【2022年7月25日 ヨーロッパ南天天文台】

ベルギーのルーベン・カトリック大学とヨーロッパ南天天文台の研究者たちを中心としたチームは、ブラックホールの可能性があるとされた天体を精査すべく追加観測を行っている。その多くを「ブラックホールではない」と否定していることから、研究チームには「ブラックホール警察」というあだ名が付けられている(参照:「「一番近いブラックホール」の存在、否定される」)。そんな風に偽物の指摘を続けてきたチームから、本物を見つけたという発表があった。

「警察」がとらえた「ホシ」は、天の川銀河の衛星銀河である大マゼラン雲にあるVFTS 243だ。大マゼラン雲内のタランチュラ星雲(NGC 2070)のあたりにある約1000個の大質量星の観測から、VFTS 243が見つかった。太陽の9倍以上の質量を持つブラックホールが、太陽質量の約25倍の青い高温星と連星系を構成していると考えられている。

連星系VFTS 243の想像図
連星系VFTS 243の想像図。青い星の大きさはブラックホールの約20万倍あり、描かれている連星系の大きさは実際のスケールとは異なる。また、ブラックホール周辺の歪みは、暗く描かれているブラックホールを目立たせるためのもの(提供:ESO/L. Calçada)

ブラックホールの多くは、周囲から物質を引き寄せる過程で加熱させ、X線を発することで見つかっている。VFTS 243のブラックホールはそのようなX線がほとんど検出されない「穏やかな」もので、こうしたブラックホールが天の川銀河の外で見つかったのは初めてだと研究チームは主張している。VFTS 243の場合、青い星の輝きのぶれから伴星の存在がわかり、その伴星が通常の恒星であれば発するはずの光が検出されないことから、ブラックホールだと確認された。

研究チームを率いたルーベン・カトリック大学のTomer Shenarさんは「ブラックホールかもしれないという話の誤りを指摘するということを何年も続けてきた研究者として、この発見に関しても私は非常に懐疑的でした」と述べている。そのShenarさんが「ブラックホール・デストロイヤー」と呼ぶ米ハーバード・スミソニアン天体物理学センターセンターのKareem El-Badryさんも、発見を疑ってかかっていたようだ。「Tomerさんに再確認を頼まれた際にも、私なりの疑問がありました。しかし、ブラックホール抜きでそのデータをうまく説明できる方法が見つからなかったのです」。

VFTS 243のように星間の相互作用がほとんどないブラックホール連星は、「ブラックホールは超新星爆発とともに生まれるか」という疑問に答えてくれるものと考えられる。超新星爆発の衝撃と飛び散った物質はブラックホールの軌道に少なからぬ影響を及ぼすが、もしブラックホールの周りにX線を発するほどの物質があれば、そうした爆発の痕跡は消されてしまうからだ。

「VFTS 243のブラックホールを形成した恒星には、爆発の痕跡が見当たらず、きれいに崩壊してしまったようです。このような『直接崩壊』シナリオの証拠は最近得られつつありますが、私たちの成果はおそらく、それを最も直接的に示す例の一つと言えます。宇宙におけるブラックホール合体の起源を考える上で、非常に重要な意味を持つ結果です」(Shenarさん)。

「警察」と呼ばれる研究チームではあるが、自分たちの結果を逆に厳しく監視することを奨励している。さらに今回の成果が、天の川銀河や大小マゼラン雲に何千個もあると思われる、大質量星を周回する恒星質量のブラックホールの発見につながることを期待している。

(Youtube動画)

研究紹介動画「Zooming in on VFTS 243」(提供:ESO/Digitized Sky Survey 2/N. Risinger (skysurvey.org)/R. Gendler, ESO/M.-R. Cioni/VISTA Magellanic Cloud survey. Acknowledgment: Cambridge Astronomical Survey Unit. Music: John Dyson)