【2022年11月21日 国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト】

無数の星の集まりである私たちの天の川銀河は、小さな銀河を取り込みながら長い時間をかけて現在の形に進化したと考えられている。その過程を解き明かす手がかりとなるのが、今の天の川銀河に存在する恒星たちの元素組成だ。水素やヘリウムより重い元素のほとんどは星の核融合反応などによって合成されているので、星に含まれる元素から、その星が生まれる前の環境や銀河の歴史を読み取ることができる。

元素の中でも、鉄より重い金やプラチナのような貴金属は通常の核融合では生成されず、中性子星の合体といった極端な高密度環境で合成されたと考えられる。そうした貴金属を豊富に含む星がいくつも見つかっており、さらにその多くは太陽と大きく異なる軌道で天の川銀河の中を動いていることがわかっている。だがこのような恒星がいつ、どのように誕生したのかは、大きな謎とされてきた。

東北大学の平居悠さんたちの国際研究チームは、貴金属に富んだ星の起源を解明するために、国立天文台が運用する天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII 」によるシミュレーションを実施した。仮想の天の川銀河が138億年前の宇宙誕生から現在まで成長していく過程を、従来の10倍高い解像度で計算している。

銀河形成シミュレーションによる星とガスの分布
銀河形成シミュレーションによる星とガスの分布。黄色が星、水色がガスを表す(提供:平居悠)

酸素や鉄のような元素は星の中で作られ周囲にまき散らされていくため、後から生まれた恒星ほど多く取り込んでいる。一方で今回のシミュレーションによると、さらに重い元素はこの傾向に当てはまらず、鉄より重い元素に富んだ星の9割以上の星は宇宙誕生から40億年以内に形成されたという。

鉄までの元素はいたるところで合成されているが、鉄より重い元素を生み出す中性子星合体のようなできごとは極めて珍しい。そうした元素が大きな銀河の中で生成されると、時間とともに拡散するので、多く取り込める恒星は限られる。しかし銀河がごく小さければ、一度の中性子星合体によって鉄より重い元素は銀河全体に充満し、その後生まれる星にも取り込まれる。

100億年以上前の宇宙には、まだ形成途中の小さな銀河が数多く存在した。鉄より重い元素に富んだ星はこうした小銀河の中で生まれ、やがてその銀河ごと天の川銀河に取り込まれたとみられることを、今回の結果は示唆している。

鉄の量と星が生まれた時刻の関係
シミュレーションから得られた鉄の量と星が生まれた時刻の関係。赤点が鉄より重い元素に富んだ星。それ以外を含めた全ての星は小さな点で表示されていて、黄・緑・青の順に多く集まっていることを示す(提供:Hirai et al.)

今回のシミュレーションによる元素の分布は、すばる望遠鏡などで実際に観測された分布ともよく一致していた。この研究により、鉄より重い元素に富んだ星を指標とすることで、100億年以上前の天の川銀河の形成史を探ることが可能になったといえる。平居悠さんたちは今後、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」によるシミュレーションやすばる望遠鏡などによる観測を駆使して、138億年にわたる天の川銀河形成史の解明を目指すという。

(Youtube動画)

今回のテストシミュレーションの映像。実際に行われたシミュレーションの100分の1の解像度で計算したもの。黄色く輝くのが星、淡く雲のように広がって描かれているものがガスを表す(シミュレーション:斎藤貴之(神戸大学/東京工業大学 ELSI)、可視化:武田隆顕(VASA Entertainment Co. Ltd))