【2022年6月20日 すばる望遠鏡】

太陽系の小天体の中には、他の天体からの重力で軌道が不安定になってしまうものがある。そうした天体の中には太陽への接近を繰り返して尾を伸ばす彗星となり、最後は太陽に突入してしまうものもあると考えられる。太陽に接近するこのような彗星を通常の手段でとらえるのは難しく、これまでに見つかったもののほとんどは、太陽観測衛星SOHOなどが偶然とらえたものだ。

だが、観測の難しさを考慮しても、太陽に接近中の彗星の発見数は理論的な予想よりもはるかに少ない。このことは、彗星が太陽に突入する前に、接近した時点で何らかの作用で破壊されてしまいやすいことを示唆している。

マカオ科学技術大学の許文韜さんたちの国際研究チームは、米・ハワイ島マウナケア山頂の望遠鏡群を駆使し、太陽に非常に近づく周期彗星323P/SOHO(以下323P)を太陽接近前後に観測し、その核が崩れていく様子をとらえることに成功した。

323Pは約4.2年の周期で公転していて、最も太陽に近づくときには水星軌道よりも内側に入り込む。軌道の不定性が大きく位置を特定しにくい彗星だが、許さんたちは広視野と高感度を持つすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」を用いて、2020年12月に太陽へ近づきつつあった323Pの姿を初めて地上からとらえた。こうして323Pの軌道を把握した研究チームは、323Pが太陽への最接近を終えて遠ざかりはじめた2021年2月にカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)やジェミニ北望遠鏡等を用いて追観測を行った。

323P
323P。(左)太陽接近前、2020年12月21日にすばる望遠鏡が撮影、(右)太陽接近後、2021年2月11日にCFHTが撮影。接近前は点状(線は背景の恒星)だが、接近後は長い尾が伸びている(恒星は除去)(提供:国立天文台ハワイ観測所/CFHT/Man-To Hui/David Tholen)

太陽最接近の前には323Pは点状に写っていたが、太陽接近後には塵を放出し長い尾を引いていた。太陽からの強い放射によって彗星核に圧力がかかり、その一部が破壊されて塵の放出が生じたと考えられる。「氷の塊に熱い飲み物をかけると割れるのと同じようなものです」(許さん)。

太陽のごく近くを回る彗星から放出される物質がはっきりと観測されたのは、今回が初めてのことだ。太陽に近づくことで彗星核が崩れ、断片化してしまうために観測数が理論値よりも少ないという予想が、今回の研究で裏付けられたことになる。今回の観測に基づいて323Pの軌道を正確に決定したところ、この彗星は2000年以内に太陽に突入して消滅する運命にあることが示された。323Pは断片化に耐えたとしても、先行きは長くないかもしれない。

今回の観測では新しい謎も増えている。まず、明るさの時間変化からは、323Pは既知のどの彗星よりも速い30分の周期で自転していることがわかった。また、表面物質の組成を反映していると考えられる彗星の色は、他の彗星と大きく異なっており、顕著な時間変化も観測された。これらの特徴は、太陽にごく近い環境でのみ生じる物理的プロセスによって生じたのかもしれない。