【2022年6月15日 大阪大学】

質量が大きい恒星が死を迎えると、ブラックホールになると考えられている。これまでに一生を終えたであろう大質量星の数を考えれば、天の川銀河の中だけで億単位のブラックホールが存在していてもおかしくない。だがブラックホールは自ら光を発することがないため、その存在は(銀河中心の超大質量ブラックホールを除けば)単独では見つけられていなかった。これまでに発見されてきたブラックホールは、連星系を構成していて伴星から流入するガスが輝いている様子から検出されたものだ。最近ではブラックホールの合体による重力波も検出されているが、宇宙におけるブラックホールの存在量を見積もる上では、単独のブラックホールをとらえる必要がある。

そのままでは観測できない単独ブラックホールも、重力マイクロレンズ現象を引き起こせばとらえられる。これは、遠くにある星の手前を別の天体が通過すると、手前の天体の重力で歪んだ空間がレンズのように働き、遠い星が一時的に増光するというものだ。この手法によって(レンズ源となった)多くの系外惑星が発見されているが、レンズ源がブラックホールという現象ももちろん起こりうるので、そこから単独ブラックホールの存在を検出することが可能となる。

重力マイクロレンズ現象の概念図
重力マイクロレンズ現象の概念図。この例では、実際にはブラックホールの後ろにある星からの光が、ブラックホール周囲の歪んだ空間を通ることで経路が曲がった上に増幅し、実際よりも明るく輝いて見える。また、位置も実際より左に見える(提供:NASA, ESA, STScI, Joseph Olmsted)

複数の研究チームが重力マイクロレンズ現象をとらえるための探査を実施しているが、天の川銀河内でおよそ3万件見つかった事象のうち、ブラックホールが引き起こしたと断言できるものはなかった。

そのような中、2011年に日米とニュージーランドによる探査プロジェクト「MOA(Microlensing Observations in Astrophysics)」がへびつかい座の方向で発見した現象「MOA-2011-BLG-191」が、ブラックホールによる重力マイクロレンズ現象かもしれないという。この現象はポーランド・米国・チリなどの探査プロジェクト「OGLE(Optical Gravitational Lensing Experiment)」でも独立に発見している。増光は270日間続いたが、このように増光期間が長いと、重力マイクロレンズ現象のレンズ源がブラックホールという可能性が高くなる。

米・宇宙望遠鏡科学研究所のKailash C. Sahuさんたちの研究チームは、この現象をハッブル宇宙望遠鏡で観測し、奥の星が本来の位置から約1ミリ秒角(360万分の1度)ずれていることなどをとらえている。このような結果から、手前の天体は地球から約5150光年の距離にあって太陽7.1個分の質量を持つブラックホールだと結論づけた。

ブラックホール候補による重力マイクロレンズ現象によって星の明るさが変化する様子
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた重力マイクロレンズ現象。(拡大図)一番左の2011年8月8日では矢印の星が増光している。2011年10月31日にはやや減光していて、2012年9月9日や2017年8月29日では元の明るさに戻っている(提供:NASA, ESA, Kailash Sahu (STScI); image processing by Joseph DePasquale (STScI))

これに対して、米・カリフォルニア大学バークレー校のCasey Y. Lamさんたちの研究チームの分析では、天体までの距離は2280〜6260光年、質量は太陽の1.6倍から4.4倍だという。質量が太陽の2.2倍以上であればブラックホールかもしれないが、それ以下なら中性子星だということになる。

いずれにせよ、一生を終えた恒星の暗い残骸が、他の星を伴わずに単独でさまよっているのが発見されたのは、これが初めてだ。仮にブラックホールだったとすれば、統計的に考えて天の川銀河には約2億個のブラックホールが存在することになる。これは、これまで理論的に考えられてきた数とほぼ一致する。

(Youtube動画)

今回の研究成果の紹介動画「Berkeley scientists find a way to "see" invisible black holes」(提供:Herve Bouy (University of Bordeaux), Teun van der Zalm and the COSMIC-DANCE team)