【2023年11月7日 NASA】

NASAの「ルーシー」は、火星と木星の間にある「メインベルト」の小惑星を2個、さらに木星軌道上にある「トロヤ群小惑星」を6個探査する探査ミッションだ。2021年10月16日に打ち上げられ、2022年10月16日に地球でスイングバイを行ってメインベルトへと向かった。

11月1日、ルーシーの最初の目標である小惑星「ディンキネシュ((152830) Dinkinesh)」へのフライバイ観測が行われ、画像が公開された。「ディンキネシュとは、ミッションの名前にもなったアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)の有名な化石「ルーシー」の別名で、アムハラ語で「あなたは驚くべき者(素晴らしい者)だ」という意味を持つ。

ディンキネシュ
11月1日16時55分(世界時)に「ルーシー」のカメラ「L'LORRI」で撮影された小惑星ディンキネシュと、その背後から現れた衛星の姿。撮影時の距離は約430km(提供:NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOIRLab)

「ディンキネシュはその名の通り、驚くべき天体でした。ルーシーがNASAのミッションに選定された当時は7個の小惑星をフライバイ観測する計画でしたが、のちにディンキネシュが追加され、さらに2個のトロヤ群小惑星の衛星と今回の衛星が見つかって、観測対象は計11天体になりました」(米・コロラド大学ボルダー校、ルーシー主任研究者 Hal Levisonさん)。

ルーシーは最接近の数週間前から、ディンキネシュに光度変化が見られることを検出していて、運用チームではこの天体に衛星があるのではと考えていた。今回のフライバイによって、ディンキネシュが衛星を持つ「近接二重小惑星」であることが確認された。解析によるとディンキネシュの直径は約790m、衛星の直径は約220mと推定されている。「はやぶさ2」が探査したリュウグウ(直径約900m)と「オシリス・レックス」が探査したベンヌ(直径約500m)のほぼ中間のサイズだ。

今回のフライバイには、ルーシーが目標天体に接近し、自律的に追尾し続けるための「最終追尾システム(Terminal Tracking System; TTS)」をテストするという目的もあった。ルーシーは木星軌道という地球から遠く離れた場所で、直径が小さく位置データの精度も良くない小惑星に確実にフライバイしなければならない。そのための自律誘導システムがTTSだ。

ディンキネシュと衛星
フライバイの際にルーシーの最終追尾システム(TTS)のカメラ「T2CAM」で撮影されたディンキネシュと衛星の連続写真。13秒間隔で撮影されている。ディンキネシュに対して衛星が動いているように見えるのは、衛星の公転運動ではなく、探査機が天体に対して秒速約4.5kmで相対運動しているため(提供:NASA/Goddard/SwRI/ASU)

「一連の画像は素晴らしいものです。これらの画像は、宇宙が私たちに(二重小惑星という)予想以上に難しい目標を与えた場合にも、システムが意図通りに動作したことを示しています。事前にシミュレーションし、試験し、訓練することと、それが実際に実現することは全く別物なのです」(航法誘導エンジニア Tom Kennedyさん)。

一方、科学者チームも今回得られたデータを興味深く眺めているという。

「ディンキネシュは過去に近接観測されたメインベルト小惑星の中では最小の天体になります。ディンキネシュが2個の天体からなるという事実によって、探査はさらにエキサイティングなものになります。ディンキネシュはいくつかの点で、『ダート』(2022年)が撮影した地球接近小惑星、ディディモスとディモルフォスのペアに似ていますが、非常に興味深い相違点もあり、今後はこれらの点を調べることになるでしょう」(NASAゴダード宇宙飛行センター、ルーシープロジェクト科学者 Keith Nollさん)。

今回のフライバイで得られたデータをルーシーから受信し終わるには、あと1週間ほどかかる見込みだ。運用チームでは今回のデータを、フライバイ時の探査機の挙動を評価するために活用し、2025年に予定されている次のメインベルト小惑星、ドナルドジョハンソン((52246) Donaldjohanson)へのフライバイに備えることにしている。さらに2027年には木星軌道に到着し、ミッションの目玉であるトロヤ群小惑星への接近観測が始まる。