【2022年11月28日 アルマ望遠鏡】

ほぼ全ての銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在するが、一部の銀河ではこのブラックホールに大量のガスが流れ込むことによって莫大なエネルギーが解放されている。そのような銀河では中心核が極めて明るく輝くため、遠方からは恒星のような点光源に見えてしまう。

おとめ座の方向にある電波源3C 273も可視光線では恒星のように見えるが、実は遠く離れた銀河であることが1963年に判明した(現在の推定距離は約24億光年)。それ以来、3C 273のような天体は「クエーサー」と呼ばれている。3C 273は発見が早かっただけでなく、私たちに最も近いクエーサーの一つでもあるため、盛んに観測されてきた。

超大質量ブラックホールへと落ち込んだガスの一部は、光速近くまで加速されて細く絞られたジェット構造を形成する。3C 273にもジェットがあり、長らく研究が続けられてきたが、ジェットの形成過程にはまだ謎が多い。そこで、東京大学の沖野大貴さんたちの研究チームは、高い感度と分解能の電波観測で3C 273のジェットの根元に迫った。「近傍に位置する3C 273は、クエーサーから噴出するジェットを研究する上で最も理想的な天体です。しかしこのような近傍のクエーサーであっても、強力なプラズマ流が形作られる中心部の構造を詳しく見ることはこれまでできませんでした」(沖野さん)。

極めて高い感度と空間分解能を必要とする今回の観測は、大陸をまたいでいくつもの電波望遠鏡が連動するグローバルミリ波VLBIアレイ(GMVA)に、チリのアルマ望遠鏡を組み合わせた「GMVA+ALMA」と呼ばれる観測網によって実現した。これと並行して、欧米の電波観測網である高感度アレイ(HSA)でも観測を行い、より広い撮影範囲でジェットをとらえた。

今回の観測で使用されたVLBI観測網のイラスト
今回の観測で使用されたVLBI観測網のイラスト。(青)アルマ望遠鏡が初めて参加したグローバルミリ波VLBIアレイ(GMVA)。(黄色)高感度アレイ(HSA)。各ネットワークに参加した望遠鏡を点で、それらを結ぶネットワークを線で可視化している(提供:Kazunori Akiyama)

GMVA+ALMAによる画像では、ジェットの根元に最も近い最深部が初めてとらえられた。その結果、クエーサーから放出されたガスは一度に狭められるのではなく、広範囲にわたって徐々に絞り込まれていることがわかった。絞りこみが起こっている領域は、超大質量ブラックホールの重力が影響する領域を超えてはるか遠方まで続いていた。

3C 273から噴き出すジェット
3C 273から噴き出すジェット。(左)電波観測網GMVA+ALMAがとらえた、根元から数光年の最深部。(中央)もう少し広範囲を電波観測網HSAでとらえた画像。(右側)ハッブル宇宙望遠鏡が可視光線でとらえた3C 273。10万光年以上離れたところに到達したジェットが右下に見えている(提供:Hiroki Okino and Kazunori Akiyama; GMVA+ALMA and HSA images: Okino et al.; HST Image: ESA/Hubble & NASA)

「非常に活動的なクエーサーにおいて、ジェットの強力なプラズマ流が広範囲にわたって徐々に絞り込まれていたことはとても興味深い発見です。このようなジェットの絞り込みの様子は、近傍のより暗く活動度の低い超大質量ブラックホールでこれまで発見されてきました。活動性の全く異なる超大質量ブラックホールで、なぜ同じようにジェットが絞り込まれるのか、これは今回の観測で新たに浮かび上がった謎です」(米・ヘイスタック天文台 秋山和徳さん)。

今回の成果は、様々な超大質量ブラックホールから噴出するジェットの絞り込み過程の解明に向けて新たな扉を開くものだ。「超大質量ブラックホールから噴き出すジェットの最初の発見から100年以上が経ちましたが、その形成メカニズムは未だに解明されていません。ALMAとGMVAによる今回の観測で形成メカニズムの理解が進展しましたが、将来さらに高い解像度で観測することで、これまで以上に深い理解を目指したいと考えています」(国立天文台 アルマプロジェクト 永井洋さん)。