程であれば、形成された中性子星は加速されることなく、元あった場所にとどまることができる。

ミリ秒パルサーの想像図
伴星から質量を奪い続けることで回転を速めるミリ秒パルサーの想像図(提供:NASA)

AICシナリオは、現在までに約300個見つかっているミリ秒パルサーのうち半数が球状星団で発見されているという事実とも合致する。超新星爆発で誕生した中性子星の多くは球状星団から飛び出してしまうはずだ。同様に、天の川銀河の中心方向でも、多数のミリ秒パルサーが飛び出すことなく集団を形成していると考えられ、個々のパルサーは観測できなくても全体としてフェルミがとらえたガンマ線を放出しているのだと説明できる。

今回の研究で、天の川銀河中心部に今まで知られていなかった天体が潜んでいる証拠が得られたことになり、天の川銀河における星形成の歴史に光を当てることができそうだ。アンドロメダ座大銀河(M31)などでも過剰なガンマ線が検出されており、ミリ秒パルサーはその答えになり得る。