【2023年11月6日 名古屋大学/JAXA宇宙科学研究所】

地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)には、地球磁場の勢力範囲である「磁気圏」が存在し、電気を帯びた粒子がプラズマとなって存在する。

磁気圏のプラズマ粒子の主な源は、太陽から吹き出した太陽風だ。太陽風の粒子は地球の夜側にある「プラズマシート」という領域に侵入し、地球から約6万km以内の「内部磁気圏」という領域まで運ばれる。一方で、地球の超高層大気である電離圏にも、地球大気の分子が壊されてできた水素イオンや酸素イオンがプラズマとして存在し、宇宙空間へ流出している。

太陽風が激しくなると、ジオスペースは「宇宙嵐」という状態になり、荷電粒子が増えて活発なオーロラが見られたり、地球の超高層に強い電流が流れたりする。特に強い宇宙嵐は人工衛星の故障を引き起こすなど、私たちの生活にも大きな影響を及ぼす。そのため、宇宙嵐の研究は最重要のテーマだ。

これまで、宇宙嵐は太陽風の水素イオンが内部磁気圏で大きく増えるせいで起こると考えられてきた。地球起源のプラズマにも水素イオンは含まれているのだが、太陽風起源と地球起源の水素イオンを区別できないため、地球起源のプラズマが宇宙嵐にどんな影響を及ぼしているのかはよくわかっていなかった。

米・ニューハンプシャー大学/名古屋大学のLynn Kistlerさんたちの研究チームは、2017年9月7日から10日に発生した宇宙嵐について、JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」、NASAの磁気圏観測衛星群「Magnetospheric Multiscale(MMS)」、太陽風観測衛星「Wind」、ヨーロッパ宇宙機関の地球磁気圏観測衛星群「Cluster」という日米欧の科学衛星が観測したデータを組み合わせて詳しく解析した。

太陽風とジオスペースの観測
日米欧の観測衛星による太陽風とジオスペースの観測の様子。太陽は画像の左にあり、太陽風の粒子が地球に吹き付けている。4つの衛星ミッションではそれぞれ異なる位置・高度で観測を行っている。(提供:ERG science team)

研究チームは、太陽風からやってくるイオンと地球起源のイオンを区別するために、太陽風にしか含まれていないアルファ粒子(ヘリウム4の原子核)に注目した。水素イオン・酸素イオン・アルファ粒子の密度を、「Wind」(太陽風内部)、「MMS」(高度40000〜80000km付近)、「あらせ」(高度40000km以下)のデータで比較したのだ。もし、水素イオンとアルファ粒子の割合が「あらせ」と「Wind」のデータでほぼ同じなら、「あらせ」が検出した水素イオンは太陽風起源であり、逆に大きく異なれば地球起源だと言えることになる。

解析の結果、宇宙嵐の発達を境にして興味深い変化がみられた。9月7日20時(世界時、以下同)までは「あらせ」が検出した水素イオンは太陽風起源だったが、同日21時以降に宇宙嵐が発達すると、「Wind」と「あらせ」が検出したイオンの割合が大きくずれはじめた。つまり、この時点で「あらせ」が検出した水素イオンは地球起源であることがわかったのだ。さらに宇宙嵐が進行すると、地球起源の酸素イオンの量が水素イオンの量を上回り、酸素イオンが宇宙嵐の発達に大きく関わっていることも判明した。

2017年9月7日の宇宙嵐
2017年9月7日に発生した宇宙嵐の観測データ。横軸は世界時。(上)宇宙嵐の大きさを示す指標(単位:nT=10億分の1テスラ)。この値がマイナスに振れるほど強い宇宙嵐であることを示す。9月8日1時に最大となった。(中)「あらせ」が内部磁気圏で計測した水素イオン・酸素イオン・アルファ粒子の密度。宇宙嵐の進行につれて酸素イオン(青)が水素イオンを上回った。(下)アルファ粒子と水素イオンの割合。太陽風(黒)、プラズマシート(赤)、内部磁気圏(青)での計測結果。9月7日20時ごろまでは内部磁気圏のイオンは太陽風起源が主だったが、宇宙嵐の発達とともに地球起源のイオンが主となった(提供:Lynn et al., 2023)

今回の結果から、宇宙嵐を引き起こすプラズマは太陽風よりも地球起源の水素イオンの方が主成分であること、さらに、宇宙嵐が進行するにつれて主成分が水素イオンから酸素イオンへと変化することがわかり、地球起源のイオンが宇宙嵐を発達させる主な要因を担っていることが示された。今後の宇宙嵐研究では、太陽風だけではなく地球大気の影響も考慮に入れる必要がありそうだ。